確たる判決を求めて――作家7名がスキャン代行業者7社を提訴
スキャン代行訴訟は終わっていなかった――作家7名がスキャン代行業者7社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴を提起。「無許諾でのスキャン事業が著作権侵害にあたる、との確たる判決を求めて」とあり、明確な判例を求める姿勢だ。
スキャン代行訴訟は終わっていなかった――浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏といった名だたる作家7名を原告とし、スキャン代行業者7社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴が11月27日に東京地方裁判所に提起された。
無許諾でのスキャン事業が著作権侵害にあたる、との確たる判決を求めて
被告として挙げられているのは「ブックコピー」「Scan Agent」「00paper.com」「PDFBOOKS」「ヒルズスキャン 24」「電子書籍化ドットコム」「スキャポン」の7事業者および代表者個人。
“自炊”業者なとども呼ばれるスキャン代行業者は、紙書籍を裁断・スキャンして電子化するサービスを“代行”する業者。ユーザー自身が個人的な目的で書籍をスキャンするいわゆる“自炊”自体は著作権法上の「私的複製」として認められている。これをユーザーに代わって行うスキャン代行業者が2011年ごろから増えてきたが、著作権者が許諾していない作品についてこうした代行を行うのは著作権法21条の複製権の侵害に当たるのではないかとされてきた。
2011年9月になると、出版社7社と作家・漫画家122人はスキャン代行業者に対して質問状を送付。著作権者が許諾していない作品をどうするつもりなのか回答を求めていたが、これに対し「今後も依頼があればスキャン事業を行う」とした2事業者が同年12月に今回原告となった7名に提訴されている。このときの状況については「東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図」で詳しく取り上げたのでそちらをご覧いただきたい。
この裁判は、被告会社の解散と請求の認諾により原告側が実質的勝訴として訴えを取り下げる形で終結した。ただし、“実質的”とあることからも分かるよう、明確な判例が出なかったのも事実だ。その後も閉鎖、またはサービスを変更した事業者も少なくないが、一方で2012年に入って新規参入も20社以上確認されているとある。
著作権者および出版社は、スキャン代行業者が、電子ファイルの用途が実際に個人利用に留まるのかを確認する実効的な措置を採っていないとも主張、事業者の中でも特に悪質と考えられる7社を提訴するに至ったとしている。
なお、今回提訴されたうちの2事業者は前年の質問状で「原告らの作品についてスキャンしない」と回答しながら実際には原告作品を受注スキャンしていたとも。裁判による判決を得る以外の方法がないとの結論から今回の提訴に至ったとしている。
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