電子書店の中の人 12回目――E★エブリスタの中の人あの書店のスタッフに直撃

いつもお世話になっている電子書店。電子書籍を購入しているこの端末の向こうにだってスタッフがいる。なかなか見えてこない「電子書店の中の人」にインタビューした。

» 2014年03月14日 11時00分 公開
[池田園子,eBook USER]

 電子書店、または電子書籍ストア――わたしたちはここ数年でその存在を少しずつ認知するようになった。

 とはいえ、書店と言えば、リアルの書店(実書店)を思い浮かべる方の方が圧倒的多数だろう。現時点で、わたしたちは電子書店のことをまだよく知らない。しかし、そこにはリアルの書店と同様、「人」が介在している。

 この連載は、“電子書店の中の人”にフォーカスし、どんな人が電子書店の運営に携わっているのかを紹介しながら、その電子書店の“雰囲気”を感じてもらうためのものだ。

 第12回目となる今回登場いただくのは、スマホ小説・コミック投稿サイト「E★エブリスタ」(以下エブリスタ)で企画・運用・開発など幅広い業務を担当する福島瞳美さん。常識にとらわれない発想とスピード感のある開発力で電子書籍業界で確かなポジションを築いたエブリスタのキーパーソンはどんな方なのか。

福島瞳美さん 福島瞳美さん。数学とPerlの話になると瞳に強い光が宿るのが魅力的です

大好きな「数学書」以外の本はほとんど読んでこなかった

E★エブリスタ E★エブリスタ

―― 現在、どのような立場で働いていますか。

福島瞳美さん(以下福島) エブリスタを運営するチームのリーダーとして働いています。

 エブリスタで働き始めた3年前は、主にシステムの工数管理をしていました。配属されて1年ほど経つころ、企画会議に出席したときに「ここは〜した方がユーザーにとってよいのでは?」など積極的に意見を出していると「じゃあ、それは福島さんにやってもらおうか」と突然リーダーにアサインされたんです(笑)。

―― エブリスタ以前はどちらで働いていたのですか?

福島 ディー・エヌ・エーです。大学院で数学を勉強していたこともあって、数学の考え方に近いシステム開発・運用をしたいと思い、2008年に新卒として入社しました。

 エブリスタには社会人3年目の春に出向する形でジョインしました。エブリスタがちょうどリリース直前でバタバタしていたので、「来週から(エブリスタに)行ってきて」と急きょ人事が決まりました。私自身、キャリアに明確な思いがある人間ではなく、弊社は各人をよく見て、それぞれの適性に応じた仕事をさせてくれる会社だと思っているので、何のためらいもなくエブリスタに入りましたね。

―― 突然の異動はすんなり受け入れられたということですが、もともと電子書籍自体に興味を持っていましたか。

福島 実はこれまであまり本を読まずに生きてきたんです。数学書を読むことは多かったですが、それ以外のジャンルで1冊読み切った本は両手で数えられるほどかもしれません……。

 実はエブリスタに入る前も、モバゲー小説コーナー(編注:エブリスタの前身)で展開されていた『王様ゲーム』など、とっつきやすい作品しか読んでいませんでした。エブリスタを立ち上げてからは、モバゲー小説コーナーにはなかったコミックコーナーを新設したので、徐々に読めるものが増えてきた感じです(笑)。

―― もともと本がお好きなのかと想像していました。直近で実施された取り組みについても教えていただけますか。

福島 2013年8月に販売プラットホームを開始して、クリエイターに還元できるようになりました。一方で、有料化に伴い、今まで無料で楽しんでいただいていた読者が離れていくのではという危惧(きぐ)もありました。素人が書いた作品を買ってくれる人は現れるのか、と不安に感じることもありました。

 そこで対策として、1日1話は必ず無料で読める仕組みを整えました。結果的には無料から有料に変えたことで読者が減ったということはなく、1日1話では満足せずまとめ買いしてくださる読者が現れたり、ランキングが上がることで新しい読者が増えたりとよい効果がありました。

―― エブリスタを訪れると「1日1話無料」という表示が目立ちますよね。

福島 作品を購入できる券「エブリスタ図書券」の購入動線を目立つ位置には配置しないようにしています。読みたい作品もないのに図書券を買う人はいないので、まずは1日1話無料で楽しんでもらうことに注力したんです。いよいよ手持ちの図書券がなくなったときに、初めて購入動線を表示するようにしました。エブリスタは1日1話無料で楽しむサイトで、オプションとしてエブリスタ図書券を購入してくださいね、という見せ方を心がけています。

 エブリスタは電子書籍販売サイトとしてではなく、コミュニティーサイトとしてスタートしているので、販売以前にまずは楽しんでもらうことを優先したいですね。

スマホで読まれる作品には「スマホ文法」が欠かせない

数学の話になると前のめり&腕まくり

―― サービス運用に携わる中で印象的だったエピソードを教えてください。

福島 スマホに特化した読ませ方・読み方があると知ったことです。

 エブリスタの小説を読んでいると、改行を多用した表現方法が多く、興味深いなと思ったんです。ガラケー時代のケータイ小説でも話題になった「改行で自分の気持ちを表現する」という意識が、スマホ小説ではさらに研ぎ澄まされている印象を受けました。

