ディ・モールト べネッ! ファン待望の短編集 『岸辺露伴は動かない』レビュー

『ジョジョの奇妙な冒険』登場人物、岸辺露伴のスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』レビュー。

» 2014年01月09日 12時05分 公開
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ま…… 知ってるヤツが多かろーが少なかろうがどうでもいいことだが
ぼくの名は岸辺 露伴 マンガ家だ

 待望、という言葉はこの単行本の発売にこそ、ふさわしい。週刊少年ジャンプ1997年30号に初掲載された「懺悔室」から、2013年46号に掲載された最新作、「密漁海岸」までを収録した、ファン待望の短編集、『岸辺露伴は動かない』(ジャンプコミックス)をご紹介します。

岸辺露伴は動かない

 この『岸辺露伴は動かない』シリーズは、荒木飛呂彦先生の言わずと知れた人気作、『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に登場するキャラクター、岸辺露伴のスピンオフ作品です。

 今回収録されているお話は、「懺悔室」「六壁坂」「富豪村」「密漁海岸」「岸辺露伴 グッチへ行く」の5編。イタリアの教会から日本の山奥まで、露伴がストーリーテラーとして語る、5つの不気味な体験記。

 タイトルの「動かない」というのは、岸辺 露伴は主人公ではなく、物語のナビゲーターであるという意味。だから、岸辺 露伴は動かない。とはいえ、最新作である「密漁海岸」では露伴先生、だいぶアクティブに活動されています。


杜王町には「密漁の伝統」がありました
そして杜王町の「密漁」は…… 古代から「芸術」でした

 宮城県S市杜王町。

 イタリア人の料理人、トニオ・トラサルディーの店を訪れた露伴は、そこでトニオから、一緒に杜王の海岸に「鮑」を採りに行ってくれないかと誘われます。トニオによれば、杜王町の「ヒョウガラ列岩」という場所で採れるクロアワビは、世界中のどこにもない特別な「鮑」であり、貴重すぎるために漁師たちは1つも売ってくれない。しかし、どうしても「鮑」を手に入れたい彼は、露伴に対して、とある提案を持ちかけます。

「密漁」をします
だから気にいった

 リアリティこそが作品に生命を吹き込むエネルギーであり、リアリティこそがエンターテイメント。自分の見たことや体験したこと、感動したことを描いてこそ面白くなるんだ、とかつて語っていた露伴。彼はこうして、トニオとともに「鮑」の密漁に挑むことになるのですが、そこに待ち受けていたのは一筋縄ではいかない、奇妙な出来事だったのです……。

 さて、ジョジョといえば、おなじみのスタンド能力。

 露伴は“ヘブンズドアー”というスタンドを持っており、人間や生物を本に変え、その対象の記憶や性格などを読みとり、余白部分に新たな事項を書き込むことで行動を制限することができます。また、「密漁海岸」に登場する、トニオ・トラサルディーも露伴と同じく、ジョジョ第4部に登場するスタンド使いです。

 トニオのスタンドは“パール・ジャム”。料理の中に入ることで、食べた者の身体の不調などを治すことのできるスタンドです。そんな二人のスタンド使いが体験した、奇妙な出来事とは果たして何なのか。

 詳細はぜひ本編にて確認してください。

 それにしても1997年から2013年に至るまで、さまざまな露伴の姿をこうして一冊にして読むことができるというのは、ファンにとっては本当にうれしい限りです。描かれていた年代は違えど、どの作品でもわたしたちに常に新鮮で新しい驚きを与え続けてくれる荒木先生。

 そういえば、「密漁海岸」が掲載される前、荒木先生が受けた新聞のインタビューの中で、みずみずしい感性を保てるのはなぜかという質問に対して、“10代や20代の子が興味を持っているものがあれば、自分の感覚にないものも見るようにしている、最近だと「あまちゃん」”といった回答をしていたのを思い出しました。

 荒木先生の新しいものに対する好奇心は、同じマンガ家である露伴先生にしっかり受け継がれているようです。

 今回ご紹介した『岸辺露伴は動かない』。もちろん短編集ですので、ジョジョを読んだことのない方にも、気軽にその世界を楽しんで頂けるのでオススメです。

 まだ読んだことのあなたも、岸辺露伴をきっかけに、ジョジョの世界へと足を踏み入れてみては?

(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)

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