「新世紀少年サンデーコミックグランプリ」は少年サンデーに何をもたらすか藤田和日郎、若木民喜のスペシャルメッセージも(2/2 ページ)

» 2013年07月29日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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クラブサンデー、クラサンぷらす、裏サンデー――それぞれの位置づけ

―― 現在、少年サンデー編集部はクラブサンデークラサンぷらす裏サンデーなどを手掛けていますが、Webとのかかわりという意味で、それぞれをどう位置づけているんですか?

クラブサンデー
クラサンぷらす
裏サンデー

左からクラブサンデー、クラサンぷらす、裏サンデー


則松 正直、まだ手探りな部分はあります。クラブサンデーと裏サンデーは対照的なもので、クラサンぷらすは、クラサンを少し毛色の違ったユーザー層に届けたいという考えから生まれたものなので、実質的に同じだと考えていただいてよいでしょう。

 クラブサンデーは2009年に始まったんですが、“新人育成”が一番大きなコンセプトです。紙の雑誌は、ページに限りがあり、刷るのにお金が掛かるため、新人の読切はときに掲載できても連載をやることはできないジレンマがありました。作家だけでなく若い編集にも立ち上げを経験してほしいという思いがあり、始めたものです。

 また、少年サンデーの作品をネットでも広める、という目的もあるので、少年サンデーの作品や月例賞の受賞作を掲載したりと、若干、少年サンデーの下部組織的な趣があります。

梅原 当時は増刊も、読切しか載ってない増刊だったんです。本誌以外に何もなかったので。そのタイミングでクラブサンデーが生まれたわけです。

則松 一方裏サンデーは、ネット上で人気のWeb漫画家を、われわれのフィルターを通して世に届けたらどうだろうか、というのが主なコンセプトです。

 音楽も同じだと思いますが、ネットがこれだけ発達したことで、自由に表現する場所が増えましたよね。各々が自由に表現し始めているときに、そこで湧き出ている自発的ならではの初期衝動というか才能を、わたしたちがもともと持っているスキルや流通網と合わせ、ヒットを作り出すことができるかというチャレンジです。

 ということで、同じネットでも、雑誌がネットに進出する矢印がクラブサンデー、新しいWeb作家を取り込んでいこうという矢印が裏サンデー、ですね。

―― こうしたWeb系の作業は、紙の編集者が兼任でされているんですか?

則松 すべて兼任です。全員、週刊・増刊で担当を持ちながらやってますね。編集部員は20数名いるんですが、例えば講談社さんの少年マガジン編集部と比べると、半分以下ですかね。

―― クラブサンデーは開始から4年くらいたちますが、これまでの感触としてはいかがですか?

則松 クラブサンデーは、ネットユーザーがそのまま来ているというよりは、少年サンデーのファンの方に多く読んでいただけているようですが、それでも違った層に届いている実感はあります。

 あと、細やかにデータが取れるのも新鮮でした。クラブサンデーでは読者アンケートを一番最後に付けているんですが、年齢と男性女性が作品ごとに全部とれたりしますので。データのダイレクトさに関しては、非常に有意義に感じています。ネット上での閲覧回数と、その作品の単行本第1巻の累計売り上げに少し正の相関が見える部分もあったりして、そこも面白いですね。

―― クラブサンデーや裏サンデーの月間ユーザー数は今どのくらいなんですか?

則松 クラブサンデーはユニークユーザーでいうと30万超えるくらいでしょうか。

梅原 裏サンデーは月間100万ユニークユーザーを超えていますね。

則松 結局のところ、僕らの評価軸はそうした数字の過多ではなく単行本がどれくらい売れるか。サイトに広告を入れるなどはありますが、クラサンも裏サンも、最大のマネタイズはコミックスを売ることなんです。言ってみればわれわれも原稿料をお支払いして、そして無料で見せているので、読者の方にお金を払っていただけるような作品作りが至上命題ですね。

賞を1つ作って、座して待ってる時代は終わった

―― 先ほど描き手の初期衝動を出版社が持っている機能と結び付けて、商業流通に載せていくような話がありましたが、今、若い才能が集まる場についてはどんなイメージをお持ちですか?

