BEAのAGUSTAは第2レースのチェッカーフラッグを受けられるか?!

【海外記事】2002.3.04

「BEAは,単にアプリケーションサーバ製品を提供するだけでなく,完全に統合され,簡略化された,拡張性の高いアプリケーションインフラを提供できるベンダーに生まれ変わった。他社が,われわれに追いつくことは,もはや至難の技だろう」(米BEAシステムズ,アルフレッド・チャンCEO)

アルフレッド・チャンCEOは,名門バイクメーカー,MV AGUSTAの「F4S」で登場した

 カリフォルニア州サンディエゴのサンディエゴコンベンションセンターで,2月24日〜27日までの4日間開催された米BEAシステムズの年次カンファレンス「BEA eWorld 2002」の基調講演に名門バイクメーカーであるMV AGUSTAの「F4S」で登場した同社のCEO(最高経営責任者),アルフレッド・チャン氏が述べた最も象徴的な言葉だ。

「BEAはアプリサーバベンダーからアプリインフラベンダーに変革する」とアルフレッド・チャンCEO

 今回の同カンファレンスで行われた,さまざまな新しい製品やサービスの発表は,この言葉に基づき開発されている。

 これまでBEAをはじめ,IBMやオラクル,iPlanetなどのアプリケーションサーバベンダー各社は,J2EE(Java 2 Enterprise Edition)の完全サポートといういわば共通のゴールを目指してしのぎを削ってきた。このJ2EEレースで一歩リードしたのがBEAだ。

 調査会社である米ギガ・インフォメーション・グループが2001年9月に発表したJ2EE対応アプリケーションサーバ市場調査では,BEAシステムズが37%でトップであり,3年連続で1位に輝いた。続いてIBMの22%,残りをそのほかのベンダーが分け合っている。ギガでは2005年のJ2EE対応アプリケーションサーバ市場規模は16億ドルと予測している。

 J2EEサーバ市場で,勝利を収めたBEAが,同市場においてより確固たる地位を築くために目指す新たなゴールがインテグレーション市場という。ガートナーによれば,インテグレーション市場は,今後IT関連市場の中でも,最も大きな成長を期待できる市場の1つという。同社の調査では,2001年に18億ドルの同市場は,2005年に56億ドルに拡大する見込みという。

エンタープライズ統合への挑戦!

 そこでBEAは,アプリケーションサーバベンダーからアプリケーションインフラベンダーへの変革に向け,今後の主力製品となるベく発表したのが統合アプリケーションインフラ製品である「BEA WebLogic Platform 7.0」だ。

 BEA WebLogic Platform 7.0は,アプリケーションサーバ製品の最新版「BEA WebLogic Server 7.0」を中核に,バックエンド統合を実現するインテグレーションサーバ製品の最新版「BEA WebLogic Integration 7.0」およびエンドユーザーとのインタフェースを実現するポータルサーバ製品の最新版「BEA WebLogic Portal 7.0」によりアプリケーションインフラを構成し,そのインフラ上に,開発コード「Cajun」(ケイジャン)と呼ばれていたWebサービスモデリング環境「BEA WebLogic Workshop」を利用してWebサービスが実装される。

 同プラットフォームは,単に製品をパッケージしただけでなく,アプリケーションインフラとして完全に統合されており,容易な使い勝手と柔軟な拡張性を実現した統合スイート製品という。特に,BEA WebLogic Server 7.0は,J2EE 1.3やWebサービスに対応し,新しいセキュリティフレームワークを搭載,パフォーマンス,生産性,使いやすさを向上している。

 また,BEA WebLogic Integration 7.0では,WebLogic Serverとの連携機能やセキュリティ機能などが強化されたという。BEA WebLogic Portal 7.0では,Webサービスのためのポートレットビルダーの搭載やBEA WebLogic Workshopとの連携機能などが強化されている。

BEAの切り札と言っても過言でない「BEA WebLogic Workshop」

 しかし,BEA WebLogic Platform 7.0において,最も特筆すべき製品は,XMLベースのWebサービスモデリング環境を実現したBEA WebLogic Workshopの登場だ。これまで,BEAのインフラ(サーバ)製品には定評があったが,統合開発環境(IDE)が提供されないことが弱点の1つとされてきた。同製品を利用することで,ポータル機能,インテグレーション機能,そしてWebサービス機能をVisual Basicのような使い勝手と,ウィザードによる対話形式により,WebLogic Server向けに実装できる。

