インタビュー
» 2014年05月16日 11時00分 公開

海外の電子書籍市場で日本の小説を売るということ――プロデューサー清涼院流水に聞く (3/3)

[陰山遼将,eBook USER]
前のページへ 1|2|3       

BBBの到達点とは そしてその時、日本の出版業界は?

―― 日本の文芸に関して英語圏での展開があまり進んでいない背景を清涼院さんはどう推察していますか?

清涼院 先ほども述べましたように、まず、英語ができる人材が少ないというのが1つ。もう1つは僕の分析ですが、ようやく英訳された数少ない貴重なコンテンツを海外で売るときに、国内と同じテイストのまま出しているから、あまり上手くいかないのではないかと思うんです。僕は日本人の作家さんの作品を英訳し続けていますが、当然ながら作品はセレクトしていて、英訳に向いているものから順番に発表しています。

三人小坊主:千葉千波の事件日記 三人小坊主:千葉千波の事件日記

 例えば、今年の1月に刊行した高田崇史さんの『三人小坊主:千葉千波の事件日記』という作品があります。高田さんは日本史をテーマにした作品をよく書かれるのですが、彼の作品の中でも日本史ネタが少ない作品を選んで、さらに、海外の人には伝わりにくい部分は著者と相談してカットしています。

―― それは読みやすさへの配慮ということでしょうか?

清涼院 例えば、「君は明智光秀みたいだね」という台詞があったとして、それをそのまま英訳しても海外の人には意味が伝わらないですよね。そういう箇所が出てくるたびにいちいち説明を書き加えると、読んだときのドライヴ感が損なわれ、結果的に読みにくいものになってしまうので、そういう配慮やアレンジは必要だと考えています。

以前とは別次元の刺激と充実感

―― マンガですと赤松健さんや佐藤秀峰さんなどが、いろいろな新しい形を模索されているのに対し、文芸はそういう動きが少ないように思います。

清涼院 僕自身もbbbcircleで体験できましたが、マンガには絵の力で言葉の壁を超えられる面もありますよね。言語の問題については、小説家の中には、英訳してしまうと日本語の繊細なニュアンスが届けられない、と考えている方もいらっしゃいます。僕は届けられると思っていますが、そもそも英訳なんてしてどうするんだ、という意見もあるでしょう。特に、年配の大御所作家の方ほど、そう考えるでしょうね。ある先輩作家から「翻訳ソフトがどんどん進化していくだろうに、英語なんて勉強してどうするの」と皮肉られたこともあります。先ほどの出版社の役員の話にも似ていますよね。

 海外で受け入れられやすくするためのもう1つの戦術として、作家の方が英語圏のロジックや好みを理解して書くという方法もあると思います。

 BBBに参加してくれている神狩り博士は、このプロジェクトからデビューしてもらった日本人の新人作家ですが、幼いころから20年以上海外で過ごして、アメリカの大学院で物理学を専攻していたバイリンガルなんです。彼は日本語と英語を同じレベルで扱うことができるので、同じ物語でも日本語テイストと英語テイストで見事に書き分けています。しかも、言語の性質に応じて別の面白さを生み出せている、という素晴らしい才能です。ノンネーティブで日本語と英語で作品を意識して書き分ける作家は、日本の文学史では、僕や神狩り博士が最初の事例となるでしょう。彼は確実にこれから注目される作家だと思いますし、今後は彼のような作家さんも増えてくると予想しています。

―― 清涼院さんにそこまで言わせる神狩り博士さんにも興味は尽きませんが、清涼院さんご自身が海外と国内の両方を意識された作品を書かれる予定はいかがですか?

清涼院 その構想は実は既にありますし、書きたいですね。でも今は、その前に片づけないといけない宿題が山ほどありまして(笑)。時間に追われる日々ですが、小説を執筆するだけだった以前の立場とは別次元にある刺激的なプロジェクトを続けていることで、今までにない充実感も味わっています。

国内出版業界からの反応は?

―― 1年半ほどBBBプロジェクトを運営なさってきて、国内の出版業界からの反応はいかがですか?

清涼院 基本は中立的です。もちろん中には、良く思われない方もいらっしゃるでしょう。作家主導で利益を出す仕組みが完全に成立してしまったら、既存の出版社には快いはずがありません。

 逆に、出版関係者から「助かります」という嬉しいご意見をいただくこともあります。BBBのようなプロジェクトが発展していけば、紙の出版だとリスクを恐れて出せないコンテンツも出せますし、そうした作品の救済措置、受け皿として機能するのであれば、業界としても絶対にプラスであると。

 僕は出版業界に対して何か憤りがあるということではなく、何とかより良い形に変化して欲しい、という気持ちなんです。既存の出版社とは共存共栄で、少しずつ現状を変えていけたらと願っています。

BBB、そしてコンテンツの未来を見据えて

―― 今後のBBBと清涼院さんの展望を教えてください。

清涼院 展望というか、ゴールはプロジェクト発足のときから変わっていなくて、近い将来、関わった作家さんみんなが潤うようなレベルまで発展させていきたいと考えています。具体的には、文芸誌に書くより収益が得られるようになる辺りが1つの到達点かなと。

 そこまでプロジェクトが発展すれば、BBBが出版業界そのものの仕組みにも影響を与え得る選択肢となるかもしれませんね。いつの間にかそのような挑戦をする立場に自分が置かれていて本当に不思議なのですが、できる限りのことはやってみたい、という使命感だけで今は動いています。

 僕は紙の本も大好きですが、紙か電子書籍か、といったフォーマットにはこだわっていなくて、コンテンツの送り手と受け手がハッピーであれば、それで良いと思っています。でも、デジタルは間違いなく便利だし、歴史的にも人類は必ずより便利な方向へ流れていくので、それを見据えたBBBのような模索は、今後さまざまな形で為されていった方がいいことも間違いありません。

 将来的には、BBBが苦労して模索して見つけた道を通って、いとも簡単にわれわれを乗り越えていく若い世代が続々と出てくることになるでしょう。それが歴史の必然です。世界で縦横無尽に活躍する未来のクリエイターたちのためにも、BBBが確かな道筋を示せればいいなと思っています。この記事を読まれた方が、具体的に何かのアクションで応援していただけると、とても嬉しいです。

―― 知の高速道路ならぬ、日本の小説のグローバル展開へのハイウェイですね。ありがとうございました。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

コンテンツパートナー

新刊JP
ラノコミ.com
hon.jp
新文化通信社
Good E-Reader Blog
ぶくまる