Readium SDKベースのEPUBビューワを世界初で商用化、ACCESSの狙い(1/2 ページ)

EPUBにおける「メートル原器」として複数のビッグプレイヤーが加盟し開発を進めているReadium Foundation。その中で、ACCESSがReadium SDKをベースとしたEPUBビューワを世界で初めて商用化。その意義などを聞いた。

» 2013年11月07日 12時00分 公開
[西尾泰三,eBook USER]

 EPUBにおける「メートル原器」――1年ほど前の記事「ReadiumについてACCESSと達人出版会に聞いた」では、日本語対応のEPUBビューワの開発に当たり、リファレンス実装の必要性を紹介した。

 WebKitベースのOSSプロジェクトとして始まった「Readium」は、そんなメートル原器(リファレンス実装)の開発を進めてきたが、2013年に「Readium Foundation」として法人化。ブラウザ上で動作するEPUBビューワ「Readium Web」、ビューワプラットフォーム「Readium SDK」の開発・普及を推進している。

 それから約半年が過ぎた2013年10月、Readium SDKをベースとしたEPUBビューワがACCESSから「PUBLUS Reader v2.0」(旧名:NetFront BookReader EPUB Edition)として世界で初めて商用化された。今回は、上記記事にも登場いただいたACCESSの浅野貴史氏にReadium SDK採用の背景と、その意義などを聞いた。

マルチプラットフォームでReadium SDKベースのビューワ環境を

―― Readium SDKを採用したビューワ「PUBLUS Reader v2.0」のリリース、その採用第一号がBOOK☆WALKERということですが、最初に、ACCESSはなぜReadium SDKを採用しているのか、その意義から教えていただけますか。

ACCESS ソフトウェアソリューション本部デジタルパブリッシングビジネスグループ ビジネスグループ長の浅野貴史氏

浅野 弊社はIDPF(EPUB仕様の策定団体)にも当初から加盟し、きちんとそれに準拠するビューワを作っていきたいという思いがあり、そのころから標準のEPUBエンジンになりつつあるWebKitをベースに開発し始めました。

 現在はブラウザのエンジンもGoogleとAppleの戦略上WebKitとBlinkに分かれていますが、どちらにも必要なEPUBに関するレンダリングのパッチはきちっと入れつつ、標準化とデファクトスタンダードなソフトウェアをうまくからめてEPUBのビューワを作っていくのがACCESSの方針です。

―― その方針におけるReadium SDKの位置づけは?

浅野 Readium SDKはどちらかというとアプリケーション寄りの標準で、WebKitやBlinkといったレンダリングエンジンの上に乗るソフトウェアパッケージといえます。両方採用していくのが戦略にマッチしているということで、WebKitやBlinkに続いて、Readiumでも準備が進んだこのタイミングで取り入れたという流れになります。

 Readium SDKの立場でいうと、レンダリングエンジンは基本的にOSに任せるスタンスです。iOSであればiOSのWebKitがレンダリングする結果を扱う、という風に。ACCESSも基本的には同じで、日本語の縦書きをきちんと表現できないOSのWebViewがあれば、そこはカスタムのEPUBエンジンで対応できるようにしています。

 われわれとしてはAndroidもiOSもWindowsもMac OSも、似たアーキテクチャでそろえていきたい。iOSだけ独自にやっていたところを今回そろえてきて、そのタイミングでReadium SDKを取り入れたということです。

―― iOSだけ独自だった、というのは具体的に何を意味するんでしょうか。例えば、BOOK☆WALKERはすでにACCESSのビューワを採用していますよね。従来使われていたものを便宜上、バージョン1と呼ぶなら、Readium SDKが採用されたバージョン2とは何が違うのでしょうか。

浅野 バージョン1は簡単に言ってしまえば、ReadiumやReadium SDKをまったく使わず、Readiumの方針に沿ったACCESSの独自仕様で実装していました。2.0はReadium SDKベースですので、使っている技術のベースが違っています。そこが一番大きなところですね。

