インタビュー
» 2013年03月14日 10時00分 公開

KDPによる個人出版ブーム、老舗サービスの辿る道は:ブクログ吉田氏に聞く「パブー」の今後 (3/4)

[山口真弘,ITmedia]

完成した本ではできない独自の価値を

―― KoboやKindleなど外部ストアとの連携は御社にとって大きな出来事だったと思いますが、反響や売れ行きはどうですか? 特にKoboは外部連携の第一弾ということで、結果に興味があります。

吉田 Koboさんについては、初めての試みでどうなるか想定できない部分も多かったのですが、実際は無料の本を出している方よりも、有料の本を出している方からの反応が圧倒的に大きかったです。最初に8000冊ほど提供した際、6000冊が有料、2000冊が無料といった割合でした。有料で本を販売したい方にとっては外部ストアに出せて面が増えることは非常に魅力的に映ったようです。

 一方、無料で出している方からはそれほど引きがありませんでした。こちらとしては、むしろリスクのない無料の作品の方がどんどん出してくるのではと予想していたので、少し意外でしたね。

―― 有料の本はKoboにマージンが入る分著者の取り分が減って、無料の本は面が増えるだけでリスクはないのに、無料ユーザーはあまり乗ってこなかったのは確かに意外ですね。

吉田 ええ、読んでもらえる可能性が増えて喜んでもらえるだろうと僕らもKoboさんも思っていて、作業は大変だろうけど頑張りましょう、と事前に話をしていたんです。でも実際やってみると、パブーのコンパネにある「外部連携ストアに出す」という項目にチェックが入るのは有料のものばかりで。あとになって、有料の方は売れ行きを確認するためによくログインするという、リテンションの差もあったのかなと思いましたけれども。

―― Koboのサービスインが7月19日で、パブーの発表があったのが8月9日。ほんの3週間ほどでした。Koboとの連携は、Koboのサービスイン後にお話があったのでしょうか。サービスイン前から準備をしていたのではなく。

吉田 前からではないですね。Koboさん自体も始まってそんなに経ってなかったタイミングだったと思いますけど、ものすごいスピードでした。本当は、もっと早くリリースを出すという話があったくらいで。これまでいろんな電子書店さんと連携してきましたが、桁違いのスピードでしたね。今すぐにでもやりたいという感じで。

―― それは、他の出版社さんがそれだけ意思決定が遅いということでもありますね(笑)。ちなみに販売実績としてはどうですか?

吉田 Koboに関して言うと、そんなに突出した作品はなくて、まんべんなく売れていますね。正直に言って、KoboさんとKindleさんを比べると、Kindleさんの方がだいぶ売れますね。そこの違いはあります。

―― Koboに関してはスタートから年末までに4カ月、Kindleは実質1カ月ちょっとですが、Kindleの方が動きとしては目立っていると。

イノベーション思考の本棚

吉田 そうですね。恐らくどこの出版社さんも同じような話をされるでしょうが、やはりストアパワーとしてKindleストアは相当大きいですね。その原動力になっているのがランキングで、App Storeと同様、ランキング上位に入ると、その後下降していくにしても緩やかに売れ続けますね。小山龍介さんの「イノベーション思考の本棚」という本があって、これはパブー経由でKindleストアで販売されている本ですが、これがずっと売れていて、いまだに100位圏内に入っています(編注:取材時)。

―― 個人出版のプラットフォームとして見た場合、KDPはパブーにとってある意味でライバルに相当すると思いますが、今後はそのKDPに対してもディストリビューター的に、幅広く供給できる体制を整えていき、自社プラットフォームでの販売にはこだわらないという、そういうスタンスで動いておられるわけですね。

吉田 はい。海外だけではなく、日本の電子書店さんにも供給できる体制を早く整えたいと思っています。多くの外部ストアに出せるのは、いま電子書籍の個人出版をやりたいと思っている方たちにとって、分かりやすいメリットだろうと。「Kindleだけでいいので70%(の料率が)欲しい」という要望にはさすがに対抗できませんので、面を広げるのが戦略として重要と思っています。

 KindleやKobo、あとBookLive!などの国産ストアでもそうですが、いまの電子書店はすでに完成している本の売り場なんですね。AmazonのKDPは、データを更新してもユーザーのところにちゃんと届くか分からない。これはそもそも更新を想定した仕組みではない、頻繁にアップデートされるものではない前提があるのだと思うんです。完成された本を出版社から供給されて、それを買うと。

 なのでパブーでは、β版の状態で出版した本をちょこちょこと改訂したり、連載ものだったりと、完成した本ではできない独自の価値をつけていくのが、正しいのではないかと思っています。

 具体的な例としては、CodaというMac用のエディタについて書いた『CodaでつくるWebサイト制作入門』という本がありまして、これは900円ですが、パブーで最初に公開された時点では500円だったんです。「いまは半分くらいできている状態で、ちょっとずつ改訂していきます。完成したら900円で売りますが、今なら500円で買えますよ」という話で、β版の形で出された。こういうやり方は完成された本の売り場ではできないことで、結構面白いと思うんです。

 モノを作る場合は「作って、出して、売れて、最後に資金を回収」という順序にならざるを得ないわけですが、この仕組みなら先にお金を集めることもできるでしょうし、中間段階でいくらか集めながら作っていくこともできるわけで。読者さんから書いてほしいと言われたことを続きに書くこともできますし。

―― いまのお話を聞いていると、米光(一成)さんの「電書カプセル」にコンセプトが近い気がします。一気にまとまった内容で公開するのではなく、随時追加していけるという。

吉田 ああ、そうですね。米光さんのは意味合いとしてはもう少しライブ感が強かった印象ですけど、確かに似たような感じだと思います。

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