 BEA WebLogic Workshopは,BEAが2001年7月に買収した米クロスゲインの製品を,BEA WebLogic Platform 7.0用に機能拡張し,BEAブランドとして提供するものだ。クロスゲインは,マイクロソフトでXMLを担当していたアダム・ボスワース氏とレッド・チャベズ氏が2000年2月に設立したソフトウェア会社。さすがに元マイクロソフト社員が開発した開発環境をベースとしているだけあって,BEA WebLogic Workshopのユーザーインタフェースは非常に優れたものとなっている。

 BEA eWorld 2002に日本から参加した某システムインテグレータのエバンジェリストは,「BEA WebLogic Workshopのユーザーインタフェースには驚いた。あれほど洗練されたインタフェースを持つ開発環境は数少ない。現在,(マイクロソフトの)C#に対抗できる唯一の製品だと思う」と話してくれた。

開発者を助けるポータルサイトの開設

 こうした開発者を支援するための新しいプログラムも今回のカンファレンスで発表されている。「BEA dev2dev」は,新しい開発者向けポータルや教育とトレーニングの統合パッケージ,各種ツール,サポートおよび技術的な知識や経験などを,あらゆるレベルの開発者に向けたて提供するコミュニティープログラム。BEA WebLogic Workshop」のベータ版のダウンロードやECperfによるベンチマークレポート,そのほか3月に開催される「JavaOne 2002」の情報など,WebLogic開発者を支援するさまざまな情報が提供される。

 また,BEA dev2devに登録手続きすることで,など,さまざまなサービスを利用することが可能になる。なお,日本語版のBEA dev2devも近く開設される予定という。

企業買収のうまいBEA

 TPモニターのデファクトとなった「Tuxedo」,アプリケーションサーバのデファクトとなった「WebLogic」,BEA WebLogic Workshopのベースとなったクロスゲインと,企業買収のうまさが光るBEAだが,同カンファレンスでは,スウェーデンのJVMベンダーであるアピール・バーチャルマシンの買収を発表した。

 同社は,IAサーバに最適化されたJVM製品「JRockit」を提供しており,JRockitをWebLogicに最適化することで,IAサーバをエンタープライズに持ち上げることが可能という。過去,IAサーバ用のJVMとしては,マイクロソフトが提供していたが,サンとのJava裁判に敗れたために提供できなくなっていた。そのためIAサーバ用に最適化されたJVMは,長い間市場から消えることとなっていた。

パフォーマンス,TCOでも競争を……

 これまでの戦略においてBEAは,競合の製品がどうであれ,自社製品の優位性をアピールする戦略を貫いていた。しかし今回,競合との対決姿勢を明確に打ち出した。その相手とは,IBMだ。

 基調講演では,独立系のJ2EEベンチマーク機関であるECperfでHPが行ったBEA WebLogicによるベンチマーク結果を紹介。それによれば,IBMのWebSphereを利用したテストに比べ,パフォーマンスで25%,トランザクションコストで47%,BEAの方が優れていたという。

 さらに,クリムゾン・コンサルティングが行ったサン・マイクロシステムズとBEAの組み合わせによるTCOの測定では,サンとBEAの組み合わせが,IBMのハードウェア/ソフトウェアの組み合わせより,2.4倍のTCOの削減が可能とした結果も明らかにしている。

 また,基調講演で紹介されたデモの「オチ」では,「青い宇宙服を着た男」が悪役として登場し,場内は大爆笑に包まれた。

勝者は誰に……

「J2EE完全準拠」という明確なゴールに向かい,一直線に走ればよかったアプリケーションサーバ市場に比べ,インテグレーション市場では,目指すゴールがレガシーシステムを統合するEAIやEDIをはじめ,企業間(B2B)統合,さらに最新のアプローチであるWebサービスなどと多岐に渡っている。

 この複数ある「インテグレーション市場のゴール」に向け,どの道を選び,どの順番でゴールすることで,インテグレーション市場の勝者になれるかは,各社それぞれの戦略にかかっている。BEAは今回,まずWebサービス戦略の強化に最も重点を置き,BEA WebLogic Platform 7.0を中核とした,アプリケーションインフラベンダーへの道を選択した。

 インテグレーション市場という第2のレース場で,チェッカーフラッグを受けるのは,果たしてBEAのAGSUTAなのか,それとも……?!

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関連リンク

▼BEAシステムズ

▼BEA dev2dev

[山下竜大 ,ITmedia]