電子書籍における漫画インタフェースを大いに語る(前編):うめ・小沢高広×一色登希彦×藤井あや(3/3 ページ)
漫画が電子書籍として配信されるケースが増えている中、漫画家の意見はあまり反映されることなく進んでいる感がある。本特集では、うめ・小沢高広氏、一色登希彦氏、藤井あや氏という電子書籍の出版経験を持つ現役の漫画家3名が、思いのたけを語り尽くす。
「最初からこういうものだと思って触ってしまえば、違和感はない」(一色)
── 電子書籍では、紙の本と違って苦手な操作や表示方法がありますよね。見開き表示もそうですし、紙のようにページをぱらぱらめくるような動きだったり。そうした点が気になることはありますか?
小沢 ページめくりには違和感がありますね。指3本でフリックしたり、端末を傾けたらパラパラめくれたりとか、UIを考えたりはするんですけど。
紙の本は残り何ページというのが厚みで分かるじゃないですか。だから読んでいて後半になると、自分で気持ちを盛り上げながら読むことができるけど、電子書籍では数字でしか見えないのでけっこう辛い。特に漫画って、盛り上げてもらっているふりをして自分で気持ちを盛り上げているところがありますよね。残り50ページしかないのに犯人がまだ分からない! みたいな。
藤井 分かる分かる。後これだけしかページ数ないじゃん、どうするの? っていう(笑)
小沢 iBooksのインタフェースが最低なのは、両脇にページの厚みがあって、それが何回めくっても変わらないという。これジョブズに隠れて作ったんじゃないかというデザインですよね(笑)。改良されてだんだんよくなってきているという話は聞くんですけど。
── ページをめくる時のペラッていうエフェクトはどうですか?
小沢 最初は嫌いだったんですけど、慣れてくると僕はいいなと思って。
一色 全部紙の記憶のエミュレーションですよね。最初からこういうものだと思ってネイティブで触ってしまえば、違和感はないかもしれない。
藤井 わたしたちは紙世代からのスライド組だからそう考えるけど、デジタルネイティブではじめからこう読んじゃってる子にとっては当たり前ですからね。
小沢 そうそう。うちの娘はテレビの画面をタッチインタフェースだと思って普通に触りますからね。
藤井 うちもそうですよ。
小沢 どこかのテレビ番組でやっていたんですが、本のデザインってすごいよねと。もともと巻物だったのを切って糸で束ねたら読みやすくね? と考えて、やってみたら本になっちゃったよという。ペラペラめくれて、まとまった量の情報を読むのに適したデザインになっている。
一色 そうなんですよ。一冊の作りからしてそうだし、それが書架に並ぶことで単に数が並んだだけではないメタな編集がなされる。それがまた能力がある人によって編集されると面白い本屋さんになったりもする。電子書籍では、これができていませんよね。
「既存の漫画の文法を使うのなら、横スクロールは向いていない」(小沢)
小沢 僕は、横にスクロールするタイプのビューワで漫画を見たときに、絵が横向きに流れることに少し違和感があります。めくって次のページがすぐに現れてほしい。巻物的に横にスクロールすると、消えていくページをずっと目で追ってしまうような不思議な感覚があって、漫画との食い合わせが悪い気がしたんです。いまの漫画自体、めくることを前提にみんなが試行錯誤してさまざまな表現が生まれてきたわけだから、スクロールならスクロール向きの漫画表現があるはずだと思うんですよね。
「7と嘘吐きオンライン」というWeb漫画では、1ページを4段か5段で横に切って、延々と上から下へ流れていくんですけど、それだと流れていっても気にならないんですよ。Webと同じように読めるという。だからそういう文法があって、一概にどちらがいい悪いではないけれど、既存の漫画の文法を使うのであれば、横にスクロールするタイプは向いていないように思います。i文庫HDでめくりで見た瞬間に落ち着きはいいという気はしましたけどね。
── i文庫HDはスライド/めくり/効果なしなどが設定できますよね。この、横にスクロールするのが気持ち悪いということですよね?
小沢 そうです。それをやるんだったら、1ページ表示でいい気がするんですよ。これも、縦に1ページにすると気持ち悪さが減るんですね。
一色 あー、分かる分かる。
小沢 2ページがまとめてスクロールすると、画面に真ん中の白帯があることで、1画面の中で2回上下に視線が動かなくちゃいけないんですね。それが気持ち悪さを生んでいるのかなと。
── ビューワによっては、画面を横向きにすると2ページの見開き表示になるかと思いきや、1ページの横幅を最大化して表示する仕様のものもあります。あれはどうですか。
小沢 うわー、これは何屋さんの発想だろう。絵が大きく見たいという意見を取り入れすぎちゃったんでしょうかね。
藤井 餅は餅屋といったところですかね。まったく漫画の構造を知らない人が作るとそうなるという。これ、次のページに移るときはどうするんですか?
── 延々と下にスクロールするか、ページの下部にボタンがあって次のページを読み込むか、どちらかですね。
小沢 これならWebブラウザでいいんじゃない?
── これは横書きのテキストであれば別に構わないと思うんですよね。文章を左から右に追っていって、次の行が下から現れてくるわけで、何の違和感もない。
一色 それは普通のWebの見方と同じですよね。漫画であれば、1ページの中でコマの大きさを演出しているわけだから、ページ単位で表示されてくれないと。
小沢 いずれにせよ、漫画を見ることを想定して、本職の方からヒアリングして要求仕様をまとめた節はありませんね。
藤井 漫画家だけじゃないですよね。デザイナーさんなんて、電子書籍端末の縁がつくことを考えてデザインしてるわけじゃないから、気になると思いますよ。単行本のときは縁もなくてまっさらな状態で表示されていたのが、電子書籍端末だとまた違った見え方をしてきちゃう。
小沢 ただ、それは慣れの可能性もありますよね。日本でそうとう初期に商用Webページを作っていた現場にいたことがあるんですけど、デザイナーがNetscapeのボタンデザインが気に入らないっていうんですよ。まだ当時は紙のデザイナーがWebを作っていて、慣れていなくてロゴを600dpiで作ったりしてたんですが、スクロールバーの色が気持ち悪いから変えたいといってました。そこは慣れなのか、それとも気持ち悪いと感じることが次の新しいものを生むのか、どっちなんだろうという。
── 自分が使いやすいようにカスタマイズさえできればいいと思うんですけどね。人はみんな、自分が最初に慣れたものをひきずるじゃないですか。例えばMacを使っていた人がWindowsを使うと、タスクバーを画面の上部に持って行きたがる。だからカスタマイズできるようにしておけば、最低限とっつきやすくはなる。ただ、いまの電子書籍端末は、ページの左側をタッチした際にページが進むものもあれば戻るものもあったりと、カスタマイズ以前の問題かなという気もします。
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