Gartner Column:第41回 ブレードサーバという新たな戦場
| 【国内記事】 | 2002.4.01 |
ローエンドのインテルサーバと言えば汎用部品の組み合わせであり,価格だけがベンダー間の差別化要素となりがちな市場と考えられていた。しかし,最近になり興味深いテクノロジーブレークスルーが出現した。これが,ブレードサーバだ。
第34回でも述べたが,典型的Webサイトの構成は水平型スケーラビリティ,つまり,台数を増やすことで処理能力が向上できるWebサーバ群(いわゆるサーバファーム)から成るフロントエンドと,垂直型スケーラビリティ,つまり,大型のマルチプロセッサマシンが必要となるアプリケーション/データベースサーバのバックエンドから構成される。
フロントエンドでは何よりも多数のサーバ(GoogleやYahoo!などの大規模ポータルサイトでは数千台ものWebサーバが使われている)が必要となる(個々のサーバ自体の処理能力はそれほど高くなくてもよい)ため,スペース効率のよいラックマウント型のサーバが使用されることが多かった。
ブレードサーバは,昔のISAカードくらいの大きさのボードにCPUとメモリーを搭載し,ひとつのコンピュータとして機能できるようにし(これをブレード,つまり“刃”),複数枚のブレードをラックマウントのきょう体に縦に差し込んでいくことで,従来のラックマウント型サーバの1ラックユニット当たり1サーバという制約を越えたスペース効率を達成するためのテクノロジーである。
さらに,複数のブレードで電源やI/Oを共用することで電力消費量も削減(つまり,放熱量も削減)できるし,ハードウェア障害が発生した場合にも,ブレードの交換で容易に対応することができる。まさに,大規模Webサービング向けのテクノロジーと言えるだろう。
登場当初のブレードサーバ市場は,RLXテクノロジーズなどのテクノロジーベンチャーが主導するニッチ市場だった。しかし,昨年末頃からHP,コンパック,NEC ,IBM(RLXのOEM)と主流システムベンダーが相次いでブレードサーバ製品を出荷し始めた。年内には,デル,サン,富士通もブレードサーバ市場に進出するだろう。
とりわけ,サンはブレードサーバの市場に最も関係が深いベンダーだ。大規模なWebサイトのフロントエンド・サーバとしてラックマウント型のSPARCサーバであるNetraが使用されているケースが多いからだ。同社は,まもなく,SPARCベースの,そして,インテルベースのブレードサーバ(これが,第34回で述べたサンのインテル−Linuxベースの汎用サーバ製品の第1弾となるだろう)を発表するだろう。
余談だが,同社は既に自社のワークステーション製品に(ブレードサーバという言葉が世間で使われるようになる前に)Bladeというブランド名をつけてしまったので,ちょっとややこしいことになるかもしれない。
また,インテルもブレードサーバ向けのプロセッサとチップセットを発表している。プロセッサの処理能力をある程度犠牲にしても実装密度を高め,放熱量を押さえるというのはモバイルの設計目標と同じなので,モバイル向け技術を活用できる。インテルがこの市場に乗り出したことも,ブレードサーバがニッチからメインストリームに移行しつつあることを表しているだろう。
ガートナーでは,ブレードサーバ普及のキーが標準化にあると見ている。現時点では,確かにコンポーネントはインテルベースでの標準化が進んでいるのだが,肝心のブレードを差し込むバックプレーンの標準化が進んでいないのだ。例えば,HPはコンパクトPCI(cPCI)を使用することで標準化の点では先を行っているのだが,残念ながらcPCIは実装密度の点で不利だ。
PCIの標準化を行っているPICMG(PCI Industy Computer Manufacturors Group)では,ブレードサーバの要件を見据えたより高密度かつ高速の規格を策定中である。おそらく,2003年末ごろまでにはある程度標準が普及するだろう(Infinibandがサポートされる可能性も高い)。
ブレードサーバの発想は正しい。特に,土地代の高い日本においては有効なソリューションになる。しかし,短期的に見れば市場環境はやや厳しいものとなるだろう。最もブレードサーバを必要とする企業であるとみなされていたiDCのビジネス自体が思ったほどには成長していないからだ。
多くのiDCが過剰設備を抱えている中で,よほどデータセンターのスペースに余裕がない企業でなければ,あわてて,既存のラックマウント型Webサーバをブレードサーバに置き換えることはないだろう。現在使用している製品の更改時期にあたり,かつ,上記の標準化の問題もある程度解決していると思われる2〜3年後が,ブレードサーバ市場が本格的に立ち上がる時期となるのではないだろうか。
ところで,ブレードサーバを設計開発するにあたっては,単に部品をケースに詰め込めば良いというものではない。狭いスペースで効率的な放熱を行うためには高度な熱設計の技術が必要になる。ベンダーの総合的なエンジニアリング能力の見せ所となるわけだ。
このあたりのパッケージング技術は日本国内ベンダーの得意とする分野でもある。ブレードサーバという新市場で日本ベンダーの底力が生かせないものかと,個人的には期待しているのである。
[栗原 潔 ,ガートナージャパン]
