Gartner Column:第34回 アナリストカンファレンス製品発表に見るサンの未来

【国内記事】 2002.2.12

 今年のサンのワールドワイド・アナリスト・カンファレンスにおける新製品発表の中心は,1.ストレージ関連製品と管理アーキテクチャ,2.コンピュータの仮想化コンセプトN1,そして,3.アナリスト達を驚かせたLinux向け汎用インテルサーバ販売の意向表明(さらに,番外編としてスティーブ・ジョブズとのコラボレーションによる謎の新製品?)であった。

 今,サンのワールドワイド・アナリスト・カンファレンス出席のためにサンフランシスコに来ている。このカンファレンスは,ガートナーなどのインダストリーアナリスト,そして証券アナリスト向けにサンの戦略を説明するために年に一度行われている重要イベントだ。

 今回唯一と言って良い具体的な製品発表は,ディスクアレイのStorEdge3900/6900,ストレージ管理ソフトウェア群,そして,ストレージ管理アーキテクチャのStorage ONEであった。

 第15回で述べた日立との「共同ブランディング」(くれぐれもOEMとは呼ばないでくれと両社の担当者に言われている)によるStorEdge 9900はよりハイエンドであり,専用きょう体を使用していることから一般に,モノリシックアレイと呼ばれるカテゴリーに属する。

 このタイプの製品は,ギガバイト級のキャッシュとメインフレーム級のインターコネクトを備えており,主に大規模OLTPやデータウェアハウス向けに使用される。

 今回発表の製品は,ミッドレンジに位置し(最大11テラバイトのストレージシステムを「ミッドレンジ」と呼ぶのは多少違和感があるが),ラックマウント型のきょう体を採用していることから,モジュラーアレイと呼ばれるカテゴリーである,大容量のWebサービング,電子メール,VODなどのアプリケーションに適しており,モノリシックアレイほど付加価値は大きくないが何しろ数が出る製品なので,ビジネス上のインパクトは大きい。

 そして,さらに重要なのがストレージ管理ソフトウェア製品群と管理アーキテクチャであるStorage ONEである。第27回でも述べたように,ユーザーのストレージに対する投資意欲は2002年も高い。そして,ストレージ容量の増大と共に重要となってくるのがストレージ管理だ。今後モジュラーアレイのハードウェアがコモディティ化していく中で,ストレージベンダーの差別化要素はソフトウェアを中心としたものになっていくだろう。

 ゆえに,サンの方向性は正しいと言える。しかし,同社がストレージ市場への進出に出遅れてしまったことは確かだ。これから,どの程度キャッチアップできるかに注目したい。

 サンのCTOグレッグ・パパドポロス氏のセッションでは,コンピュータの大規模な仮想化プロジェクトであるN1が説明された。

 同氏は,サーバの役割が,水平型のスケーラビリティ,つまり,台数を増やすことで処理能力を向上できるWebサーバ向け(エッジサーバと呼ばれることもある),そして,垂直型のスケーラビリティ,つまり,サーバ自体の高性能化が必要なデータベースサーバ向けへと分化していくと述べ(ここまでは,どこのベンダーも言っていることだ)前者をH1,後者をV1と名付けた。そして,さらに,これらのサーバを仮想化することで管理を容易にするためのコンセプトとしてN1を提唱した。

 長期的ビジョンとしては,N1は,明らかに正しいと思えるが,紙面の都合により,詳しい説明は次回に回したい。

 おそらくアナリスト達を最も驚かせた発表は,Linux向けの汎用インテルサーバの販売意向の発表だろう。これまでのサンのLinuxに対する姿勢は「We love Linux. We do Solaris.」だった。つまり,Linuxおよびオープンソースムーブメントを支持はするものの,あくまでも自社のビジネスの中心は(SPARC上の)Solarisというのがサンの一貫した姿勢だったのである。

 コバルトの買収はあったが,それは特定目的のアプライアンスサーバとしてLinuxを使う,つまり,Linuxをユーザーには直接見せないという前提があったわけだが,今回,サンは,汎用サーバを発表することでLinuxの世界にかなり近付いたのである。同時に,この製品はサンが発表する最初のインテルベースの汎用サーバ(ひょっとするとPC互換機かもしれない)ということになる。

 スコット・マクニーリは,セッションにペンギンの着ぐるみを着て登場した。まあ,よくあるパターンなのだが,注目すべきは(写真がなくて申し訳ないが)ペンギンの胸に大きく書かれたH1の文字である。要は,Linuxはあくまでも,水平的スケーラビリティが効くエッジサーバ向け,そして,垂直スケーラビリティが必要なバックエンドサーバは今後もSolaris/SPARCで行くというメッセージの表明ということだ。

 最後に番外編となるが,マクニーリのセッションの最後に,盟友スティーブ・ジョブズとの共同開発である戦略的製品(?)が公表された。

戦略的新製品「iFire」:会場で写真が撮れなかったため,閉会後,撤収中の壇上でお願いして撮らせてもらったため写りが悪いのはご容赦いただきたい。なお,試しに上の部分を押してみたが,ティルトはしなかった(当たり前)。

 会場の反応はウケるというよりは,あきれているという感じだった。サンのギャグセンスもちょっとベタになってきているのではないだろうか?

 上記の3つの発表(もちろん,4番目は除く)は,変化するサンの今後を表していると言えるだろう。つまり,サーバベンダーから総合システムベンダーへの飛躍,そして,Solaris/SPARCというシングルプラットフォームからの離脱ということだ。サンの今後の成長のためには必須の選択だが,シングルプラットフォーム故の単純さという差別化要素が崩れつつあるのは確かだ。

 というところで,時間も紙面も尽きてしまったので,N1を中心としたさらなる分析は次回とさせていただきたい。

[栗原 潔ガートナージャパン]