学校から家庭へ――ジャスト、専用タブレットを用いた小学生向け通信教育を開講

ジャストシステムが専用タブレットを用いた小学生向け通信教育「スマイルゼミ」を12月17日から開講する。「その日のうちに解決できる」「子ども達が夢中になる」「自ら学習し、習慣化できる」サービスだと自信を見せる。

» 2012年11月20日 19時30分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
発表会で展示されていた専用タブレット

 ジャストシステムは11月20日、専用タブレットを用いた小学生向け通信教育「スマイルゼミ」を12月17日から開講すると発表した。受講費は月額2980円からで、同日からタブレットを無料で提供するキャンペーンを実施する。

 同社が小学生向け学習支援ソフトとして1999年にリリースし、現在では全国の公立小学校の約8割で導入されている「ジャストスマイル」のノウハウを基に、専用タブレットとクラウドを利用した新しい家庭学習サービスを立ち上げる。

 学習に用いるタブレットは9.7インチのAndroidタブレットで、学習指導要領に基づいた国語、算数、理科、社会(理科社会は3〜6年生から)の教材が毎月1回配信(全20講座程度、1講座20分程度の所要時間)されるほか、漢検ドリル、計算ドリルも用意されている。基本的にはスマイルゼミのアプリのみ利用できる専用端末となっている。背面カメラとスピーカー、マイク、microSD/SDHCスロットが搭載されているほかは、比較的シンプルなタブレットで、重さは約600グラム。初代iPadを感じさせるフォルムだ。

植松繁事業部長 ジャストシステム ライセンス事業部の植松繁事業部長

 同日には発表会が行われ、スマイルゼミを管轄する同社ライセンス事業部の植松繁事業部長は、家庭学習のサービスを新たに展開する意図について、学習指導要領の改訂による学習の変化と、国が進める教育のICT化に伴う「児童生徒1人1台の情報端末整備」を見据えた動きであることを挙げた。

 学習指導要領は、教育課程における各教科などの目標や大まかな教育内容を定めたもの。ほぼ10年ごとに改訂されているが、「生きる力」をテーマに、いわゆる「ゆとり教育」と呼称された2002年度学習指導要領から、2011年度学習指導要領が段階的に実施されている状況にある。

 植松氏は、学習指導要領の改訂による学校教育の変化を、授業時数や教科書のページ数などを挙げて紹介、新しい学習指導要領について、「対応を誤ると落ちこぼれの生徒を生み出すかもしれないと危惧(きぐ)している」と話す。2011年度学習指導要領では、教科書ページ数で2002年度学習指導要領の約1.5倍のボリュームになる一方で、授業時数は約1.1倍にとどまっており、結果、学校での学習進度は速まり、それについて行けない生徒が増えてしまうことが危惧(きぐ)されるという。

 「まったく時間が足りない。(学校の教育現場では)内容をはしょっていかなければならない現状が起きている。それは家庭学習で補うしかない。小学校の学習は基礎・基本であり、その日のうちに復習・解決し、それを習慣化させることが重要」と話す。

 こうした家庭学習で現在一般的なのは通信添削や学習塾/家庭教師だが、前者は「その日のうちに解決できない」、後者は「毎日行かない・費用が掛かる」などの課題があるとし、それを解決するものとして今回「スマイルゼミ」を発表するに至ったとした。

親が言わなくても子どもが自発的に取り組みたくなるものを

ジャストシステム ライセンス事業部の寺尾房代さん

 スマイルゼミが掲げるのは、「その日のうちに解決できる」「子ども達が夢中になる」「自ら学習し、習慣化できる」家庭学習サービス。従来の通信教育との違いは、タブレット端末を採用している点だ。自分専用のタブレットとして子どもの所有欲も満たせると同社はみている。

 植松氏の後に登場した寺尾房代さんは、スマイルゼミの企画責任者。寺尾さんは「タブレットで勉強ができないというのは大きな誤解」だという。電子教科書と併せ、急速なデジタル化が進むこの領域は、韓国やシンガポールなどが先行している。

 同社調べによると、既存の通信添削講座を利用したことがある家庭は42%。一方で、すでに退会した家庭も46%と高い。退会の理由として最も多いのは、「子どもが自発的にやらない」からだという。「だから、親が言わなくても子どもが自発的に取り組みたくなるものを作ろうと考えた」と寺尾氏は話す。

 スマイルゼミの教材は、触る、見る、聞く、話すなど、五感を使う教材作りに腐心したと寺尾氏。例えば国語なら、教材の音声読み上げのほか、生徒に音読させ、それを再生する機能などを取り入れ、算数なら立方体の展開図のようなアニメーションさせることでイメージしやすくするような電子媒体としての教材作りにこだわった。動画などもふんだんに盛り込み、理解を深めるものとなっている。

タブレットを起動したホーム画面
教材イメージ。これは国語。難しい単語などには画像などへのリンクも
これは算数。立方体の展開図がアニメーションする
教材イメージ(社会)
教材イメージ(理科)

 いわゆるゲーミフィケーション的な「スターナビ」による学習支援も取り入れた。学習の順序をその学習履歴を基にナビゲーションしたり、学習成果を「スター」として可視化、スターの数でゲームアプリのアクセスが許可されるようになっており、問題の反復学習や避けがちな苦手科目に自然と取り組めるようになっている。

 ゲームアプリのアンロック前に、保護者に学習成果をメールで報告するフェーズが用意され、その行為でもさらにスターがもらえる、といった仕掛けになっている。ここから分かるように、保護者は学習の様子がリモートでも分かるようになっている。タブレットあてにコメントやスタンプを返して子どもからの報告に応えたり、保護者専用のページとして用意される「みまもるネット」にアクセスすることで、日々の学習の状況、各教科ごとの進ちょくや成績などの履歴を可視化したものを確認できる。

学習成果に応じてゲームアプリを一定時間遊べるようになっている。その前に保護者への連絡フェーズが入っている
ゲームアプリがアンロックされたところ。ここに並ぶアプリはGoogle Play上にあるアプリだが、学習に関連するようなものが並ぶとし、将来的には保護者の意見を取り入れながらラインアップを決めたいという

保護者向けのサイト「みまもるネット」ではタブレットでの学習状況が可視化されたものを見ることができる

 電子教科書をめぐっては、シャープが教育市場に向けたタブレット型学習端末を3月に発表したり、Z会のデジタル通信教育「デジタルZ」も動作確認済みのタブレットを拡充するなど、にぎやかになってきている。今回発表されたスマイルゼミは家庭学習のためのサービスだが、今後、ジャストスマイルとの連携による学校との連携なども当然視野に入っているとみられる。

 実際に小学生を集めてスマイルゼミを利用してもらった様子を紹介した動画では、「紙って文字消したりすると消しゴムのカスとか出るじゃないですか。タブレットならそういうこともないし」とコメントする子どもも。紙の教科書が緩やかに電子教科書に道を譲るストーリーは2020年に向けて加速していくだろう。その過程ではさまざまな議論もあるだろうが、当の子どもたちはそれを当たり前のように使いこなしていくだろう。子どもの勉強方法はこれから大きく変化していきそうだ。


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スマイルゼミの利用イメージPV

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