Case Study:地元の人が地元の言葉で情報交換できる「とよおかむらネット」

【国内記事】2002.2.08

 インターネットやホームページを活用した観光PRだけであれば,今やそれほど目新しいものではない。情報検索サイトで行きたい場所を入力すれば,膨大な情報を簡単に見つけ出すことができるだろう。しかし,Webサイトの内容を情報を提供したい利用者がダイレクトに更新し,地域住民が双方向のコミュニケーション手段を実現している事例があるとすればどうだろうか?

 静岡県磐田郡にある人口約1万2000人の豊岡村では,実際にインターネットを活用した双方向の情報交換が既に実現されている。豊岡村のWebサイト「とよおかむらネット」では,行政情報をはじめ,学校情報,図書館情報,入札/契約情報など,地域住民に必要なさまざまな情報がやり取りされている。

 とよおかむらネットを管理する豊岡村役場では,1998年に庁内LANの構築計画が持ち上がり,行政情報ネットワーク事業をスタート。この一環としてインターネットおよびWebサイトの構築が実現したという。

豊岡村役場の情報化
1998年:庁内LAN,出先機関3個所をつなぐ「豊岡村行政情報ネットワークシステム」を構築

1999年:システム環境の整備・拡張,出先機関2個所の接続を追加

2000年:Notesの導入,1人1台のPC体制に向けた準備。地域インターネット導入事業着手

2001年:出先機関13個所にインターネット環境を導入,地域住民との双方向の情報交換を開始

 豊岡村役場の総務課情報管理係で係長を務める名倉章氏は,「まず,インターネットありきでなく,行政の情報化を進める上でのネットワークシステムの1部としてインターネットを活用している」と話す。具体的には,行政内部の情報化と地域の情報化という2つの側面を持つシステム構築を目指しているという。

 村役場の仕事は,行政内部だけでなく,外部の出先機関とのやり取りや情報交換など,多岐に渡っている。そのなかで,何を内部で処理し,何を外部に見せるかという選択をしたという。そのとき,外部に見せる情報提供の手段として採用されたのがインターネットの活用だ。同Webサイトの実現で最も重要だったのは,すべてのコンテンツ作成を外注するのではなく,「情報を発信したい人がいつでも情報を提供できる仕組みを実現することだった」という。

 もう1つ,同村が積極的に情報化を進める理由に,豊岡村の村長,鶴田春男氏の信念がある。「時代に乗り遅れてはいけない。地方だからこそ,情報化で都市部に負けてはいけない」というのが同氏の考えであり,確固たる信念の下に同村の情報化を推進している。今でも村のIT化に対して,常に前向きな意見を出しているという。

 また,村長自ら住民との情報交換をしたいという希望もあったという。Webサイトができる以前にも,個人のメールアドレスを公開して情報交換を行っていたそうだ。とよおかむらネットには,村長に聞きたいことを直接書き込める掲示板もあり,そこに書き込まれた内容には,鶴田氏自身が返事をしているという。

「地元の人たちが,地元の言葉で,分かりやすい情報提供ができる仕組みを実現したかった」(名倉氏)

 同氏は,とよおかむらネットを,まだまだ完成形ではないとしながらも,利用者には概ね好評だという。Webサイトへのアクセス数も日を追うごとに増加している。

Notes/Dominoで使いやすさを実現

 とよおかむらネットでは,利用方法にあわせ2つの仕組みが提供されている。1つが定型フォームを用意して利用者が配信したい情報を直接登録できる仕組みで,もう1つが専用のフォームを電算課で作成し,特定の利用者がそれぞれ必要なフォームを利用する仕組みだ。

 同Webサイトでは,1つの機能(コンテンツ)が,1つのボタンとしてホームページ上に登録され,機能が1つふえるごとにボタンも1つ増える仕組みを採用している。これは,システムでは大枠だけを管理し,個々の情報については利用者に任せるのが最も効率的と判断した結果という。そのためには,利用者が使いやすい仕組みを実現することが必要だった。

 この仕組みを実現するために同サイトでは,ロータスの「Notes/Domino」を利用している。豊岡村役場では,1998年より職員用のグループウェアとしてもNotes/Dominoを活用している。2001年には,1人1台の環境も実現したという。

 名倉氏は,「職員は,日ごろから使い慣れたNotes/Dominoのインタフェースを利用することで,必要な情報を必要なときにインターネット上に公開することが可能になった」という。ただし,どんな情報でも勝手にアップロードできるわけではなく,管理者の承認を得た情報だけがインターネット上に公開される仕組みになっている。

「提供したい情報をリアルタイムに登録できるというのは非常に便利だ。しかし,出したいイメージ通りにレイアウトされるかどうか分からない点には改善の余地がある」(名倉氏)

 Notes/Dominoを利用したもう1つの理由は,ディスカッションが可能なことだ。例えば,ある問題を提起したときに,その問題に対する考えやコメントを同じページ内に書き込むことができる。また,過去の履歴を確認したり,必要な情報を検索したりすることも可能な仕組みも標準で提供されている。

「複数のアプリケーションを組み合わせれば同じ機能を実現できるだろう。1つのアプリケーションでやりたいことのすべてが実現できるのがNotes/Dominoの最大の魅力だ」(名倉氏)

 また最近では,ほかの行政機関との情報のやり取りが電子メールに移り変わっている。例えば,県に対する報告事項でも,電子メールにより提出してほしいという依頼のほうが多くなっているという。こうした場合でもNotes/Dominoのメール機能を利用できる。

 現在,豊岡村役場では,全職員がメールアドレスを取得しているので,依頼を受けた担当者が直接に依頼を処理したり,適切な担当者に振り分けたりすることができるので,Notes/Dominoを利用することで,作業効率を大幅に向上することができたとしている。

「ただし,(メールが普及したことで)忙しいときに限って緊急性を求められるデメリットも増えたのだが……(笑)」(名倉氏)

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[山下竜大 ,ITmedia]