教育分野に特化したACCESSの新ブランド「Lentrance」、教材のデジタル化に自信

実績を積み重ねてきた電子出版プラットフォーム「PUBLUS」から独立させ、教育分野に特化したACCESSの新ブランド「Lentrance」。ACCESSで教育事業を統括する石橋穂隆氏の話を交えながらこのソリューションの特徴をみていこう。

» 2015年09月18日 06時00分 公開
[西尾泰三eBook USER]

 ACCESSが教育分野の事業強化を目的に、9月15日に発表した新しい製品ブランド「Lentrance」。同社の電子出版プラットフォーム「PUBLUS」から独立させ、教育分野に特化したソリューションの特徴を、ACCESSで教育事業を統括する石橋穂隆氏の話を交えてみていきたい。

Lentranceとは?

ACCESSで教育事業を統括する石橋穂隆氏 ACCESSで教育事業を統括する石橋穂隆氏

 まずは今回の発表内容のおさらいから。Lentranceというブランド名称は、“Learning”と“Entrance”を組み合わせた造語。

 “学ぶ意志を持つすべての人々にとって学びの入り口となる”ICT教育プラットフォームの提供が同社の教育事業が掲げるビジョンだ。

 これは狭義では電子教科書だが、視野を広げるとそうしたコンテンツを用いた学習サイクルを学校だけでなく、塾や通信教育なども連携させる形にすることで、個人の生涯にわたる「学び」をサポートしていこうとするものであると石橋氏は話す。

 Lentranceのコアとなるのは、リーディングシステム(ビューワ)と、コンテンツの制作支援部分。ビューワの名称は「Lentrance Reader」、制作支援のソリューションが「Lentrance Creator」。また今後、学習管理システム(LMS)や校務システムなどとの連携、学習者の理解度に応じた教材/学習方法を提示するアダプティブラーニングへの対応なども計画されている。

 これらはパートナーとの協業なども視野に入れており、すべてをACCESSが提供するというよりは、xAPI(eラーニングにおけるデータ連携の次世代標準仕様とされるもの)ベースで連携可能にするようデザインされているという。標準的な仕様にしっかり準拠する姿勢は、PUBLUSで採られたアプローチにも重なる。将来的にはビューワのSDKも提供する考えもあると石橋氏は話す。

Lentrance Reader

 Lentrance ReaderはPUBLUSソリューションの中では「PUBLUS Reader for Education」と呼ばれていたEPUBビューワをベースにしているもの。教科書のような複雑で特殊なレイアウトもEPUB 3の仕様に準拠しながら正確に再現し、さらに固定レイアウトとリフローを組み合わせたハイブリッドな表示を可能にするなど、版面再現とアクセシビリティの両立を志向している。

 なお、ここでいうハイブリッドとは固定レイアウト型(画像またはSVG貼り付け)をベースに、必要に応じて文字部分をポップアップでリフロー表示できることを指す。

Lentrance Readerでファイル(EPUB)を開いたところ Lentrance Readerでファイル(EPUB)を開いたところ
アノテーションなども可能。これらのデータもLMSなどのシステムと連携していくICT教育プラットフォームが構想されているようだ アノテーションなども可能。これらのデータもLMSなどのシステムと連携していくICT教育プラットフォームが構想されているようだ
固定レイアウトの文字部分をタップやクリックで選択するとリフロー表示のポップアップが開く。 固定レイアウトの文字部分をタップやクリックで選択するとリフロー表示のポップアップが開く。フォントサイズや背景色などを変更できる

 「ACCESSとしては特別な支援を必要とする学習者にも配慮した機能拡張を重視している」(石橋氏)

 PUBLUS Reader for Educationのころからすでに東京書籍や教育出版の学習者用教材ビューワとしての採用実績があるが、Lentrance ReaderではEPUBに限らず、PDFや画像・音声・動画といったコンテンツタイプも扱えるようにするなど、より教育現場でのニーズを取り入れたものになっている。また、「オフラインでもコンテンツを参照できるようにすることも現状では重要なニーズの1つ」と石橋氏は話す。

 Lentrance Readerは現時点でWindowsアプリが提供されているが、今後、iOSアプリとブラウザビューワでも提供予定。Androidアプリは、端末ごとの最適化が困難なことから、現時点での提供計画はないとし、ブラウザビューワがそれをカバーしていくことになるだろうと石橋氏は話す。記者は先行開発版のiOSアプリとブラウザビューワのデモを見たが、UI/UXはWindowsアプリとほぼ変わらないものだった。ブラウザビューワ版はオフライン時の動作をどう担保していくかが見どころになりそうだ。

Lentrance Creator

 一方、コンテンツ制作支援を担うLentrance Creatorは、コンテンツホルダー側がEPUBコンテンツ制作を行う際の自動化ツール(と基本的な手順書)である。

Lentrance Creator Lentrance Creator画面。プラグインとしてはInDesignからPDFを出力し、IllustratorでEPUB変換を掛ける。フォントはSVGまたはアウトライン化が選択できるようだ。

 具体的には、InDesignなどAdobe製品のプラグインとして提供され、固定レイアウトとリフローのハイブリッドコンテンツや、音声埋め込みなどの制作作業を効率的に行えるようにしている。最終的なアウトプットはEPUBファイルで、EPUBの仕様に準拠したものとして出力される。ユースケースとしてはあまり想定されていないと思われるが、一般的なEPUBビューワでこのファイルを開けば、固定レイアウトできれいに表示されるだろう。

 なお、石橋氏によると、Lentrance Creatorは制作上のノウハウをフィードバックさせ、より効率的で短時間での自動化が行えるよう、短いスパンでブラッシュアップを図っていく考えだという。


 教育現場で利用されている教材の電子化における課題については、過去、東京書籍とACCESSに取材した「教材のデジタル化、その課題と挑戦――教科書出版の老舗、東京書籍がACCESSと協業のワケ」にまとめた。この取材から1年半ほどがたったが、技術上の課題は少しずつ解消されていっている印象を受ける。

 現在、教育現場で利用されているデジタルの教材はすべて教科書出版各社などが自由に企画販売できる「教材」で、文部科学省が公示する「教科用図書検定基準」に合致した「教科書」とは区別される。つまり、「電子教科書」「デジタル教科書」といったものは現状存在しない。2015年5月からデジタル教科書の位置付けをめぐる検討会議が文部科学省で始まり、議論が進んでいるところである。

 そうした制度面の動向を注視しつつも、標準仕様/技術に準拠したプラットフォームを整えているのがACCESSのLentranceといえる。この分野では、ACCESSのほかにも、CoNETSなどが意欲的な姿勢を見せているが、多くの教科書・教材出版社はすう勢が分かるまで様子見というところだろう。

 教育“現場”の概念を学習者視点でとらえると、学校、塾、予備校、語学・資格などの各種学校などさまざまな学びの場が存在する。そこで求められる要件をしっかりとくみ上げ、それらを連携させることで個人の生涯にわたる学びをサポートしていこうとするのがACCESSの考えるICT教育プラットフォームといえる。今後登場してくるであろうLentranceの採用事例、教育サービス事業者との連携など、しばらく注視したい存在となりそうだ。

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