デジタル時代に本の表紙が必要とする進化

“本の顔”となる表紙のデザインは、電子出版の隆盛に合わせて変わったのだろうか。あるいは、これから変わっていくのだろうか。そうした議論が今盛んに行われている。

» 2013年08月07日 13時15分 公開
[Mercy Pilkington,Good e-Reader Blog]
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 出版が書籍技術の変化に適応していく中、まだ適応できなていない領域の1つが、表紙のデザインだ。このテーマについて、2つの別々の記事が、究極的には消費者の購入を促進あるいは阻害する表紙をデザインする際に、著者と出版社が考慮しなければならないことについて特集している。

 The New Yorkerのティム・クライダ―氏の最初の記事では、過去のきらきらとしたイラストから、現在の定型化したデザインであるミニマルアプローチに至るまで本の表紙の進化を考察している。同氏の記事はジャンルごとに表紙デザインの要件のようなものを考察しようとしている。

 「書籍・電気製品・自動車・衣料などすべての分野でデザインの主な原則は1つだ。製品デザインが大胆で、目を引き、ほかの製品とは大きく異なっている必要がある。しかし、過剰なデザインはいけない」と従来の出版の表紙コンセプトでありがちないらだたしい体験について触れている。

 クライダー氏の説明とは別に、アレックス・イングラム氏はより技術的な見地から本の表紙について考察した記事をThe Booksellerに寄稿している。この中で、本の表紙全般の目的は、電子出版の隆盛に合わせて変わったとしている。現在、消費者がもはや書店の通路を行ったり来たりすることも、本の表紙の視認性を高める必要もなくなったので、サムネイルサイズの表紙に対するアーティスティックな検討も進化する必要がある。

 「電子書籍の表紙を見ると、通常ペーパーバックかハードバックと同じものが流用されているが、オーディオブックは長らくパッケージに合わせて表紙をデザインしていた」とイングラム氏。「優れた表紙デザインは表表紙と裏表紙が書籍購入と読書を促進するために、効果的な情報セットを確実にテンプレートに落とし込んでいる。しかし、出版社は電子小売企業に書籍データを渡す際に、表紙にほとんど調整を施していない」。

 興味深いことに、より多くの作家が自主出版を指向することで自分の作品に対する支配力を行使し始めているが、表紙のデザインは伝統的に作家がほとんど影響を及ぼさない分野の1つであり続けている。作家のポリー・コートニー氏は出版社のマーケティングチームが作成した表紙が『恥ずかしい』ものであったことを認め、自主出版へ回帰した理由の1つが本の表紙だったと述べている。

 「出版社の編集・デザイン・マーケティングチームといわゆる建設的対話を持ち、個人的なビジョンと人々の購買意欲をそそるデザインのバランスを探りました」とクライダー氏。「対話は何カ月も行ったり来たりしました。わたしは幾つかのイラスト案を送付し、出版社はどれであれ最も好ましくないと思った選択をしました。出版社は幾つかのデザイン案を送付してきて、個人的にましだと思ったものを選択しましたが、出版社はそれを拒否しました。本の表紙は重要な販売ツールで、マーケティングチームは、完全に、かつ合理的に表紙こそが自分たちの本領発揮の場だと思っていたようです。はるかなる高みからおぼろげにオリンピアの軍団が加勢してくるような妄想も抱きました。現在の文学界で最も影響力がある、大手全国書店チェーンのバイヤーは表紙を変えれば本のオーダーを増やすことで有名だといわれてきました」。

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