東京モーターショー,インターネットカーを目指し日産は「ネットビークル」で勝負

【国内記事】2001.10.25

 東京モーターショーが10月27日から幕張メッセで開幕する。プレス向けの公開が行われている10月25日,同イベントを取材した。会場には例年どおり,国内外の有力自動車メーカーが自慢の技術力を知ってもらおうと,さまざまな手法を凝らして展示を行っている。その中で,ITによる自動車の機能の進化によって,ビジネスマンのワークスタイルがどのように改善するのかについて,主にカーテレマティクスの分野に焦点を当て,デンソーおよび日産自動車のブースで話を聞いた。

 テレマティクスについて,デンソーはインターネットITS(Intelligent Transport Systems)を経済省の補助の下,慶應義塾大学やトヨタ,NECなどと共同で研究しているという。

 テレマティクスとは,通信の「Telecomunication」と情報処理の「Infomatics」の合成語。車載および携帯端末へ情報を提供するサービスや製品,サポートシステムのことを指す。

 インターネットITSは,IPv6をベースにした移動体通信技術を利用して,走行時の自動車が置かれている環境でインターネットの利用を可能にするするための技術開発を行うプロジェクト。経済産業省が2001年4月から同プロジェクトを開始しているという。

車載サーバとなる「テレマティクスECU」

 同社はインターネットITSのアプリケーションとして,「プローブ情報システム」を実験しているという。これは,自動車を動くセンサーとして利用し(IPアドレスを持たせ),収集した情報をネットワーク化あるいは,蓄積,加工することで新たな情報価値を生み出すことを目指すシステム。慶應義塾大学の村井純教授が中心になり,2月から3月にかけて,大規模な実証実験も行われたという。

 実験は,バス50台,トラック50台,タクシー50代,商用車90台など計280台の自動車に,GPSアンテナやアンテナ,車載機,パケット通信端末を搭載させる。そして,それぞれの自動車は,位置情報や速度,ワイパーの状態,温度,ABSの情報を発信し,その情報は慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスに集まる。同キャンパスは,集まった情報に分析および加工を施し,インターネットを介して,モーバイル端末を持った人や,家庭,オフィス,自動車に,交通情報や天候情報,ロケーションなどの車両情報が知らされるという。

 デンソーブースで説明を行っていた同社ITS技術1部の伊藤稔彦課長は,将来的に考えられる新しいビジネスモデルについて幾つかアイデアを教えてくれた。排ガス量の大きさでなんらかの環境負担金を求めるビジネスなど,環境ビジネスも成り立つという。また,自動車保険の料率算定に利用するというアイデアも興味深いものだった。

「自動車の運転速度や走行安定性などの情報をIPアドレスを通してデータベース化し,安全運転をしているドライバーには保険料を安くするというビジネスも可能になるのではないか」(同氏)

日産はネットビークルで勝負

ネットビークル化した日産の試作車

 日産のブースでは,テレマティクスを前提として同社が推進する「新世代情報通信システム 2003i」の試作機を搭載した車が展示されている。

 日産の2003iは,高速モーバイルインターネット通信によって,情報センターやクルマ,ドライバーがインターネットを介して密接に連動するシステムという。同社はこれを実現した自動車を「ネットビークル」と呼ぶ。ネットビークルによって,自動車の新しい価値が提案できるという。

 同社IT開発部テレマティクス企画・先行開発グループでアシスタントマネジャーを務める佐藤康治氏によると,テレマティクスを自動車に応用することでビジネスマンの生産性が高められるだけでなく,自動車で活動している社員をセンターがコントロールできるため,全社的な効率性もアップさせることができるという。

 適切な場所にいるクルマをセンターが把握して呼びだせることで,例えばユーザー企業は新規顧客ができた場合,「最も近い場所にいる自動車を呼び出し,最良の道順情報をカーナビゲーションを通じてシームレスに提供できる」という。さらに,顧客の特性などを営業マンに伝えることもできる。

 従来のように,営業マンが日報などを書くためだけに帰社するなどの必要がなくなるケースも多くなるという。また,音楽など楽しみの要素も多くなり,ユーザーの仕事への満足度も向上するかもしれないとしている。

 一方で,営業マンは常に居場所を会社に知られることになり,「サボったらばれてしまう」など,プライバシーの問題もある。佐藤氏は,「どうしたら一番便利になるか」を日産研究所などの施設で日々研究していると話した。

 現状では,ネットビークルの実用化のめどは立っていないという。今後,通信環境がさらに広帯域化することなどを念頭に,研究を続けていきたいとしている。

 同氏に,ゴーン社長の改革について聞いてみた。現場レベルではそれほど分からなかったとしたが,「やはり経営判断は早くなったように感じる」と話してくれた。また,同社は現在e-マーケットプレイスなどを利用することで,サプライヤーの数を削減するための改革を行っているという。系列間での取引を断ち切ることが難しい中,ある意味で「外部」の人間であったゴーン氏がしがらみを気にせず改革を断行することで,スリムな経営体制が着々と構築されつつあるようだ。

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[怒賀新也 ,ITmedia]