WebSphereとインテグレーションサーバの融合が打倒BEAに向けたIBMの切り札

【国内記事】 2001.09.10

 コンピュータ業界の巨人IBMが,J2EE完全準拠とWebサービス対応を実現したアプリケーションサーバの最新版である「WebSphere Application Server Version 4.0」の発表により,打倒BEAシステムズに向けた本格的なアプリケーションサーバ戦略に本腰を入れ始めた。

 日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は9月10日,米IBMのWebSphereマーケティング担当副社長,サンドラ・カーター氏およびWebSphere Commerce担当ディレクター,エドワード・ハーバー氏の来日にあわせ,9月7日より出荷が開始されたWebSphere Application Server Version 4.0のマーケティング戦略について明らかにした。

米IBMのWebSphereマーケティング担当副社長,サンドラ・カーター氏(写真左)とWebSphere Commerce担当ディレクター,エドワード・ハーバー氏

 今後,IBMが展開していくアプリケーションサーバ戦略の最大のポイントは,e-ビジネスを実現するアプリケーションサーバと,レガシーシステム統合を実現するインテグレーションサーバを融合することで実現されるダイナミックe−ビジネスでの勝負となる。

 カーター氏は,e-ビジネスで成功するためには,アプリケーションサーバを利用したフロントエンドのシステム構築だけでは不十分であり,フロントエンドシステムを,基幹業務システムなどのバックエンドと連携する企業内プロセス統合が重要になるという。

 米ギガ・インフォメーション・グループが発表したJ2EE対応アプリケーションサーバ市場調査では,BEAシステムズのシェアが35%でトップ,続いてIBMの30%,残り35%をそのほかのベンダーが分け合っている。ギガでは2005年のJ2EE対応アプリケーションサーバ市場規模は16億ドルという。

 一方,米IDCが発表したメッセージング&インテグレーション・ブローカー市場調査では,IBMのシェアが65%でトップ,BEAのシェアは2%に過ぎないという。IDCは,2005年の市場規模は,10億ドルに達するものと見込んでいる。

 IBMでは,この2つの市場を合わせると,IBMのシェアが42%になり,BEAのシェアは24%,およそ2倍のシェアが獲得できる,としている。

失敗したドットコム企業の原因は?

 企業内プロセス統合が,なぜこれほどまでに重要かについてカーター氏は,「約50社のドットコム企業を調査してみたところ,失敗してしまったドットコム企業の多くは,バックエンドとの統合をしていなかった」と話す。それに対し,成功したドットコム企業は,会社の規模や資金の潤沢さに関わらず,フロントエンドシステムとバックエンドシステムの統合を実現している企業がほとんどだったという。

「ドットコム企業に限らず,これからは,企業内/企業間のプロセス統合を,きちんと実現した企業だけが市場で生き残っていけるだろう」(カーター氏)

 IBMでは,企業システムの「e」化のプロセスを,「Webパブリッシング」「e−ビジネス・トランザクション」「企業内プロセス統合」「企業間プロセス統合」「ダイナミックe−ビジネス」の5つのステップで展開されるe-ビジネス進捗曲線で表している。

 e-ビジネス進捗曲線は,ダイナミックe-ビジネスを頂点に,Webパブリッシングに向けて裾野を広げていく企業のe-ビジネス化の進捗状況を表すグラフ。それによると,およそ80%の企業がまだ,第2フェーズであるe−ビジネス・トランザクションを実現したところであり,企業内/企業間プロセス統合を実現している企業は15%に過ぎないという。ダイナミックe−ビジネスについてはわずかに5%という状況だ。

 そこで,第2フェーズであるe−ビジネス・トランザクションの実現で止まっている80%の企業を,まずは企業内プロセス統合のフェーズにステップアップさせるために,アプリケーションサーバの機能に,インテグレーション機能を提供するソフトウェアを連携したソリューションを提供していく計画という。

 IBMでは,WebSphereの次のプロダクトサイクルにおいて,MQSeriseのメッセージング機能およびインテグレーション機能を,WebSphere Application Server上で統合していく予定だ。ただしMQSeriseは,単体の製品としても提供が続けられるという。

 ハーバー氏は,「アプリケーションサーバとバックエンドの統合では,コネクタやアダプタなどの製品を利用することが一般的だったが,IBMではMQSeriseを利用する,より柔軟で強力な統合の仕組みを提供していく予定だ。これは,コネクタやアダプタを利用するより,一歩進んだバックエンド統合といえる」と話している。

プロセス統合で効果をあげた積水化学

 カーター氏は,「企業内プロセス統合で成功した日本国内の事例としては,積水化学が好例」と紹介してくれた。

 同社は,ビジネスプロセスを最適に改善するためにはどうするべきかに早くから注目した企業。化学業界の受注管理は,電話やFaxによるオーダーが一般的で,オペレータの聞き間違いや不鮮明なFaxにより,オーダーを間違えてしまうことが多かったという。また,基幹システムへの入力時に,入力ミスが発生することもあり,非効率なプロセスが発生していた。

 そこで,顧客のオーダーを受けるフロントエンドのシステムと,在庫管理や納品管理などを行うバックエンドシステムをプロセス統合し,自動化するという取り組みが行われた。これにより,注文業者がオーダーフォームへ直接入力することができ,入力ミスを減らすことが可能になっただけでなく,積水化学では,24時間×365日オーダーを受けることが可能な仕組みを実現することができたという。

 この仕組みをさらに進めていくことで,単にオーダーができるだけでなく,販売チャネルに対し付加価値サービスを提供することも可能になる。「エキスパート・セールス・システム」と呼ばれる同社の新しいシステムでは,電子メールを活用したり,特定のチャネルだけに特別なオファーをするなどのサービスも可能という。

「企業内プロセス統合を実現するだけでも,積水化学のような付加価値を実現することが可能だ。これをさらに企業間プロセス統合や,ダイナミックe-ビジネスに展開し,企業の競争力を強化できるのがWebSphereを活用するアドバンテージだ」(カーター氏)

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関連リンク

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[山下竜大 ,ITmedia]