インタビュー
» 2013年06月12日 08時00分 公開

まつもとあつしの電子書籍セカンドインパクト:電子書籍を盛り上げるコミュニケーション――「LINEマンガ」の取り組みを聞く (3/3)

[まつもとあつし,ITmedia]
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LINEマンガに「目標数値」はない

―― 一部の電子書籍サービスが、シェアの目標値を挙げて注目を浴びたりしていますが、LINEマンガについてはそういったものはないのでしょうか?

村田 LINEという会社自体が「今年中に売上何億円」といった先の目標を持たないことが特徴の1つですので、LINEマンガのタイトル数についてもさほど拘りはありません。お話ししてきたようなコミュニケーションを中心としたサービスの充実を図り、ユーザーに楽しんでもらい、出版社や作家にもその価値が浸透していけば、自然に成長していくものと捉えています。

―― 音楽ビジネスの世界でも、ネットで音楽をどう売るかという議論の際、「コンテンツそのものではなく、それをきっかけにコミュニケーションを生み出し、その部分でマネタイズを図る」という考え方が拡がっているようにも思えます。LINEマンガの目指すところもそういう方向ということになりますね。

村田 コミュニケーションを生み出すきっかけがマンガだったという位置づけです。マネタイズについては重視していません。

―― そう捉えると、各社が競っているタイトル数ではなく、話題作に絞り込んで……という展開も合理的と思えます。

村田 取り扱い冊数としては約3万5000冊と、他の電子書籍サービスと同様のものを最低限準備しつつ、LINEマンガ起動後に最初に表示される画面(ストア)で、一般的に売れているマンガのほか、ユーザーが読みたくなる・コミュニケーションのきっかけとなるような話題のマンガを配置する編成を心がけています。

―― LINEマンガを特徴づける「スタンプ付きマンガ」は、どのように制作されているのでしょうか?

村田 基本的にはLINEに提供されるものと同様のレギュレーション(注:LINEのスタンプは仕草や表情に拘って制作される。普段そのキャラクターが行わないパターンも新たに用意されることもある)に則って準備します。われわれが制作することもあれば、権利元あるいはマンガの作者自ら手がけることもあります。現在は、スタンプ付きマンガのどの巻を買っても同じスタンプをプレゼントしていますが、今後は、巻数を重ねて購入したユーザーや、最新巻を購入したユーザーに限定してプレゼントするということもできるようにしていきたいと考えています。

―― LINE本体に提供される有料スタンプと、スタンプ付きマンガとの棲み分けは?

村田 すでに「キャラクター商品」として浸透しているような超メジャー作品は有料スタンプで展開、LINEマンガでは「新鮮な話題性」を提供できるものを投入していきたいと考えています。結果的に連載中の作品が多くなる傾向にありますね。

―― ラインアップされる作品がKindleストアなどと同価格であるものが多い以上、スタンプ分の実質的な値引きとも写るのですが、出版社からその分値上げを……という話になったりはしませんか?

村田 スタンプはあくまでマンガ購入のおまけなので、その分の値上げは考えていません。よく紙の単行本の最後に、おまけ4コマなど作者の遊びページがあって、それも単行本購入の魅力だと思いますが、スタンプもそれと同じ感覚です。基本的にはLINEマンガのユーザーにコミュニケーションのための付加価値を提供するというスタンスです。さらに、ユーザーが自身の感情を重ねてマンガキャラクターのスタンプを送ることで、よりそのマンガの強いファンになってくれる、さらにスタンプを受信したユーザーへのPRにもなるということを、出版社や作家のみなさんに感じていただけるようにしたいと考えています。

 スタンプ付きマンガは、まだ、全体3万5000冊のうちの10タイトルほどですので、確実にこうだ、と断言はできませんが、スタンプを付けると購入率は格段に上がり、また、続刊もしっかり購入されているので、スタンプきっかけでマンガを買ったユーザーが、実際にスタンプを使ってコミュニケーションしてくれているんだという手応えは感じていますね。

―― 出版社に対して、LINEマンガでの作品の動きはどのように共有されているのでしょうか?

村田 日々の売上報告については、メディアドゥさんにお願いしています。そのほか、適宜、お話ししてきたようなLINE内での作品の動き(トークやホームを通じてお薦めされているマンガの状況や、それに呼応するコンバージョン、同時購入されている他作品の傾向など)をご説明し、LINEマンガでの特集企画やキャンペーンに役立てていただけるように心がけています。

―― 先ほど若年層が多いというお話しがありましたが、そうなるとこれまでいわゆるガラケー向けマンガでは売れ筋だった成人向けマンガをどう扱うか、という問題が改めてクローズアップされそうです。

村田 強めのレーティングを設けており、それに準じる形で配信規制を行っています。LINEマンガの目指すところは、一般的なリアル書店の品ぞろえなので、一般的な書店で平積みや陳列がされているような作品が、LINEマンガでも配信されていると捉えて頂ければ。

―― まずはマンガから、ということでしたが今後文芸や実用書にもバリエーションを拡げるという考えはありますか? 角川書店のミニッツブックのように短時間で読了でき、またテーマが話題性・時事性に富んでいればマンガ同様コミュニケーションを活性化するということも期待できそうですが。

村田 そうですね、業界の新しい動きも注視しながら検討していくことになるかと思います(編注:このインタビューの後、6月4日に書き起こしの小説を無料で楽しめる『LINEノベル」が公開された)

―― 今後LINEマンガはどのように進化しますか?

村田 構想段階のものはたくさんありますが、LINEの友だちとマンガを貸し借りできる機能など、LINEマンガならではのコミュニケーション面での機能拡充を企画しつつ、他の電子書店ですでに実現している機能――例えばタブレット端末での閲覧最適化、コミックのまとめ買い、予約販売機能などは順次対応を検討していく予定です(編注:この記事を公開した6月12日、LINEマンガアプリがアップデート、タブレットにも対応した


 インタビューの中でも触れられたが、コンテンツそのものを販売するというよりも、ユーザーのコミュニケーションを活性化し、それをマネタイズすることに専念している様子がよく分かるインタビューとなった。ユーザー層の裾野の広さから考えても今後、マンガ以外にも恐らくジャンルを拡充していくのではないかと考えられるが、このアプローチはほかのコンテンツ、例えばLINEを通じた音楽販売などに対しても効果が高いのではないかと感じられた。今後の展開にも注目していきたい。

著者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマート読書入門』(技術評論社)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(いずれもアスキー新書)『コンテンツビジネス・デジタルシフト―映像の新しい消費形態』(NTT出版)など。

 取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。Twitterのアカウントは@a_matsumoto


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