FEATHERは「新・小説の四次元殺法」――長州小力はそう語る

» 2015年03月25日 07時00分 公開
[西尾泰三eBook USER]
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 正式な出版前に、秋葉原で2000冊の無料配布イベントを実施するなど、各方面で話題となっている新作の長編SF小説『FEATHER 〜世界は、ひとつじゃない。』。よー清水さん、藤ちょこさんら、複数の人気イラストレーターによる豪華な挿絵や装丁も作品の魅力を一層引き上げる中、タレントたちによる「PR大使」も話題だ。

 すでにPR大使の一人、大桃美代子さんへのインタビューもお届けしたが、プロレスラー長州力さんのモノマネで知られる芸人の長州小力さんがPR大使となっているのも興味を引く。はたして、長州小力さんは一体どんな言葉で作品の魅力を語るのか。小力さんに話を聞いた。

長州小力さん FEATHERを手にする長州小力さん

FEATHER 〜世界は、ひとつじゃない。1巻書影 FEATHER 〜世界は、ひとつじゃない。1巻書影

―― 多分これを最初に聞くべきかと思うんですが、なぜ、小力さんはFEATHERのPR大使を務めることになったのでしょう?

小力 単純に言ってしまえば、依頼を頂いたから、ということになるんですが(笑)、お話を頂いたとき、なかなかない話で面白そうだなと思ったのと、あまり僕のイメージでない仕事ですが、イベントなどに出ることでインパクトを与えられるのなら、お引き受けしてみようかなと。

―― 小力さんと本の組み合わせがイメージし難いところがあるんですが、普段、本はよく読まれる方ですか?

小力 読むこと自体は嫌いじゃないんですが、読むのがものすごく遅いんですよね。読み始めると眠くなってしまう方で。移動の合間や寝る前に少しずつ読み進めるので、すごく時間が掛かるんです。

 ノンフィクションというか、実際に起きた事件を扱った作品が好きで、三億円事件やグリコ森永事件のような未解決ものを扱ったものをよく読んでます。

―― 意外です。ちなみに、中でも一番気になる事件は?

小力 やっぱり三億円事件ですね。僕が生まれる前の事件ですけど、あのモンタージュ写真がすごく印象的で。でもあのモンタージュも後で取り下げられたりとか、当時と今の捜査手法の違いなども比較しながら読むとすごく面白いんですよ。

小力さんがとりわけ気に入っているというアウリ・スコールズ

―― FEATHERにはどんな印象を持ちましたか?

小力 僕は正直、ちょっと難しいなと思いながら読みました。話の展開はダイナミックで面白いんだけど、専門用語とかがたくさん出てくるので。登場人物も多く、それぞれの関係が分からなくなったりして、何度も読み返しながら読み進める感じでしたね。

―― 表紙のイラストなどが、いわゆるライトノベル的な印象を与える割には、ハードなSF作品に仕上がっていますよね。

小力 そうですね。すごく可愛らしい絵とのギャップも作品の魅力だと思いながら読んでいました。特に(登場キャラクターの一人)アウリは表情が印象的で。最近、プライベートでも女性の容姿ではなく、表情、特に目にすごく引かれるようになってきたので、そういう意味でもこの絵にヤラレちゃってますね〜(笑)。

エンタメ視点でみたライブと小説

電子書籍ではあまり読まないと小力さん。ただ、Nintendo DSで古典名作を読める「DS文学全集」は好きで使っていたとも

―― 人を楽しませるエンターテインメントという意味で、芸人・長州小力は、芸と小説に近しいものを感じたりはしますか?

小力 僕らが舞台などをやるときは、ライブ感をすごく大事にします。芸をやると、その反応がすぐ目の前から返ってくる。その時々のお客さんに合わせてネタを変えたり、力の入れ具合を変えたりして、その場のお客さんに楽しんでもらおうとします。

 一方で、小説は、そういうライブ感でもって、その場で作り上げるということはできませんよね。作者が準備したさまざまな要素を可能な限り詰め込んで、それを相手に渡すというところが、大きく違うなと思います。

 どちらが良いというものではなく、それぞれ得意なところ、不得手なところがあるのかなと。仕事で小説を読ませていただくような機会はあまりないので、そんなことを考えながら読んでいました。

3月21日に東京・秋葉原で開催された記念イベントではたくさんパラパラ踊られてました

―― ライブとの対比で小説を考えるのは面白いです。パッケージとして閉じている本を作品として届けるのとはまた違うのでしょうね。

小力 あとは、分かりやすさと難しさとかの割合ですね。僕がネタを考える時は、お客さんがモノマネの元ネタを知っていても知らなくても楽しめるよう、できるだけ分かりやすいものを意識して作ります。

 でも多分、小説は舞台物の芸と同じような割合で分かりやすいものを作っちゃうと、楽しくなくなるんじゃないかと。舞台の場合は7対3くらいで分かりやすい感覚を大事にするのが、小説の場合は5対5くらいな感じというか。

―― 著者の七村謙さんは、分かりやすさでぐっとつかむんじゃなく、お客さんの心の中にそ〜っと置いてくる感じ、と表現していました。

小力 なるほどね。僕はライブをやるとき、必ずお客さんの目を見てやるようにするんですけど、そうやって相手にぐっと入り込むのとは違うと。同じエンタメでもそこが違うのは面白いですね。

FEATHERは「新・小説の四次元殺法」だ

―― 少し話題は変わりますが、小力さんはマンガやSF作品で印象に残っているものはありますか?

