続けて「太宰治検定」を主宰している木村氏から、人間・太宰に迫るトークが行われた。
木村氏が日ごろから収集している太宰に関連した写真はどれも秀逸で、最初の心中未遂を報じた新聞記事に使用された写真などは、彼のナルシシズムをないがしろにしているとしか思えないようなもの(坊主頭に丸メガネの学ラン姿)。「いつもポーズをとってカッコつけていたのに、よりによってこの写真を使うとは……」と木村氏。
芥川賞が欲しくて欲しくてたまらなく、子どものようにごねていたことや、そのため選考委員を務めていた川端康成に喧嘩を売るような真似をしていたことも。意外なことに締め切りを破ったことは一度もなく、書けても書けなくても、毎日、午前9時から午後3時までを執筆時間に充てていたという。
また、青森県出身の太宰は、死ぬまでなまりが抜けず、コンプレックスを感じていたため、自分から女性に声をかけなかったというエピソードも。それでも幾人もの女性と恋愛していたのだから、色男ぶりが分かる。
現在でも太宰ファンが墓を訪れる「桜桃忌」は、太宰の遺体が発見された日であると同時に、彼の誕生日でもあったという。その墓は、尊敬していた森鴎外の墓の斜向かいにひっそりと建てられている。
かつての文豪の作品を基に、このような作品として世に送り出すことができるようになった背景として、「著作権が切れた」ことについても触れられた。
確かに、著作権が切れていない作品であれば、「変な風に解釈して!」と怒られかねない。日本ではベルヌ条約に基づき、「著作者の生存期間および著作者の死後50年」、著作権は保護される。もし、現在進められているTPP交渉で、米国に足並みをそろえるべく著作権保護期間が70年などに延長されてしまったら、『【マンガ訳】太宰治』のように自由に創作できる作品の幅が狭まってしまうという懸念も生じる。
著作権の切れた作品はまだまだたくさんあり、『【マンガ訳】太宰治』で取り上げられたようにあまりメジャーではないものも多い。ほかの文豪の作品を基にコミカライズされたものもぜひ読んでみたい、と思った。
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