 中身がほとんど改行で構成されてシンプルなぶん、感情をダイレクトに表現しているので、本を読まなかった私でもコミックを読む感覚でどんどん読み進めていけます(笑)。スマホ小説はこうした読みやすさ、親しみやすさという点で評価いただいているようですね。

―― スマホで読まれることを意識して書かれた作品が、読者に受け入れられやすくなるのだなと感じました。そのようなスマホ独自の書き方を推奨するために、何らかの取り組みを行っていますか。

福島 もともとKindleなどで電子書籍を販売していたような方からすると、スマホ小説ならではの書き方の感覚をつかむのがなかなか難しいみたいです。そんな方たちにも「スマホ文法」に慣れていただくために、自分の作品をコピーすると自動的に改行を挿入してスマホ小説のスタイルに変換できる「スマホ形式に変換して再投稿する」ツールを用意しました。

 これを使うと1ページあたりの文字数を200〜350文字程度に、1ページあたりの行数を50〜70行程度にと、スマホで読みやすい形に整えられます。ぜひ活用していただいて、スマホ文法を意識していただきたいですね。

―― こうした新機能のリリースや機能変更・追加などはどのような基準で、どれくらいの頻度で行っているんですか。

福島 クリエイターからの要望を受けて判断することが多いですね。基本的には1週間に数回会議を行い、承認をもらったら翌週にはリリースするスケジュール感で機能を変更・追加しています。小規模なUI変更だと、承認された当日中にリリースすることもあります。

―― スピード感がありますね。クリエイターからはどのような形でフィードバックをもらえるのでしょうか。

福島 私たち社員はエブリスタに公式アカウントを作っています。そのアカウントあてにクリエイターの方から「使いやすくなった」などのコメントをいただくことが多いです。これが仕事をする上でかなり励みになりますね。中には弊社で行っているコンテスト関連でオフィスを訪れるクリエイターもいますが、彼らから直接お礼を言われることもあり、これも幸せを感じる瞬間です。

―― 一方、まだあまり注目されていないクリエイターを発掘する、といった取り組みもされているんでしょうか。

福島 常に探しています。新着からカテゴリを絞り込んで読んでいったり、レビューが多く書かれている作品を読んでいったりすると、10作品に1つくらい「これは!」と感じるものが見つかるんです。面白いなと感じた作品をピックアップしたときに、読者の反応を想像以上に得られたことがあって、そのときは嬉しかったですね。

まだ日の目を見ていない作品を掘り起こして人気作品化するのが楽しい

―― プライベートというか、イチ読者としてもそうした“発掘作業”をすることはありますか。

福島 気に入った作品に対し、個人アカウントからレビューを書くこともあります。するとほかの読者も次々にレビューを書き始めて、その作品がどんどん読まれるようになっていった、という思い出もありました。最近は作品を読むのも楽しくなってきましたが、実は作品を探している瞬間の方が楽しいかもしれないと感じています。

―― 探す楽しみですね。最近エブリスタで人気の作品を教えてください。

福島 コミック作品の『インフィニティ デイズ』です。App Storeでアプリ化もされ、外部からも読者が入ってくるようになりました。私自身も作品に出てくる女の子を見ているとキュンとします。レビューを眺めていると女性読者も多いようですね。

―― 紙の書籍についても少しお聞きしておきたいです。本はあまり読んでこなかったと最初に伺いましたが、これまでに影響を受けた1冊を教えてください。

福島 社会人になってから読んだ『武器としての交渉思考』(瀧本哲史著/星海社新書)は私に大きな影響を与えてくれた1冊です。

 これを読む以前は、人にものをお願いするときに、自分の都合ばかり押し付けていました。それをしてくれる相手側にはどんなメリットがあるのかを伝えていなかったんです。単に「これ、お願いしますね」と伝えるだけで。その結果、一度は「はい」と言ってくれたはずの相手が、そのお願いを先延ばしすることにいら立ったことも……(笑)。でも、相手のメリットをきちんと伝えることで、上手くお願いできるようになり、きちんと対応してもらえるようになりました。この学びは仕事面でも生きています。

―― 今後仕掛けたいことについて教えてください。

福島 紙の書籍と電子書籍との差は、どこまで読まれたかが分かることだと思います。何話まで読まれて、何話からは読まれていない――これが数字で明確に現れるんですよね。電子書籍にはその数字を見て作りながら直していけるというメリットもあります。

 これに加え、今後はクリエイターに「読者がどのような反応を示しているか」が分かるようなツールを提供し、さらなる創作活動に役立ててほしいと考えています。月間売上が100万円を超えたクリエイターが2名(2014年2月19日現在)出ていますが、まだまだエブリスタの執筆活動だけで安心して生活できるような安定した収益は提供できていません。クリエイターたちにさらなる価値を提供できるサイトにして、創作活動に専念いただけるようにしたいですね。

―― 最後に、エブリスタを利用する方たちへメッセージをお願いします。

福島 クリエイターと読者の皆さんのおかげでエブリスタは成り立っています。皆さんが「こうしてほしい」「こうなってほしい」と感じる声を聞きたいので、ぜひ私たち運営の公式アカウントに声を届けてください。

 また、特定の作品やコミックなどのアプリでエブリスタを知ってくださった方は、面白いと感じてもらえる数多くの作品と出会えるはずなので、ぜひE★エブリスタも覗いてみてください!

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