Gartner Column:第27回 見えない明日を読む,2002年のIT投資動向サーベイ
| 【国内記事】 | 2001.12.17 |
不確実性の時代がまさに現実になろうとしている2002年,米国ユーザーはどのようなIT投資を行おうとしているのだろうか? 決して強気ではないが,全面的にIT投資を抑えるのでもない。ただし,投資対象はこれまでと比べて,より選択的になっているというべきだろう。
今回は,既に11月13日付けで米ガートナーが公開した,米国ユーザーの2002年度のIT投資に関するサーベイの結果を紹介しよう。
このサーベイは,10月中旬にフロリダ州レイクブエナビスタで開催された米国ガートナーシンポジウムの出席者に対して,投資銀行のサウンドビューとガートナーによる共同調査として行われた。有効回答数は約1000件である。シンポジウム出席者は,比較的IT投資に積極的な大企業中心ではあるが,米国大手企業の情報システム部門およびCIOの意見をほぼ反映していると言ってよいだろう。
サーベイの時期は,同時多発テロの約1カ月後,米国の空爆開始直後,そして,会場から200マイルも離れていないボカラトン市では炭疽菌テロ勃発という,最も世の中の不安感が高い時点であったことに注目してほしい。それでも,回答の平均値では,2002年度のIT投資額は2001年と比較して約1.5%増加する。右肩上がりとまでは行かないが,企業のIT投資額が縮小するとも言えない。
最近,日本国内の事例を聞くと,2002年度の新規IT投資を全面凍結,ないし,分野を問わず一律縮小などという話も聞く。しかし,これらのユーザーは,IT支出とは投資なのであって,単純に削減すべき経費ではないことを熟考すべきだろう。
もちろん投資にはリスクが伴う。しかし,「投資のリスク」,すなわち,投資額に見合った効果が得られないリスクを十分に検討しなければならないのと同様に,「投資しないリスク」,すなわち,適切なIT投資を行った競合他社に市場機会を奪われることのリスクも考慮する必要があるだろう。
今後,企業は,IT投資に対して今まで以上に選択的になる必要はあるだろうが,全面的なIT予算縮小は企業の競争力そのものを損なうリスキーな選択と言えるだろう。
では,選択的になったユーザーはどのような案件を重視しているのだろうか? 各カテゴリーごとの投資積極性を表すデータを図1に示した。
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| 図1.米国ユーザーのIT投資積極性指数(出典:ガートナー) |
このグラフの数字は,投資額の絶対額ではなく,投資の増減の意向を表す指数である点に注意していただきたい。例えば,全回答者が投資額を増やすと回答したカテゴリーの指数は100%になり,逆に,全回答者が減らすと回答したならば,マイナス100%となる。減らすと回答した数と増やすと回答した数が同じならば,指数は0%になるわけだ。
また,この積極性指数が高ければそのカテゴリーは重要,低ければ重要ではないかと言えばそうとも言えない。例えば,多くのユーザーが2002年度はメインフレームへの投資額を減らす予定であると回答しているわけだが,それでも,ほとんどの大手ユーザーにおいてメインフレームが重要な位置を占めていることは,少なくとも今後数年間は変わらないだろう。
積極性指数が高い項目は,ユーザーにとってみれば競合上の差別化要素を発揮できる分野となる可能性が高いということである。また,ベンダーにとって見れば市場規模が広がる可能性が高い,魅力的な市場領域であるということができる。
積極性指数の結果を見ると,明らかに短期的な投資効果が高い分野,および,「投資しないリスク」が高い分野への選択と集中が見られる。
投資積極性がとりわけ高いのはセキュリティは「投資しないリスク」が高いカテゴリーの代表だろう。おそらく,セキュリティと独立して災害対策(第14回参照)が選択肢として上がっていれば,100%に近い数字を得ていたかもしれない。
そして,2位がストレージである。ストレージの重要性は第15回でも述べた。ますます安価になっていくストレージ容量を如何に有効に使いこなすかが,企業の競争力確保に大きく影響することを,多くの企業が認識し始めた結果だろう。
PDA(一般化してモバイルと呼ぶべきと思うが)も,かなり堅い投資案件となってきていることが伺える。
ここで紹介したデータは,業界アナリストが使用するデータのごく一部だが,それでも,分析を加えていけば,幾つかの重要な見通しを得ることができる。例えば,ストレージへの投資が増えているのに,契約社員の予算が減るということは何を意味するだろうか?
おそらく,来年あたりから,ストレージ運用管理を自動化するためのソフトウェア製品が大きな注目を集めると予測することができるだろう。
[栗原 潔 ,ガートナージャパン]

