「萌えやツンデレを輸出すべし」――パロ同人誌を合法化、国際化するには:漫画家・赤松健×小説家・桜坂洋 電子書籍対談(中編)(2/2 ページ)
Jコミで、二次創作同人誌の合法化も試みようとしている赤松健さん。「萌えやツンデレを輸出していくべき」と話すが、課題も多い。
それに対して現状では「いいですよ」とは簡単に言えないですよ。正直なところ。そこは事情を察してほしい。本当に微妙な問題ですよね。
桜坂 国際標準を考えると、日本はポルノに対して鷹揚すぎですからね。もしも日本のマンガが世界市場を目指すなら、そのためには最初から世界標準を視野に入れなくてはいけません。
日本でオッケーなものでも、それを海外に持ち出したとき、ダメになる可能性はあります。
しかも、この場合の文句というのはなぜか一次創作サイドに向かうでしょうから、それが問題になりますよね。描いた人だって、他の人に文句が行くことなんて望んでいないのに、相互理解がないゆえに不必要なコンフリクトがよく発生します。
この問題さえなかったら、出版社だって同人作品への版権許諾もオッケーを出すはずなんですよ。一次創作サイドにしか文句が届かないシステムを、まずどうにかしないといけませんね。
赤松 ただそうなると、規制が大きくなってしまいますよね。世界進出を考えるのならば、たとえば日本にエログロも含む全ての作品を収集しておいて、海外の方から、取捨選択して持って行ってもらう、という形しかないんじゃないかな。
一部の国に関しては、性表現が障壁になって輸出できない事情もありますが、でも需要があるんだったら、作者側だって読んではもらいたい。
ファイル配布を考えるのなら、海外向けのテキストや広告に対応したファイルを用意しておけばいい。そうしたら、ダウンロードされた先で複製されて、その地でバーッと広まりますから。
僕は、同人誌は、「日本に埋蔵されている資源」としては、恐らく最強最大の部類で、世界的な需要があると見込んでいます。もちろん、エロやBL(ボーイズ・ラブ)がメインなので、かなり問題のある輸出品ですが……(笑)。
でも、アメリカからは『インデペンデンス・デイ』(ローランド・エメリッヒ監督、1996)に象徴されるようなハリウッド的・アメリカ的価値観がバンバン輸出されている。だったら日本からもっと萌えやツンデレを輸出していけば、世界に戦争なんか無くなりますよ。もし日本文化で世界を征服できるのならば、恐らくオタク文化でしかあり得ない。
桜坂 私もそう思います。それに「俺がOKと言ってるんだから二次創作はあったほうが嬉しい」と考える作家さんがいてもおかしくはないですね。
赤松 僕はこれからJコミに参加する作家さんのものについては、エロを抜いた二次創作をつくっていい、売っていい。という流れにしたい。
そうすれば二次創作の作家にはお金だけじゃなく原著者の許諾をもらったという誇りも入ります。これっていいことじゃないですか。今の同人誌を描いている人って、常に潜在的に訴えられる可能性を持ちながら、コソコソと描く恐怖感を持たなきゃならない。そういう向きにも解決策を出していきたいんです。
たとえば僕だったら、『ネギま!』で使っている背景の3Dモデルデータを、『ネギま!』の同人誌でも自由に使えるようにしたりとか。僕、このデータをアニメ会社にも提供していて、アニメーション版『ネギま!』に出てくる建物とか、実際にマンガで使われている本物の背景データなんですよね。
僕の場合は、そんな本物のデータを提供して、二次創作をつくってもらっていい。もしかしたら作者より上手くておもしろいものができるかもしれない――。これが究極的な同人スタイルじゃないかと考えています。
ただしこれは僕の考え。「自分の作品は誰にもいじられたくない!」という考え方の作家さんも大勢いますから、そういう人はちょっと同人誌を許諾するのは無理ですけどね。
赤松健
1968年生まれ。漫画家。1993年「少年マガジン」誌にてデビュー。翌1994年、『A・Iが止まらない!』にて初の連載を開始。1998年には『ラブひな』をスタートさせ、この作品は第25回講談社漫画賞を受賞するヒットとなった。現在は『魔法先生ネギま!』を連載し、この作品もアニメーション、キャラクターグッズなどさまざまなメディアを巻き込む大ヒット作となっている。2010年11月より絶版マンガ作品を広告入りで無料で配信する会社、Jコミを立ち上げ、社長に就任する。
桜坂洋
1970年東京都生まれ。小説家。2003年、集英社スーパーダッシュ文庫『よくわかる現代魔法』にてデビュー。その後『スラムオンライン』(ハヤカワ文庫、2005年)などの作品を発表。2004年に発表した短篇『さいたまチェーンソー少女』では第16回SFマガジン読者賞を受賞する。ライトノベル界に熱いファンを持ち、かつ、いわゆる文芸領域からも高く評価される書き手。同人活動の造詣が深く、また自身もマンガやゲームなどのキャラクター表現のファンとしても知られる。
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