「Kindle初の日本語漫画」から3年──電子書籍×漫画はどう変わったか〜うめ・小沢高広氏インタビュー(2/5 ページ)

» 2013年01月23日 08時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

メルマガの告知を待たずに終わった『スティーブズ』の10万円コース

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―― クラウドファンディングの「CAMPFIRE」で続編制作の資金を募集して話題になった『スティーブズ』ですが、あの作品は背景をあまり描き込んでいなくて、線も全体的に太めという特徴があります。あのフォーマットはどのようにして成立したのでしょう。

小沢 スマートフォン向けに『スティーブズ』を描こうとして最初にやったのは、原稿用紙を作ることでした。漫画の原稿用紙は基本的にB4サイズの中に内枠があって、これをモノクロの600dpiなり、印刷だと1200dpiにするというフォーマットが決まっている。でも(スマホだと)そのフォーマットがない。当時はiPhone 3GSで、320×480しかドットがなかったんですよ。その中で絵を描くのは至難の業なので、まず文字の大きさから割り出したんです。

―― 以前のインタビューの際も、文字を何ポイントにしようか悩んでいるというお話をされていましたよね。

小沢 ええ、なのでまず、320×480の一画面の中でストレスにならない文字の大きさを計算して、そこから吹き出しの大きさを逆算したら、だいたい1ページに4コマが限界だろうと。そこでできあがったのがあのフォーマットだったんです。それに合わせて描いていくと、紙に比べて絵も解像度を下げないといけない。描き込んじゃうと汚らしいだけになっちゃうので、そこがすごく気を遣いましたね。

―― スティーブズはどのような経緯でCAMPFIREで展開されるに至ったんでしょうか。

小沢 最初は去年の夏、パブーの吉田さん(編注:パブーなどを運営するブクログ代表取締役社長の吉田健吾氏)から、CAMPFIREさんと一緒に何かやりたいという、ものすごいざっくりとした相談をされて。その時点ではまだうちがやる話ではなく「漫画とクラウドファンディングで何ができるか」という、もっと大きな相談だったんですね。

 クラウドファンディング自体は面白いけど、まとまったページ数を描くとすると、スケジュールが空く人はなかなかいないし、ネットと相性が良くない方を連れてきてもうまくいかない。で、話をしているうちに「スティーブズ」だったらイケるかなと思ったんです。

―― スティーブズは、単発のiPhoneアプリとしてAppleに申請してリジェクトされたことがあって、そのあとしばらく表立った動きがなかったですよね。そこで話がうまく噛み合ったと。

小沢 そうです。それまでCAMPFIREのページは見たことがなく、値段のこともよく分からなくて。パブーさんが「じゃあひな形はこっちで、CAMPFIREさんと相談して作ります」と言ってくれて。こちらはネーム段階のものはあったので、それを素材として提供したくらいでしたね。

―― その結果として向こうから、幾つか価格帯ごとのメニューが出てきて、それをブラッシュアップして形になったという。

小沢 そうですね、「何か気になる点があったら遠慮なく言ってください」って言っていただいたのをいいことに、もうものすごく(リクエストを)言っちゃったので、原型が残っているのは値段の区分けくらいですね。

―― 面白いなと思ったのは、1つは打ち上げの参加権がついてくるという話。もう1つは、複数あるコースの中で比較的高額な10万円コースが一番早く売り切れたという話。販売の告知は、Twitterだけだったんですよね。

小沢 Twitterだけです。ブクログのメルマガが、公開の2日後に出る話だったんですが、それを待たずに終わっちゃいましたね。メルマガでは「終わりました」という、よく分からない告知が(笑)。

―― 打ち上げへの参加というメニューは、どういう発想から出てきたんでしょう。プレミア感という点ではあれ以上のものはないですよね。

小沢 CAMPFIREの他のプロジェクトを見て、自分だったら欲しいものを基準に選びました。みんな面白いことを考えているんですよね。映画のプロジェクトだったんですが、役者さんも来る打ち上げに参加できるというのがあって、ファンだったらこれは楽しいなと。

―― ファンが関係者とお近づきになれる企画というのは、さかのぼっていくと「(とんねるずの)ハンマープライス」辺りにある気がします。出演権とか、漫画の中に名前が使われるとか。

小沢 ありましたね。ちょっと前にあった「ふんばろう東日本プロジェクト」というボランティア企画で、漫画イラストチャリティオークションというのがあって、その中で『大東京トイボックス』への出演権を出したところ、50万円近くの高値で落札していただいたんですね。最初は普通に色紙とかにしようと思ってたんですけど、ハンマープライスを思い出して向こうの事務局の人に話をしたらものすごくノってくれて。「じゃあ差し替えます!」って急いでやってくれて。

―― じゃあ今回は、それとはまた違うことをしようという。

小沢 そうですね。

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