梅原 まだ手探りではありますが、なるべくいろんなところにアンテナを伸ばしたいですね。少年サンデーの賞に応募してくる新人さんたちだけではだんだん硬直化してしまうので、裏サンデーのようにネット作家さんを取ってくるとか。あるいは、ニコニコさんのような場所にいるユーザーに、才能のある人がいないか。コミティアだったりコミケ的なものに行って探してくる、といった具合で、いろいろなことをやった方がいいのかなと思っています。クラブサンデーでは、専門学校と大学の学生さんで、ナンバーワンを決めるクラサン杯も毎年やっていたりします。

則松 賞を1つ作って、座して待ってる時代は終わった、ということです。積極的に探していかないと。描き手の数自体は増えていると思いますが、賞に応募するまではハードルが高いですからね。人に見せたいってところまで行くかどうか。

梅原 ネットで作品を公開している方の中にはすごく才能のある方もいますが、プロ志向ではないこともある。裏サンデーで現在連載されている方の中にも、基本的に自分で描きたいから描いていただけで、不思議と、プロになりたいとは思っていなかったと話している方もいました。

則松 一方で、既存の賞にも若い才能は引き続き来ています。まんがカレッジから登場し、クラブサンデーに掲載して相当話題になった高校1年生(当時)の伊十蔵 景さんの作品も、本誌にすぐ掲載されましたね。若い方の読切作品が本誌に載る頻度は増えているんですけどね。ただ、大抜擢がある一方で、選球眼というか、どれをセレクトして週刊連載させるかはきっちり選ぶ必要はあると思いますが。

あえて今、持ち込みもわれわれは大歓迎

「持ち込みに挑まれる方も、われわれは大歓迎」と二人

―― アウトプットとしてのWebはどうでしょう。新人をWebでうまくマネタイズする方法は何かあり得ますか。

梅原 クラブサンデーでそれは考えてないですね。裏サンデーでは、将来的に何か形にしたいと考えてはいますが、すぐには難しいかと思います。

則松 とはいえ、Webに関しては今後、スマホが入ってくると違ってくるかなと思うところはあります。クラブサンデーは今、スマホからのアクセス比率が40%超えるくらいなんですが、スマホには少しマネタイズのチャンスはあるかなという気はしていますね。

梅原 裏サンは30%くらいですね。

―― iOS向けには「少年サンデー コミックス」アプリ、フィーチャーフォン向けには「コミック小学館ブックス」なども提供しています。出版社として直にこうした場を持つことについてはどういう見解をお持ちですか?

梅原 他部署になってしまいますが、コミック小学館ブックスは好調ですし、右肩上がりと聞いています。スマホ対応以降、スマホにどんどん入れ替わっているようです。

 プラットフォームが外にしかなくて、そこへの依存度を高めてしまうことを避けるためにも、自社でそうした場を持ち、そこで新規性のある取り組みを真っ先にやりつつ、他社のさまざまなプラットフォームにも全方位で出していくという考え方、という風には聞いてます。

―― 出版社はコンテンツをWebにおいてどう活用していくか、というところに知見があれば。あるいは電子書籍についての見解でも。

則松 電子書籍に関しては、大きな地殻変動がまだこれからも起きる気がしています。そのときに、今やっているものがそのままブレイクするとは限らないと思うんです。早くやることのメリットももちろんあるんですが、早くやるだけじゃなく、いろいろな方向に手を広げるのが大事と考えています。

―― 大きな地殻変動があるかもしれない、という予感はどこから来るのでしょう?

則松 やはり先ほどお話ししたスマホへの転換ですね。スマホやタブレットの使い勝手がどんどん上がっていったときに、かつて電車の中で雑誌を読んでいる人が大半だったように、タブレットやスマホで、出版コンテンツを読む人たちが爆発的に増える時点がどこかで来るんじゃないか、という期待はあります。

―― クラブサンデーへのアクセスの40%がスマホからという現在の状況でも、まだそうなっているとは思わないということですか?

