ブクログ吉田氏に聞く「パブー」の今後:KDPによる個人出版ブーム、老舗サービスの辿る道は(4/4 ページ)
電子書籍の個人出版サービスであるKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)が注目を集める中、国内の先駆けと言えるブクログの「パブー」は、いま新たにパブリッシャーとしての道を歩みつつある。パブーを運営するブクログ代表取締役社長 吉田健吾氏に話を聞いた。
パブーは出版社かディストリビューターか
―― 個人出版の場合、ユーザーの作るコンテンツは玉石混淆で、それがKoboのように同じ土俵にずらっと並んでしまうとタイトルや表紙だけでは判断がつかず、結果的にパブーと出てきただけで読者がひとくくりに拒否反応を示すようになる危険性もあると思いますが、こうした点はどうお考えですか。
吉田 個人的に、編集の手が入る必要がある、という問題意識はずっと持っています。Webと電子書籍の違いを考えた時に、書籍と呼べるかどうかの差は、僕は編集があるかないかだけだと思っているんです。
昔、米光さんがやった電書フリマで、電書フリマを始めるまでの経緯をまとめたSkypeのログの本が売っていたんです。それを買って読んだのですが、これは確かに本だなと。米光さんに直接聞いたわけではないですが、不要な箇所を省いたり、加筆されているはずなんですね。2chのまとめサイトでも、削ったりまとめたりというのがあるじゃないですか。そういう編集をして、読みやすくするかどうかだと思っていて。
今ちょうどインテルさんとビットウェイさんと「DIGクリエイティブアワード」というのをやっていて、選考で残った作品をずっと読んでいるのですが、惜しい作品が大半なんです。「もう少し軌道修正してあげる人がいればいいのに」「こんなに膨らませなくてもっともコンパクトにしたら面白くなるのに」みたいな作品がたくさんある。プロの編集までいかなくても、一人目に読んだ人が何かを言って、軌道修正してあげる方がいいと思っていて。なので、パブーで投稿できるコメントを、もっと有効に機能するようにしたいと考えています。
―― パブーは対外的には出版社とみられている一方、社内的にはディストリビューターという言い方を明示的に使い分けられていますが、出版社の機能の1つである編集者の役割は必要だとおっしゃられている。ということはつまり、パブーはやはり出版社を志向しているように見えるのですが。
吉田 そこは表現が難しいところで。日本語で「出版社」と言った時に、含まれる機能が非常に幅広いんですよね。業界内の方が考える出版社の機能と比べて、世間一般の人が思う出版社の機能は、もっと広いと思うんですよ。
世間一般の方たちは恐らく取次の存在は意識していなくて、出版社が本を作って本屋に届けているくらいの感覚で、出版社を捉えていると思うんです。企画や編集、流通やプロモーションもすべて含まれる。僕らがそれをやるかと言われると、それは志向はしていません。というのも、電子になることで要らなくなるところがたくさんあるからです。取次も物流通がなくなってしまえば、不要になるわけですし。
現状僕らの考え方は、紙の出版社が持っている機能を分解して、著者と読者の間に入ってWebの技術で解決できることなら何でもしようというものです。パブーでいまやっていることはすべてそうですし、(クラウドファンディングの)Campfireを通じて行った企画もその1つだと。そこで一番重要なのが企画と編集だと思っています。今でもそこだけ切り出してやっている編集プロダクションや企画の方がいるくらいですから。それを出版社と呼べるかは分かりませんが、“新しい形の出版社”という感覚は持ってはいます。
―― もしそこまで手掛けるとなると、マンパワーが大変ですよね。
吉田 そうですね。とはいえ何千人規模の会社を目指すわけではありませんので。理想としては、僕らと一緒にやってくれる外部の会社、編集部に当たる役割がいくつもあって、僕らのプラットフォームを使ってもらえる形になればいいなと思っています。ゲームでいうファーストパーティ的に、「こんなふうに作るといいですよ、こういうことができるますよ」という見本は作る必要がありますが、任天堂さんのようにファーストパーティの比重が大きい形ではなく、見本さえ作ればあとはサードパーティの方たちがたくさん作ってくれるのが理想です。仕組みは作りますが、コンテンツそのものを僕らがたくさん作っていくことはないですね。
―― それを通じて、ユーザーのコンテンツのレベルも向上して、また売れて……というサイクルになっていくのが望ましいということですね。
吉田 そうですね。今KDPを使って「こんなことをしたらこういう結果が出た」といったノウハウをブログで公開している方たちは、作品を作りたいというより、どうすれば売れるかを考えている方が多いと思うんです。それはそれですごく大事ですが、作品を作る能力とマーケティング能力は、本来は別の能力だと思うんです。そこをちゃんとつなぐ必要があると常々感じています。
例えば漫画家のうめさんにしても鈴木みそさんにしても、佐藤秀峰さんもそうですけど、マーケティング発想・プロデューサー発想が元々すごくある方々ですが、世の中のプロの漫画家さんって大半はそうではないと思うんです。そういうビジネス脳がある方たちは、自分でできることが広がったことで「じゃああれも自分でやってみよう」ということでやっているんですけど、みんながみんなそうではない。
佐々木俊尚さんにしても、津田大介さんにしても、そういうある種スーパーマン的な、いくつかの領域にまたがって能力のある方が今すごく力を発揮しやすいわけですが、いまはあくまで過渡期で、いずれ分業になっていくと思うので、そのときにどこは仕組みで解決できて、どこは人間がやらなくちゃいけない、では人間と人間をつなぐところは何を作ればよいのかということは、常々考えるようにはしています。
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