小力 マンガは学生のころによく読んでいましたけど、ほとんど不良マンガでしたね。『ビーバップ・ハイスクール』とか『湘南爆走族』とか『Let'sダチ公』とか。他には、実在のプロレスラーを伝記風に描いた『プロレススーパースター列伝』も好きで、今でも単行本を持ってます。プロレスと一緒で、今はあまり身近に感じないかもしれないですけど、僕らの時代は結構身近でしたね、不良マンガもプロレスも。

 SF作品となると、やっぱり世代的にも『スターウォーズ』ですかね。世の中全体で盛り上がっていたまっただ中でしたから。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』もそうですね。

―― バック・トゥ・ザ・フューチャーといえばタイムマシン。FEATHERもタイムマシンが登場しますが、もし過去や未来に行けるとしたら、小力さんはどちらに行きたいですか。

小力 過去にはあまり興味はないです。歴史は好きですが、歴史物ってはっきりしないからロマンをかき立てられるところがありますよね。例えば幕末に行ってみたら、実は坂本竜馬がとんでもなく情けないやつだった、なんてなったら興ざめじゃないですか(笑)。

 だから、行くとしたら未来。自分が生きているであろう向こう40年くらいので世の中がどれだけ変わっているのかに興味があります。未来を想像するのは難しいですね。

 昔、手塚治虫さんを筆頭とする漫画家さんたちが描いた未来の姿が、もちろんまだまだ実現していないことも多いけれども、例えば腕時計型の端末を使って他の人と会話をするとかはもう現実的。こういうのが実現しているのを目の当たりにすると、さらに40年後、自分自身は何をやっているのかな、というのに興味があります。

―― 小力さん自身はスマートフォンなどは使われたりしますか?

小力 いや、全然駄目。スマートフォンも一応持っていますけど、全然使いこなせなくて。iPadが出たときも、どうしても欲しくて買ったんですが、いまだにアプリが1つも増えてない、みたいな状態です(苦笑)。

 昔は、単純に周りではやっているのについていくのって、あまり好きじゃなかったんです。でも、年齢を重ねると保守的になって、自分の好みのものばかりで身の回りを固めちゃうから、だんだん、逆につまらなくなってきたんですよね。

 だから最近は、自分とは違う感性だと思っても、他の人が薦めてくれたものは、一度は受け入れてみようと意識しています。その結果、やっぱり使いこなせないとかもたくさんあるんですけど、いざ、小さな勇気を出して取り組んでみたら意外と面白かったりする。そういう刺激を常に受けて、いろんなことに興味を持つのは、自分の仕事にも必要だと思っていますので。

―― 小力さんは、コントプロレス「西口プロレス」ももう14年続けられているんですよね。ここはぜひ、FEATHERという作品をプロレス用語で表現していただければと思うのですが。

小力 やっぱり「バトルロイヤル」ですね。と言っても、ヘビー級の選手たちがグダグダやってる感じのではなくて、ジュニアヘビー級の人たちが、皆、ちゃんと自分の役割をしっかり果たしている感じの。観客として見ていて一番プロレスの魅力を感じられるバトルロイヤルの試合、です。

―― ジュニアヘビー級のルチャ、みたいな感じでしょうかね。そのイメージで作品のキャッチコピーをつけるとしたら?

小力 「新・小説の四次元殺法」で(笑)。

―― 四次元、この作品にはいい響きです。それでは最後に、この記事を読んでいる読者の方々へのメッセージを。

小力 プロレスも実際に見に行くのが面白いように、小説も、手に取って読まなきゃ何の興味も出ないっていうか。本当に楽しもうとするのなら、自分の足を使って見に行ったり、自分のタイミングで没入して読むっていうのが必要だと思います。

 このFEATHERという小説は、“楽しめる”作品なんじゃないかと。僕でも読めるということは、相当幅広い読者が楽しく読める作品になっていると思うし、普段から本を好きで読むような人たちなら、もっと深いところまで魅力を掘り下げるような読み方もできる奥行きのある作品です。繰り返し読むたびに新しい発見がある作品なので、多くの人から長く愛される作品になってほしいですね。

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