「ブログ感覚で作れる電子書籍」の快進撃〜「パブー」吉田氏に聞く(後編)(4/4 ページ)
ブログ感覚で電子書籍を作成でき、そのままオンラインで販売までできてしまうpaperboy&co.のサービス「パブー」。同社の取締役副社長で、パブーの責任者を務める吉田健吾氏が明かした企画からオープンまでの足跡をたどった前回に引き続き、後編となる本稿では主にビジネス視点から見たパブーの成功要因や今後の戦略について聞く。
ブログとの連携はできれば早い段階で実現させたい
いま注目しているサービスとして、吉田氏は星海社の「最前線」*を挙げる。「既存の出版社さんの電子書籍周りの動きというのは既刊をどうやって出していくかというのがほとんどですが、最前線がやっているのは完全に新しいことで、わざわざ新しく会社を立ち上げてチャレンジしているところがすごく面白いなと思います。インタフェースもすごくよくできていて、Web上のビューアとしてはいま最も品質がいいのではないかと思います」(吉田氏)
── 当初の企画時に、海外に向けても日本の漫画文化を広げていきたいという意向があったとのことでしたが、今後具体的なアクションは予定されていますか? 例えば、現在公開されている漫画の吹き出しを英語に変えて海外に展開するとか。
吉田 海外展開や翻訳といった話は、すぐに動きがあるようなものではないのかなという感じですが、実は、うめさんから台詞だけ別ファイルにできないかなどといったアイデアをいただいていたりします。現状はPDFとEPUBという比較的オープンなファイルフォーマットをターゲットにしているので、独自でできるところがどれくらいあるのかなというところでしょうか。
後は、自分のホームページでWeb漫画を公開している方が、パブーを公開先の選択肢の1つと見ていただけるよう、もう少し訴求していく必要があります。パブーで公開するとたくさんの方に見てもらえるというのがシンプルで分かりやすいメリットだと思いますが、それ以外にも、例えば読者からのリアクションがもらいやすいといった点などを強化していければと考えています。すでに、FacebookやTwitter、mixiチェックなど、外部サービスとの連携は積極的に行っていて、コンテンツが作られていく中でのインタラクションは入れられるようにしていきたいですね。
サービス運営側の視点で言えば、絵本や漫画が比較的パラパラとめくって見てもらいやすいんだなという感触を持っています。小説だと少し腰を据えて読む感じになるのと、読み進めないと内容が分かりにくいということもあるので、絵本や漫画がそうした傾向を示すのだろうと考えています。今後、特集などを組んで、もう少しそれらにフォーカスしてもよいかなと思っています。
── 御社のほかのサービスとの連携はどうですか?
吉田 ブクログについてはブクロブのパブー本棚っていうのを既に作ってありますが、もう少しパブーの中に入れ込んでいきたいと思っています。後はJUGEMからのインポート機能ですね。ブログの過去記事のうち、特定のカテゴリーを切り取って電子書籍として再編集できる機能などを早々に実現させたいです。
── XMLを読み込んで本として出力するといったことですか?
吉田 そうです。海外だとSmashwords*やKindle DTPなどでは、Microsoft Wordで作成したファイルをアップロードできるんですよね。パブーでも小説を書いてらっしゃる方だと元原稿はWordファイルというケースがあるので、そうした方が気軽にアップロードできるようにしたいですね。現状は編集画面にテキストをコピペしてもらってる状態ですので。
── 書き手からの要望を受けて変更を検討されていることはほかにありますか?
吉田 PDFの品質です。現在用いているPDFをジェネレートしているエンジンは、禁則処理などをうまく入れられてないので、現在作り直してます。
後は、縦書きで表示したい、という要望でしょうか。現状、縦書きテキストは表示できないので、縦書きの作品を提供するために、画像で公開している方もおられます。現状ではEPUB自体が、縦書きができない仕様ですが、EPUB 3.0ではルビや縦書きがサポートされる流れになっています。EPUBで縦書きができるのであれば、PDFでも縦書きができるので、パブーでも縦書き表示をサポートできるのでしょうが、現状ではPDFとEPUBというかなり性格の異なるフォーマットに対して、どちらかに完全にフォーカスしてしまうと、片方のフォーマットが適当になっていきますので、そこは少し様子見です。
── そのほかのフォーマット、例えばXMDFはどうなんでしょう。
吉田 XMDFは、縦書きの表示ができて、リフローするという点ではEPUBと同じで、EPUBと同じ仕様で作れるという話はシャープさんに伺っているので、XMDFにジェネレートして後はGALAPAGOS用に、という形だと、EPUBと同じような形でできるかもしれません。
ただし、文字だけ、あるいは画像だけというのは簡単ですが、両者が混在している場合が大変です。漫画はPDFにしろEPUBにしろ画像1枚ですので、ページの大きさが合えばそれでいいのですが、画像があって文章はそれに回り込ませて……というレイアウトになると、縦書きと横書き両方に対応したレイアウトを生成する必要があるので、悩ましいところです。
── それはXMDFに限った話ではなくて、全般的な課題としてある?
吉田 そうです。複雑なレイアウトを可能にすると、その制作が難しくなるというトレードオフが発生するため、どの辺りまでまで作り込むべきかは様子を見ながら考えていく感じですね。究極的にはAdobeのInDesignのようなものをWebサービスとして提供するところに行き着いてしまうと思いますが、そうなると誰でも作れるというメリットがなくなってしまうので悩ましいところです。しばらくは手軽さを重視したいので、細かいレイアウト上の要望は少し待ってください。
── 逆に、多くのクリエイターの人たちが流入してきて要望が増えてきたら、そういった展開もあり得るということでしょうか?
吉田 そうですね。もしかすると、手軽に使いたい一般の方と、凝ったものを作りたいという方を分けて考える方向性もあるかもしれません。
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
注釈
- Smashwords:海外の電子書籍出版・販売サイト。ここで購入した電子書籍は、KindleやiPadなどさまざまな電子書籍端末で閲覧できる。
- 最前線:講談社の子会社である星海社が運営する電子書籍サイト。DRMフリーの小説や漫画などを無料で公開している。
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