太宰治の魅力全開――『【マンガ訳】太宰治』刊行記念イベント下北沢B&Bイベントリポート(1/2 ページ)

太宰治といえば、現代で言う「中二病」的作家の代表と考えてしまいがち。だが、そんな彼の作品も視点を変えれば面白い。その面白さを語り尽くすイベントが、1月18日、世田谷区下北沢にあるビールも飲める本屋さん「B&B」で開かれた。目からうろこの太宰の魅力とは……。

» 2014年01月27日 13時33分 公開
[渡辺まりか,eBook USER]
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『【マンガ訳】太宰治』 『【マンガ訳】太宰治』

 1月18日、下北沢にある本のセレクトショップ「B&B」で「実は太宰は超ヤバイ!!! 〜太宰治って、こんなにオモシロイの!?〜」イベントが開催された。

 同イベントは、2013年12月に刊行された『【マンガ訳】太宰治』(実業之日本社)の記念イベント。同書は、太宰の名作短編8編(『姥捨』『恥』『ダス・ゲマイネ』『悶々日記』『親友交歓』『皮膚と心』『誰も知らぬ』『葉』)を8人のマンガ家が独自解釈でコミカライズしたものだ。

 今回、『姥捨』をマンガ訳した岡田屋鉄蔵氏、『恥』をマンガ訳したマキヒロチ氏、そして巻末に原作解説として「太宰治に高校時代傾倒したけど酔ってただけであんまりよくわかっていなかった男による解説」を手がけた渋谷直角氏の3人に、あるときはB&Bスタッフ、またあるときは「太宰治検定」を主宰している木村綾子氏、『【マンガ訳】太宰治』の担当編集者・森川和彦氏を加え、作品の裏話や、改めて“太宰ってこんな人だったよね”というトークが繰り広げられた。

担当者の期待を裏切るマンガ家たち

 冒頭、岡田屋氏、マキ氏に送信された、森川氏からのメールがスライドに表示され、「言えないけど、太宰治が大好き」な森川氏が一生懸命にそれぞれのマンガ家に、太宰作品をピックアップしたことが明らかに。しかし、どういうわけか、2人ともことごとく森川氏の予想を裏切った作品を選択したという。

 「だって、ビジュアルがすぐに頭に浮かんだんですもの」(岡田屋氏)。ちなみに、岡田屋氏、作品内でお気に入りの場面は最後のページで、最後なのに真っ先に仕上げたそうだ。そして、それに向けて描いていったという。

『姥捨』 『姥捨』の最後のページ(C)岡田屋鉄蔵/実業之日本社

 小学校低学年のときに父親の書斎にあった『走れメロス』で太宰作品に触れた岡田屋氏が、太宰について抱いているイメージは「真面目男。真面目すぎてダメ男になったんじゃないかと思う」(岡田屋氏)。しかし、次にコミカライズの話があれば、『走れメロス』のラストシーン――メロスが走りながら真っ裸になるシーンを真っ先に描きたい、と発言し、場内をわかせた。

 マキ氏には、“食に関する作品”や“女の子メインの作品の方がマキさんの絵柄に合っているのでは?”と編集者・森川氏が打診。マキ氏が選択したのは女性の主人公・和子の1人語りでつづられた『恥』。しかしここでも森川氏の期待を裏切り、コミカライズされた主人公は、どこかで見たことがあるような書店の男性書店員。原作で和子があれこれと指南の手紙を書いた宛先の小説家は、男性から女性に変更されていた。つまり、男女を逆転してマンガに訳したのだ。

『恥』 『恥』(C)マキヒロチ/実業之日本社

 その理由をマキ氏は「原作はこれで面白いんだけど、マンガにした場合、女の子がこういう仕方で恥をかくのでは、可哀想すぎてギャグにならないなぁ」と思ったからだとか。ちなみに、最も力が入っていたのは、マンガ版に登場する女流マンガ家の名前と最後のページの主人公のドヤ顔。「すごくむかつく顔ですよね」と会心の出来だったと話した。

 渋谷氏は、『【マンガ訳】太宰治』で訳された8つの原作すべての解説を書き下ろした。渋谷氏は高校時代の3年間、学校では誰とも口を利かず、当時好きだった大槻ケンヂが勧めるから、という理由で太宰作品に傾倒。しかし、専門学校に進学してからは学校生活を満喫するようになり、太宰治のことはすっかり忘れていた、という。

 酔ってただけだし、あまりよく分かっていなかったため、今回の解説執筆にあたり、再度作品に向き合うことになったという。改めて読んでみて、太宰の女性の心理状態への理解の深さや、その割には心変わりの早さに感心したり呆れたりした、と感想を語った。

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