漫画を「1人でも多くの人」に届けられるのは今――60万UU突破「裏サンデー」の挑戦(2/3 ページ)

» 2012年06月27日 10時42分 公開
[山田祐介,ITmedia]

目指したのは「雑誌」ではなく「Webサイト」

photo 上から下に画像が並び、スクロールしながら漫画を読む

 こうして生まれた裏サンデーには、これまでの出版社の漫画サイトとは一味ちがう自由な雰囲気がある。漫画はJPEGで掲載され、よくある専用ビューワは使われていない。画像のコピーもできてしまう。作品紹介ページの下には掲示板サイトに似たコメント欄があり、賞賛も批判も含め読者の感想が飛び交っている。SNSへの投稿ボタンやリンクも要所要所に設けられている。

 「雑誌をWebで再現するんじゃなくて、“サイト”を作るのが正解」――そんな考えがあったという。「Webコミックの黎明期は、ビューワで漫画雑誌を最初から1ページずつめくるようなものもあった。でも、そういう紙の発想から抜け出ないとWebでは上手くいかないと思っていました」(石橋さん)

 Web育ちの作家たちと議論していくうちに、専用ビューワはいらないと考えるようになった。ブログや投稿サイトの漫画は、画像を縦に並べただけのスタイルが多い。「Webなら“めくる”より“スクロール”のほうが合理的」と考え、裏サンデーもスクロールで漫画を読めるようにした。ビューワを使わなければ動作も軽快になり、画像も素早く表示できる。出版社がビューワを採用するのはコンテンツのコピーを防ぐ意図もあるが、それよりもWebサイトとしての使いやすさを重視した。

 Webでやるからには読者参加型の仕組みも必要だと考えた。裏サンデーでは作品に対する投票機能やコメント機能を設け、読者の盛り上がりを可視化した。サイト上で感想を共有する面白さは、新都社などの漫画投稿サイトを通じて石橋さんらも感じていたという。批判でも賞賛でも、コメントが盛り上がればそこに“読み仲間”がいることが分かる。サイトを訪れた人に“熱”が伝わる。「それに、コメントは作家のモチベーションにもつながりますから」(石橋さん)

 雑誌ではアンケートはがきで読者の感想を募るが、「原稿を執筆してから読者の反応(アンケート)が作家に返ってくるのは、週刊誌でも1カ月程度かかるんです」と、裏サンデーで「ヒーローハーツ」「ケンガンアシュラ」を担当している編集者・小林翔さんは話す。「雑誌では感想が返ってくるまでのタイムラグが大きいけれど、Webだったら掲載した瞬間から反応があります」(小林さん)

 連載作家の1人として「ケンガンアシュラ」の原作を務めるサンドロビッチ・ヤバ子さんも、読者のコメントはよくチェックするという。読者はどんなところを喜んだのか。どこが気になっていたのか。コメントを見て「気付かされることがある」そうだ。

photo 原作サンドロビッチ・ヤバ子さん、作画だろめおんさんによる「ケンガンアシュラ」

 読者の反応は掲載回によってさまざまだ。「面白ければやっぱり良い反応が返ってくる。予想をしていたところとは違った意外な回でコメントが盛り上がることもあります」(小林さん)。編集者にとっても、読者のコメントは参考になるようだ。

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