e-Day:IBMがメインフレーム版Linuxでsendmailを稼動させる理由
| 【国内記事】 | 2001.08.31 |
sendmailと呼ばれるe-メールエンジンをご存じだろう。もう20年も前になる1981年,ほぼIBM PCが誕生したのと同じころ,電子メールを送受信するためのエンジン(MTA:Message Transfer Agent)として開発され,世界で60%を超えるシェアを持つ。
長らくオープンソースとして公開されて改良が重ねられてきたが,開発者のエリック・オールマン氏は1998年,センドメールという会社を設立し,商用版を企業やISPに提供している。ちょうどカリフォルニア大学バークレー校のBSD UNIXに商用版があるのと似ている。ちなみにsendmailはBSD UNIX上で開発されており,同社のオフィスもバークレーに近いエメリビルにある。
センドメールは,同社のエンジンの優れたスケーラビリティを生かすため,企業顧客,特にグローバル2000の大企業を抱えるIBMと戦略的な提携関係を昨年秋に結んだ。
IBMはPCサーバからS/390のメインフレームに至るすべてのサーバラインでLinuxをサポートする戦略を打ち出しており,センドメールとしても渡りに船だった。米国時間の8月27日には,IBMの最高峰であるeServer z900のLinux環境で動作する電子メールサーバ製品群を発表し,IBM eServerシリーズへの対応を完了した。
アジア太平洋地域を担当するスティーブ・ラウ副社長は香港オフィスから来日し,「メインフレームは高い信頼性と可用性を誇り,驚くことに30年かけてTCO削減を図ってきた。爆発的に増え続け,2005年には全世界で9兆に達するとみられる電子メールを処理するには最適なプラットフォームだ」と話す。
ガートナーの予測でも,メールボックスの数,メールボックス当たりのメッセージ数,そしてメッセージサイズのすべてがそれぞれ1年で40%増加するといわれている。
「最近,IT業界は低迷しているが,メールボックスのメッセージは減っている?」とラウ氏。
IBMのメインフレームは,優れたI/O処理性能と1台の物理的なマシンを論理的なパーティションに分けられるVMアーキテクチャを誇り,依然として企業のミッションクリティカルな業務を担っている。バッチ処理に始まり,タイムシェアリング,分散型,そしてネットワーク型へと,コンピューティングの歴史も移り変わったが,メインフレームの価値は少しも色褪せていない。
企業の電子メールソリューションは,複雑さを増している。単にPOP/IMAPサーバだけでなく,電子メールのウイルスチェックやフィルタリングからはじまり,ルーティング,LDAPディレクトリといった複数のサーバから構成される。最近では,モーバイル対応も必須とされ,WebブラウザやPDA,携帯電話へのゲートウェイも追加される。数千ものLinuxイメージを1台で稼動できるeServer zSeriesは,このように通常複数台のマシンで構成される電子メールソリューションを1台に統合するのに威力を発揮する。
ラウ氏は「電子メールは,もはや単なる電子メールではない」と,禅問答のような話を始めた。
「ソフトウェアの開発者たちは,電子メールをアプリケーションのプラットフォームとみている。これから多くの革新的なアプリケーションが登場するだろう」(ラウ氏)
今週は,電子メールベースのCRMなどで知られるカナのCOO,トーマス・ドイル氏にも話を聞いた。企業はこの厳しい経済状況の中でも,電子メールやWebベースのコンタクトセンターを活用し,顧客満足度の向上とコストの削減を積極的に進めているという(NECの121ware.comを陰で支えるカナのe-CRM技術)。
米国の代表的なアウトドアブランド,L.L.ビーンは,電子メールベースのカスタマーサービスこそ同社の生命線だとし,IBM eServer z900で商用版sendmailの採用を決めた。「eCare」と呼ばれるシステムで,受注から配送,納品に至る各過程をトラッキングし,顧客へ電子メールで知らせていくものだ。L.L.ビーンが求めたのは,「100%の可用性」だった。
「すべての企業が電子メールを使っているが,カスタマーサービスに活用しているところは少ない。それは彼らのシステムのアーキテクチャがそういった目的のために出来ていないからだ」(ラウ氏)
単なる電子メールと言うなかれ。その再構築が必要となればポテンシャルは大きい。
[浅井英二 ,ITmedia]
