漫画を「1人でも多くの人」に届けられるのは今――60万UU突破「裏サンデー」の挑戦(1/3 ページ)

小学館の漫画サイト「裏サンデー」が好調だ。雑誌の既成概念にとらわれないサイト作りが功を奏し、1カ月で60万ユニークユーザーを突破。スマートフォンやSNSが普及する今、1人でも多くの読者に作品を届けられる媒体は何なのか――サイトを有志で立ち上げた編集者らは、Webにその答えを見出そうとしている。

» 2012年06月27日 10時42分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo 「裏サンデー」

 小学館のWeb漫画サイト「裏サンデー」が人気を集めている。同サイトは5月から作品の本格更新を始め、わずか1カ月でユニークユーザー数60万、月間訪問数120万を達成した。連載作品はまだ5本と少なく、商業誌の人気作家も起用していないが、日本の出版社のWeb漫画サイトとして早くもトップレベルの読者数を誇るサイトとなっている。

 「1人でも多くの人に漫画を見てもらえる媒体って、今は雑誌じゃないのかもしれない」――裏サンデーを考案した小学館 サンデー編集部の石橋和章さんにはそんな思いがあった。無料のWeb漫画はそれ単体では収益にならないが、一方で漫画雑誌も今、単体では赤字がほとんど。雑誌で作品の認知を広げ、単行本で収益を得ているケースが多いのだ。

 漫画雑誌の部数が全体的に減少傾向にある中、漫画を「1人でも多くの人」に届けられる媒体は何なのか。裏サンデーは、その答えを探る1つの挑戦だ。そのために、雑誌をWebで再現するのではなく「Webサイト」を志向し、これまでの出版社にない「自由な発想」を取り入れた。

 さらにサイトを盛り上げるべく、7月には2つの新連載もスタート。秋には掲載作品のいくつかを単行本化し、収益化への勝負をかける。そんな裏サンデーはどのように生まれ、これまでのサイトと何が違うのか――サイトに関わる編集者や作家に聞いた。

photophoto 7月2日にスタートする岡部閏(おかべうる)氏の「世界鬼」(写真=左)と7月4日開始のぱげらった氏作「オエカキスト」(写真=右)

“Web漫画読み”たちが作った「裏サンデー」

photo 連載作品の1つ、ONEさんの「モブサイコ100」

 裏サンデーの連載陣に、紙の雑誌で名の知れた作家はいない。そのかわり、個人サイトや漫画投稿サイトなどで人気の“Web漫画家”たちがサイトを盛り上げている。「デジタル生まれデジタル育ちの作家を起用したデジタルコミックサイト」だと石橋さんは話す。

 これには、サイトの設立に関わった編集者らの思いが影響している。裏サンデーは会社のトップダウン企画ではなく、編集者が有志で作ったサイトだ。立ち上げに関わった編集者は3人で、雑誌の仕事と並行して裏サンデーの運営に関わっている。彼らは日頃からの“Web漫画読み仲間”でもあり、これがサイトの方向性を決定づけた。

 裏サンデーの考案者である石橋さんは、「月刊少年ガンガン」などで知られるスクエア・エニックスで漫画編集者のキャリアをスタート。当時からWeb漫画に関心を寄せ、2004年末の「ヤングガンガン」創刊時に1人のWeb漫画家を連載陣としてスカウトした。“がはこ”のハンドルネームで4コマ漫画「WORKING!!」を公開していた高津カリノさんだ。

 当時から出版社の漫画サイトは存在したが、「何作品も掲載しているのに1日1万ページビューに届かないサイトもめずらしくなかった」(石橋さん)という。ところが、個人で運営する高津さんのサイトは「たった1作品で1日3万、4万ページビュー」。こうした人気に石橋さんは驚き、高津さんに声をかけた。

photo 高津さんのサイト「うろんなページ」

 Web上で漫画を公開する人気作家たちは、「漫画を描きたい」という強い思いで作品を公開し、自らの力で支持を集めている――Webでの発信力だけでなく、クリエイターとしての将来性もあると石橋さんは感じていた。「DUDS HUNT」の筒井哲也さんなど、複数のWeb漫画家と仕事を共にし、「こういう人たちを集めたら何か面白いことができるのでは」と考えるように。実現のチャンスは次の職場、小学館でやってきた。

 2011年、担当作家の交代などで自由な時間ができた石橋さんは、「ワンパンマン」で知られるONEさんや「オーシャンまなぶ」の拓須たくすさんなど、注目していたWeb漫画家に声をかける。元々は、既存の漫画サイト「クラブサンデー」に作品を掲載するつもりだった。

 「その一方で、編集部の仲間ともWeb漫画についてよく話していたんです。そしたら、そのうちの1人が『ヒトクイ』のMITAさんに声をかけて。ちょうど同じころ別の編集者も『戦勇。』の春原ロビンソンさんや『求道の拳』のサンドロビッチ・ヤバ子さんなどのWeb作家に声をかけていたんです」(石橋さん)

 これだけWeb漫画家が集まるのなら、新しい媒体が作れるかもしれない――集まったWeb作家たちの意見も聞きながら新サイトの構想を固めていった。

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