 特に変わった点としては、Readium SDKを使うところと、iOSのWebKitを使うところの組み合わせですね。例えば1年前ですと、日本語のiBooksもまだなかったように、WebKit自体が準備不足でした。現在はiBooksも提供され、iOSの表現力が十分になってきています。そこに今回最新のReadium SDKを取り入れることで、目指すべきところがやっとそろったと。今回iOS上ではiBooksとの互換性も重要視していますので、iOS上ではiBooksに近い形で表現できるようになりました。これが最大の違いです。

―― 日本でiBooksが始まった後、各社のiOSアプリが日本語対応を果たしてきたのはその辺りも関係していたということですね。iBooksとの互換性はどういうニーズなんでしょうか。

浅野 iBooksに注目しているのは、例えば動く絵本のようなリッチコンテンツあるいはインタラクティブなどと呼ばれる領域で、これはiBooksが一番進んでいると思ってます。そういったコンテンツを取り込んでいくには、iBooks互換をきちっとやった方が、市場にもメリットがあると思ってます。

―― つまり、ACCESSはマルチプラットフォームでReadium SDKベースのビューワ環境をそろえていくわけですね。そしてそれらのアプリの中ではいわゆるiOSのレンダリングとほぼ互換性のある表現が可能になると。Android向けのアプリビューワもReadium SDKベースになるということでしょうか。

浅野 そうですね。Androidは専用のWebKitにReadium SDKライクなものがもともと乗っているので、そこにReadium SDKの成果を取り入れることで、同じようにそろってくることになります。こちらも少し時期をずらし2.0としてリリースを考えています。

商用化への貢献、その意義

Readium Foundationのサイトでもこの件が紹介されている

―― 今、Readium SDKの開発はどのように行われているのでしょう。

浅野 Readium SDKの開発は北米の開発者を中心に行われています。とにかく開発項目が多く、一気にマルチプラットフォームで作っているので、iOS版は商用に近いが、Windows版はまだまだ、といった幅があります。これはコントリビューターがどれだけ集まるかに依りますね。

 われわれは、始めるにあたって何に貢献するのか――普及か、コードか、あるいは人を出してしっかりプロジェクトを回すのか――をまず考えました。ACCESSは商用化への貢献に一番重きを置いたのです。Readium Foundationのミッションとしては、SDKという形でライセンス、そしてその商用化も含まれますので、商用化は非常に重要です。今回、世界で初めて商用化するに至ったのも、そこに重きを置いたからと思っています。

 貢献の力点が商用化でしたので、Readium SDKのソースコードへの貢献は、ACCESSとしてはまだそれほどでもありません。ただし今回、商用化した成果もありますので、徐々にフィードバックしていく考えです。Readium SDKのアーキテクチャにも依るので、戻すべきところと、戻さないところがあるとは思いますが。

―― Readium SDKを扱っていて、悩ましいと感じる部分はありますか?

浅野 かなりのスピードで変化することでしょうか(笑)。アクティブなOSSプロジェクトの成果物を商用開発するにあたって、品質が固まったものを使いたいと思うのですが、変化が早いのでそれが難しいですね。

 商品化するときの品質の課題などは間違いなく存在し、われわれもそこに注意しながら検証を重ねて商用化しているので、当然取り込んでいない部分もかなりあります。

―― 今振り返って、一連の流れの中で、キープレイヤーを挙げるとしたら?

浅野 そういう意味では、Adobeの動きがキーだったように思います。Adobeの動きを待てないとか、一方でKoboやAppleが早めにEPUB 3を取り入れたビューワを出し、9月にAdobeもReadium Foundationに参加し、追い風になったのかなと感じています。Readium Foundationには、大手から中小企業など多様な企業が集まっていますので、今年中にACCESSに続いて、Readium SDKの成果を使ったものも出てくるんじゃないかと期待しています。

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