Gartner Column:第30回 2002年の動向を予測する(2)〜「あるものを生かす」という発想

【国内記事】 2002.01.15

 社内の情報システムからレガシーシステムを排除し,統合されたシステムを一から再構築する。――企業のシステム担当者であれば一度は思い描いた夢だろう。しかし,今や,多くの企業にとってこのようなハイリスク/ハイリターンの投資を行う余裕はない。代わりに必要となるのは,既にある資産を生かすという現実的発想だ。

 ビジネスプロセスをリエンジニアリングし,情報システムもそれに合わせて完全に統合された設計で(おそらくは業務アプリケーションパッケージを使用して)再構築する。これが実現できればベストである。今後も,いわゆる勝ち組企業の中にはこのようなフロムスクラッチ型のIT投資を継続していく者もあるだろう。

 しかし大多数の企業にとって,このようなアプローチはコストの面でもリスクの面でも許容できないものとなっていくだろう。今,企業がフォーカスしようとしているのはこのようなハイリスク/ハイリターンの案件ではなく,リスクが小さく,かつ,ある程度の効果が確実に得られるローリスク/ミディアムリターン型の案件なのだ。

 そもそも,「レガシーシステム」という用語は,メインフレームやオフコン上で古くから稼動している時代遅れのリプレースすべきシステムというニュアンスで捉えられることが多いようだ。しかし,「開発段階が終わり,実際にビジネス上の効果を上げ始めたシステム」という定義をされることもある。

 ビジネス上の価値をしっかり提供しているシステムを移行することほど無駄なIT投資はない。企業のIT担当者は,「壊れていないものを直すな」(Don't fix it, if it's not broken.)というモットーを肝に銘じるべきだろう。

 ガートナーは,今までも「移行のための移行」を避けることを強く提唱してきた。不確実性が最高レベルにある2002年に,このアドバイスはさらに当てはまるだろう。

 レガシーシステムの扱いとしては,そのまま使い続ける,ないし,廃棄してリプレースする以外の第3の選択肢としてモダナイズ(modernize:最新化)することも検討すべきだ。モダナイゼーションの例としては,メインフレーム上のアプリケーションをそのままUNIXサーバ上に移行する,いわゆるリホスティングなどもあるが,より重要なことはレガシーシステムと他システムを統合可能にすることだ。

 アプリケーションがメインフレーム上で稼動していること自体は,それほど大きな問題ではないことが多い(もちろん,そのメインフレームが旧式でサポート切れが迫っているのなら話は別だが)。本当の問題はアプリケーションが他のシステムと迅速な情報交換を行うことができず,孤立化した状況にあることだ。

 このような場合,一枚岩のアプリケーションに外部から呼び出し可能な切り口を作ることで,レガシーシステムのライフサイクルを大幅に延長できることが多い。このような切り口を作ることが困難な場合の大技としてターミナルスクレーパと呼ばれるテクニックもある。ターミナルスクレーパとは,外部のプログラム内でダム端末をエミュレートし,画面イメージを直接読み書きすることでレガシーアプリケーションと情報交換を行う技法である。決してエレガントとは言えないが,データ量があまり多くない業務では十分な役割を果たすことが多い。

 このように切り口を作っておけば,レガシー全体があたかもひとつの巨大なコンポーネントであるかのようなイメージで外部システムとのやり取りを行うことができるようになる。

 EAI(エンタープライズアプリケーション統合)の基本にあるのはこのような「あるものを生かす」という考え方だ。ERP,SCM,CRMと来て次はEAIなるものを売り込もうとしているという猜疑心を持つユーザーもいるようだが,EAIは既存資産の有効活用を目指すという点で,過去にブーム化したコンセプトとは趣を異にしているのである。

 また,モダナイゼーションのもうひとつの例として,レガシーアプリケーションのWeb化もローリスク/ミディアムリターンの投資となることが多い。ダム端末ベースのアプリケーションであっても,インターネット上でパートナー企業や顧客に対してWeb経由で直接的にアプリケーション機能を提供することで,価値が大幅に向上することも十分あり得る。

 メインフレームアプリケーションのWeb化として,フロントエンドにUNIXサーバやNTサーバを別途置く方法もあるが,メインフレーム上で直接Webサーバソフトウェアを稼動させることも検討すべきだろう。IBMや日立のメインフレームを使用しているのであれば,LinuxおよびApacheをメインフレーム上で稼動させるという大技で,かなり安価にレガシーアプリケーションをWeb化することもできる(メインフレームLinuxは結構面白い話題なので,また回を改めて述べたい)。

 このコラムで第1回から第3回にわたって解説してきたWebサービスも,その根底にあるのは,既存のアプリケーションやインフラを根本的に変えることなく,疎結合型の分散システムを構築しようという「あるものを生かす」思想である。

 繰り返しになるが,Webサービスは,革新的(revolutional)なテクノロジーではなく,段階発展的(evolutional)なテクノロジーなのだ。

関連リンク
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[栗原 潔ガートナージャパン]