則松 そうですね、割合は爆発的に増えてはいますが、総数的にはさほど変化していないので。

 あとは課金周りですね。これは表現に非常に気を遣うのですが、もうほんの少しでいいから、お金を出して読むというか、ドネーションに近い感覚で、“面白かったら、お題は見てのおかえり”みたいなシステムが作れればいいなと思います。面白かったら100円くらい払ってほしいし、払ってくれたらこっちも全力でサービスするよ、という感じのお互いに得をするようなシステム。今非常に悩ましいのは、サイトを運営する上で、サイトを見た人からお金をいただくシステムがありませんし、原稿料をお支払いして、入ってくるお金は広告費程度ですからこれはつらいですよね。

―― では、最後に一言ずつお言葉をいただけますか。

梅原 もう本当に、新しい才能を僕らは常に求めていて、普段、投稿や持ち込みをしない才能達を発掘することを第一に考えて行きたいな、と思います。裏サンデーもそういうところですし、今回の新世紀コミックグランプリもそうですね。積極的かつ継続的にやっていきたいと思います。

則松 窓口は広く、手数は多く、発表する場もたくさんという形で。発表する場所においては、サンデーは先端を走っているんじゃないかと自負しておりますので。ぜひ、興味を持ち、何かに引っかかったら来てほしいですね。

 あと、雑誌を開くと必ず毎週載っているんですが、持ち込みも歓迎しています。対面で話した時の情報量は、文字だけとか電話口での会話より相当多いので、あえて今、持ち込みに挑まれる方も、われわれは大歓迎します。

藤田和日郎さんに聞く!

『うしおととら』で第2回少年サンデーコミックグランプリを受賞された当時のことで、記憶に強く残っているエピソードを教えていただけますか。

藤田和日郎さん 藤田和日郎さん

藤田 後から担当編集の方に聞いたのですが、私の絵に対して編集部の中で「こんな古い絵でいいのか!?」という意見があったというのが印象に残っています。絵柄に対する評価は、当時の編集部でも意見が真っ二つに割れていたそうで、最終的に連載できて良かったなあと思っています。

新世紀コミックグランプリのゲスト審査員として応募作品をご覧になって、(全体的に)どのような印象を持たれましたか。

藤田 身近な距離で起きた話が多く、大きなウソを楽しくつくような人が少なくなった気がします。にっちもさっちもいかないような大ピンチなものよりは、穏やかな性質の作品が目につきました。描いている人がみんなやさしくなったのかな……?

読切と連載前提で求められるものの違いを端的に表現するとしたら?

藤田 読切は、1つのテーマに対する作者本人なりの結論、言いたいテーマの完結を求められます。対して連載作品は、そうした思想の完結よりも「続きが読みたい!」と思わせる“引き”の要素が求められます。読者は興味のないものに惹きつけられませんから、連載作品は、よりキャラクターが重視されますね。

 読切も連載も、キャラクターが大事なのは変わりませんが、どういうことを言いたいのか、答えが短いテーマか、長くなるテーマを持つかで変わってくるものです。

藤田さんのアシスタントからは数多くの才能ある漫画家が生まれています。藤田さんはどんなことを念頭に置いてアシスタントさん達と接しているのでしょうか。

藤田 漫画とは、ストーリーの上でもキャラクターの上でも“ギャップ”が重要。静から動、明るい性格のキャラの暗い内面など、その差があればあるほど魅力的になっていきます。

 そして、物語の感動のポイントは、すべからく人の心が動いたところである――この2つのことを教えた後は、映画を観て感想を言いあい、面白かったところがこの2点によるものであったかを確認するなどしています。ずーっとそれのくり返しですねえ。毎日(笑)

最後に、漫画家を目指そうとする方に向けてメッセージをお願いいたします。

藤田 「とりあえず落ち着け!」 まずは落ち着いて、編集者や他の人の言うことを聞きとれる人になってください。相手もただ怒っているわけではありません。その人が自分に何を求めているかを考えることが大切だと思います。へこたれないでください。

 ネームを描いた分だけ、連載をとれると信じ、描き続けてください。ネームを描くのはアスリートが体を鍛えることと同じです。連載をいざ始めたときに力になるのは、ネームを描く力だけですよ。


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