「Kindle初の日本語漫画」から3年──電子書籍×漫画はどう変わったか〜うめ・小沢高広氏インタビュー(5/5 ページ)

» 2013年01月23日 08時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]
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次のクラウドファンディングは「ドラマ・アニメ化権」?

―― 今年の抱負ということで、2013年、こんなことをしたいという目標はありますか。

小沢 先日のクラウドファンディングで星海社さんが出版社枠を落札したあと、何人もの編集さんからメールをいただいたんですね。大手で「編集長が今いないからとりあえずポケットマネーで突っ込もうかと思ってた」っていう話とか。作家が出版社に入札させることに反感を持つ人もいるかなと思っていたけど、大手、いわゆる御三家の中の人たちからも連絡をいただいた。実は出版社も編集部も、描きたい作家を欲しがっているのを実感したんです。

 少し話が脇道に逸れますけど、先日発表になった、森田崇さんの『アバンチュリエ』の続篇も同じですよね。『イブニング』では打ち切りだけど作家としては続けたい。それを公開で探して、手を挙げてもらって交渉して『ヒーローズ』でやるって決まったっていうのも、似たような経緯だと思うんです。作家がオークションで編集部を選ぶのはタブーだったけど、それができる空気になってきたのは、すごくいいことだなと思っていて。

 そういう意味では、今年はネームなり原稿なりを作って、それを公開してどこかに手を挙げてもらうというのをやりたいですね。単純に原稿料だけで決められるわけではなく、いろいろな要因があるのでオークションではないけど、何かしら一緒に仕事をしてくれるところを探せると面白いかなという気はします。

―― 昔なら、編集さんは抱えてる漫画家の連絡先が他社に知れないようにガードしてたじゃないですか。今回のようなファンディングも、昔なら出版社から圧力がかかることも懸念されたと思うんですが、もうそういう空気ではなくなってきたということなんですね。

小沢 恐らくそれもさっきの“魔法”と同じだと思うんですよ。昔は作家の連絡先をたくさん知っていることは編集者の能力の1つでしたけど、メールアドレスやtwitterアカウントが公開されてる今は武器にならない。うちも昔『モーニング』でやってるときに「他誌の編集者から連絡先を聞かれたけど断っといたから」っていうのをドヤ顔で言われたり。しかも半年くらい経ってから(笑)。

―― 取り返しがつかない段階になってから言うんですね(笑)。しかしそうしたアイデアを具現化させようとすると、うめさんのマンパワーが心配ですね。

小沢 そこが問題なんですよね。今回のクラウドファンディング、パブーさんも手探りだったんですよ。僕もいろいろ口を出して、その間お互いにノウハウを貯めていって、どういう広がりをするのかが少し見えた。これをほかの人にも使ってもらいたいですね。

 赤松健さんのメルマガ(編注:Jコミ定期メルマガ『はんぺん』)で、「本業の連載を持っている作家が余暇でやるイメージでないと現実的ではない」と言われたんですけど、1歳と4歳の子供を抱えて、保育園の間しか仕事がまともにできない状態でもできたので、自分の原稿以外にコミケに参加するくらいの余裕がある人なら全然できる気がします。Jコミサイズの企画は、多分赤松さんじゃないとできませんが、クラウドファンディングであのくらいのスケール感なら、できる人はいっぱいいると思います。

―― JコミFANディングを見ていて思ったのは「人前に出してみて、売れなかったら恥ずかしい」っていうマインドが障害になっているところがあるんじゃないかと。この間のJコミのファンディングは6名の作家さんが出品していましたが、Jコミの幹部として参加された出口さんと、故人である凡天太郎さんを除けば、残る4人の方は売れ行きがかなり均等で、赤松先生はそこをきちんとコントロールしているように見える。露骨に一人だけ売れなかったりすると、すごくかっこ悪いと思うんですよね。

小沢 なるほどね。

―― 自分のファンのサイズを把握しきれないが故に、ああいうファンディングをやったときに、売れなかったらどうしよう、ちょっと恥ずかしいみたいな、そういうマインドが障害になっているところが大きいのかなと。その点うめさんであれば、前回これをやったらこういう反響があったという具合に、これまで積み上げてきたものがあるわけで。

小沢 そんな売れた経験もないので、かくほどの恥もないという。

―― マンガ大賞2012で第2位の人が何を言ってるんですか(笑)。

小沢 ぜんぜん。うちはそんなに(部数が)動かなかったですよ。(マンガ大賞2012で15位だった)『となりの関くん』の方が100万部突破でよっぽど売れたっていうね(笑)。

 ただ、新しいことなので、うまくいかなかったからといって別に作家の力だけではなくて、売り方の問題やタイミングなどいろいろな要因があるから、やってみれば? としか言いようがないですよね。その程度の失敗なんて、仮にあったところで、Twitterの世界なんて3日もすれば誰も覚えてないので。

―― 最後になりますが、『大東京トイボックス』はドラマ化やアニメ化の話はないんですか?

小沢 (記事に)書いといてください、募集中です(笑)。

―― それこそ、クラウドファンディングの出番では(笑)。

小沢 それは何千万とか、億の単位で動かさなくちゃいけなくなるので……億集まったらすごいですよね、クラウドファンディングで。一口500万円くらいで。冗談で出してみたい気はしますけどね。

―― 本当に入札されたらすごいですね。でも、まどマギの特典フィルムが108万円で売れる時代ですから、分からないですよ(笑)。

小沢 達成しないのを前提で、「やってみたらどうなるんだろう?」っていう実験企画はいいですね。

―― 賛同する作家さんを何人か集めて、絶対達成しないであろう企画をみんなで持ち寄って、誰が最初に達成するかダービーみたいな。

小沢 そうですね。最初に達成した人は残りの人に奢らなきゃいけないとか。痛み分けな感じでね。

―― いいじゃないですかそれ。

小沢 やろーかな。



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