翻訳家にもっと光を――「日本翻訳大賞」設立へ向けたプロジェクトが始動
設立へ向けクラウドファンディングで支援金を募集中。期限まで116日を残し、目標金額の70万円を遥かに超える180万円以上をすでに調達している。
書店に行くと、カフカ、ドストエフスキー、ヘミングウェイといった著名な作家の本が、日本語に翻訳された形で並んでいる。それらは皆、翻訳家が原著を読み解き日本語で書き起こしたものであり、翻訳家が居なければ私たちはカフカやドストエフスキーの名前を知ることもなく、また本棚にその著書が並ぶこともなかったのかもしれない。
しかし、こうした翻訳家たちの功績が表立って評価される機会はほとんどない。作家の名前を5人上げよと問われて答えられる人は多いかもしれないが、翻訳家の場合はどうだろうか。
12月6日、こういった現状を変え、翻訳者にもっと光を当てたいとの思いから翻訳家の西崎憲さんを発起人として、「日本翻訳大賞」の設立に向けたクラウドファンディングがスタートした。
一般性のある翻訳賞を
これまでも翻訳家を対象にした賞はなかったわけではない。しかし、ジャンルや言語が限定されていたりと、そのほとんどが対象となる翻訳家が限られたものだった。
そこで日本翻訳大賞では、多くの翻訳家を対象とするべく、小説や詩、人文学書、児童文学などの多様なジャンルで、言語を限定せず、しかも選考委員は現役の翻訳家が担当するという一般性のある賞にしていくという。
選考委員を務めるのは、金原瑞人さん(訳書に、『かかし』(ウェストール/徳間書店)など)、岸本佐和子さん(訳書に、『話の終わり』(リディア・デイヴィス/作品社)など)、柴田元幸さん(訳書に、『幻影の書』(オースター/新潮社)など)、松永美穂さん(訳書に、『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク/新潮社)など)、そして発起人の西崎さん(『ヴァージニア・ウルフ短篇集』(筑摩書房)など)の5人。
1次選考では前年に刊行された翻訳書の中から(選考委員の訳書は除外)、メールやTwitterで推薦された上位10冊と、選考委員がそれぞれ無記名で選んだ5冊を合わせた15冊を選出。2次選考では、それぞれ選考委員が6冊ずつ読み点数(1点〜6点)を付けていって上位5冊に絞り、最終選考で討議した上で大賞(2作品選ばれることや、該当なしもあり得る)を決定する。
有名作家らも賛同
クラウドファンディングの支援額は1000円〜5万円までの8段階あり、柴田さんの直筆翻訳草稿や日本翻訳大賞授賞式への招待券、選考委員によるクラウドファンディング限定の合作翻訳短編など豪華なリターンも用意されている。
またクラウドファンディングサイトでは、「私の好きな翻訳書」といったテーマで作家らによる動画が公開されている。公開されているのは、豊崎由美さん、松田青子さん、佐藤文香さん、米光一成さんの4名。
なお目標金額は70万円となっているが、プロジェクトの終了まで116日を残し、すでに188名から180万円以上の資金が集まっている。西崎さんたちは最低でも5年は同賞を継続させていきたいと考えており、引き続き支援を募集している。
関連記事
- 翻訳した電子書籍を販売するプラットフォーム型サービス「BUYMA Books」がスタート
著作物を登録すると、翻訳会員が母国語に翻訳するプラットフォーム型サービス「BUYMA Books」がスタート。Webサイトを通じて世界中に販売・配信可能だ。 - 海外の電子書籍市場で日本の小説を売るということ――プロデューサー清涼院流水に聞く
作家自ら作品を英訳し、電子書籍として海外の市場で販売するという、清涼院流水氏が立ち上げたプロジェクト「The BBB」。その取り組みと展望について聞いた。 - マンガを翻訳して全世界へ、マンガ翻訳プラットフォーム「Subch」が公開
Facebookにログインすることで他言語に翻訳可能(現在は英語のみ)。現在は『きまぐれオレンジ☆ロード』『GUT's』『バイキングス』の3作品が対象。 - 『少女フレンド』座談会、6人の連載作家が語る少女漫画誌の今と昔
連載当時のエピソードや、現在クラウドファンディングを実施中の『プラチナフレンド』刊行プロジェクトなど、『少女フレンド』で連載した経験を持つ6人の先生に座談会形式でお話を伺った。 - 本を読むきっかけを――森の図書室が12月にイベントを開催
イベントに関連した本を出版するためのクラウドファンディングも実施中。一定額以上の出資で執筆に参加できる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.