Interview:「低コスト・短期間のSAP導入は,高い顧客満足度を誇るデロイトでどうぞ」

【国内記事】2002.01.29

 先ごろIDSシェアー・ジャパンおよびSAPジャパンとの3社提携を発表したデロイトトーマツコンサルティングは,SAP導入に関する顧客満足度調査で4年連続SAPジャパンから表彰されたシステムコンサルティング企業だ。パッケージ導入部門の約半数がSAPコンサルタントという同社は,どのようにして顧客満足度を高めているのだろう。パッケージ導入部門でSAPを統括するプリンシパル,影山泰仁氏に聞いた。

影山泰仁氏

ZDNet 先ごろ発表されたIDSシェアーの「ARIS」を使ったSAP導入で,どれくらいの導入前検証時間短縮を見込んでいますか。

影山 期間短縮は,われわれの努力だけではどうしようもない部分がありますから……。ただ,顧客がプロジェクトに投入してくれる人材を含め,コミットしてくれれば,必ず結果を出す自信はありますし,ARISを使うことで,プロジェクトを効率的に回せるのは間違いありません。顧客側の人材を含めて,ARISを理解し,きちんとトレーニングを受けてもらえば,導入前検証期間を半減させることができるはずです。

ZDNet 稼動後にも,ARISが役に立つと聞きました。

影山 システム稼動後にわれわれが常駐する必要があれば,プロジェクトは失敗です。システムは,ユーザー企業のものですから,できるだけ早く手離れしてくれなければなりません。つまり,メンテナンスや組織/業務変更をユーザーの手でシステムに反映してもらった方がいいのです。

 もちろん,われわれが手伝うこともありますが,ARISを使えばほとんどのシステム変更をユーザーが行えるようになります。そうなれば,アウトソースコストを削減できますから,顧客にとって大きなメリットになるでしょう。

ZDNet システム導入期間短縮についてはどうでしょう。導入前検証で入力したデータをSAPのパラメータ設定に直接反映させる仕組みを提供する計画はありますか。

影山 「作れ」と言われれば作れます。ただ,その後もソフトウェアはアップデートされますから,メンテナンスが大変です。このため,そのような計画はありません。逆に,われわれは,独自の業種別ビジネステンプレート「Industry Print」によって,導入期間短縮を実現できると考えています。

顧客の損はコンサルの得だが

ZDNet アドオンやモディファイに対するスタンスは?

影山 今の顧客は,よく勉強していますから,アドオンをゼロにすることが理想であると分かっています。また,モディファイすれば,アップグレードできなくなることも知っています。

 ただ,実際のところ,導入前検証で300〜500件ほどは,業務と不整合が起こるケースが出てきます。それを振り分けて,どれが「企業のエゴ」で,どれが「どうしても必要な機能」なのかという判断を助けるのがわれわれの役目です。


注:SAPでは,モジュールの修正を「モディファイ」,追加を「アドオン」,パラメータ設定を「カスタマイズ」と呼ぶ。一般に「ノンカスタマイズ」と呼ばれる事例は,SAPの場合,モディファイ/アドオンしないことを指す(帳票出力などのためのモジュール追加は,一般にノンカスタマイズに含める)。


ZDNet そこですべて請け負えば,儲かるでしょう。中立的な判断を下せるのでしょうか。

影山 われわれのビジネスでは,リーズナブルな期間でシステム導入を実現し,供給サイドから見たエゴにつながらないようにすることが求められます。顧客がどうなれば幸せかを真剣に考えてシステム導入することで,「デロイトは素晴らしい」と言ってくれる企業が増えれば,業界での評判も上がります。また,システムを横展開するときに,また依頼してもらえるかもしれません。

 第三者機関が調査した顧客満足度で4年連続表彰されたのは,こうした姿勢が顧客に評価された結果と考えています。

ZDNet どうしても必要なアドオンはありますか?

影山 プロセス系の企業は,原価計算で総合償却(建物や設備などを一括償却すること)も行いたいというニーズを持っています。SAPがバーチカルソリューションに加えてくれる可能性はあるものの,まだこの部分はサポートされていません。それがどうしても必要なら,アドオンする必要が出てくるでしょう。一方,しないのであれば,SAPが対応するまで待つか,ビジネスプロセスを変えてしまうというやり方が残されています。

 私は,すべてのアドオンが悪いとは考えていません。アドオンは最小限にするべきだし,しない方が安く済みます。ただ,中には「いいアドオン」もあるのです。どうしても顧客が必要とするのなら総合償却もそうですし,例えば,帳票系でよく使われるレポートを紙に出さなくすれば,「カンが働かなくなった」という人も出るでしょう(笑)。

ZDNet プロジェクト成功の秘訣は?

影山 人です。顧客には,「引き抜かれたら困る人をいっぱいプロジェクトに参加させてくれ」と要求しています。基幹業務を1〜2年で変えるのですから,本気で取り組んでくれる人が必要になります。ヒマな人を出してもらっても,プロジェクトはうまくいきません。

 SAPのソフトウェアは,十分にこなれてきています。あとは,理解して,きちんと導入し,効果的に使えばいいのです。

ZDNet 最後に,SAPジャパンに求めることは?

影山 SAPジャパンもわれわれも,アドオンなしで導入したいですし,顧客もアドオンを求めていません。これは,裏を返せば「それだけの機能をつけてほしい」とSAPに求めていることにほかなりません。機能面の対応,そして新しい技術に対する迅速な対応をお願いしたいです。

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[聞き手:井津元由比古 ,ITmedia]