法務省電子申請方式で“お墨付き”を得たPDFフォーマット

【国内記事】2002.4.17

 この3月末から4月にかけて,年度末のタイミングに合わせて,総務省,経済産業省,法務省がそれぞれ電子申請システムの稼働を開始している。PKI以前の問題――申請専用ソフトウェアのセキュリティホールやWebコンテンツに対する保護の欠落など――があったにせよ,ともかくも一歩が踏み出されたのは事実だ。

 上記の3省のみならず,e-Japan構想に沿って,行政処理にまつわる各種申請・登録業務を電子化・オンライン化し,コストの削減を図るとともに利便性を向上させようという動きが活発化している。そこで重要視されているのがPKI技術だ。

 オンライン申請などには常に,成りすましやデータの改ざんの危険性がついて回る。PKI技術に基づいて発行された電子証明書を用いれば,証明書による認証を通じて,ネットワークの向こう側にいる人物の本人確認を行うことができる。また電子署名とその検証によって,データが本当に本人によって作成されたものかどうか,また改ざんが加えられていないかを確認できる。

 昨年には電子署名法が施行され,電子署名が付与された電子文書にも,押印された紙の文書と同等の法的効力が認められることになった。また同法では,電子証明書を発行する認証期間(認証局)に対する認定制度が定められており,日本認証サービスが特定認証業務の認定第1号を取得している。

「PDFをプラットフォームに」

 こうした動きを背景に,多くの企業が,電子政府,電子自治体システムの構築と,その基盤となるPKIシステムにビジネスチャンスを見出そうとしている。アドビシステムズもその1社だ。

 同社は4月17日,法務省告示第百1号,ならびに百2号において,「Adobe PDF」ファイル形式とその電子署名仕様が,“法務大臣に商業登記規則に基づいて登記所に提出する書類”の電磁的記録方式の1つとして指定されたことを発表した。簡単に言ってしまえば,PDF形式のファイルが,行政事務における電子フォームの正式フォーマットとして,お墨付きを得たということだ。

 DTP,Webパブリッシングを牽引してきた同社は今,ネットワークパブリッシングと電子政府にフォーカスしている。米アドビシステムズのePaperソリューショングループ担当上級副社長,ジョー・エシュバック氏は,「アドビシステムズは,信頼性や相互接続性,最大の問題であるセキュリティおよびプライバシーといった問題を解決し,電子政府ソリューションにおけるテクノロジのリーダシップを取っていく」と述べた。

Acrobatの次期バージョンではXML Signatureもサポートするというエシュバック氏

 Adobe PDFは既に官報の電子化で採用されているほか,各種情報公開,申請書配布などに幅広く利用されている。これには,既存の文書形式や紙のイメージをそのまま,たとえ縦書きであろうと電子化できることが大きいだろう。

 Adobe PDFはまた,PKIシステムとの連携が可能であり,電子署名の付与,検証も行える。既にベリサイン,エントラストのPKI製品に対応済みだが,このたび日本認証サービスのPKIソリューション「AccreditedSignパブリックサービス」「同2」にも対応した。

 さらに,紙の文書における印影――いわゆる朱色の「ハンコ」を付いた状態――を再現することもできる。サインではなく印鑑文化圏である日本においては,これも重要な機能の1つといえそうだ。

 アドビシステムズの代表取締役を務める石井幹氏は,こうした機能を通じて「日本においてもAdobe PDFを1つの基盤,プラットフォームとして利用してもらっている」と言う。そして今後は,システムインテグレータなどと協力しながらAdobe PDFをさらに浸透させていきたいとした。

 これまで毎年のように「今年こそPKI元年」という宣言が打ち出されては,期待が裏切られるということが繰り返されてきた。しかし日本認証サービスの企画担当部長,町田陽氏は,「電子署名法,そして各省による電子申請サービスの開始によって,ようやく(普及に向けた)見通しが立ってきた。既に多くの問い合わせもいただいている。今度こそ本当の“PKI元年”になる」と述べている。

アクセリオのテクノロジも統合

 アドビシステムズはこの日,アクセリオの買収作業を完了したことも発表している。アクセリオは,電子フォームに基づいてビジネスプロセス管理をサポートするWeb対応ソリューションを提供してきた企業で,今年2月にアドビによる買収が発表されていた。

 エシュバック氏は,「Acrobatはクライアントベースの製品だが,アクセリオの買収によってサーバベースのテクノロジを入手することができた」と述べ,アクセリオの技術をAdobe PDFおよびAcrobatに統合していく意向を示した。核となるクライアントとしてAcrobatを活用しながら,アクセリオの技術をベースに,署名,承認といった電子フォームのワークフローをサポートしていくという。

 さらに,Acrobatの次期バージョンでは,「XML対応機能を大幅に強化する」(エシュバック氏)という。「XMLは非常に重要な機能。Acrobat 6では,DOM,XML Signature対応を含め,さまざまなレベルでXMLをサポートする」(同氏)

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関連リンク

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[高橋睦美 ,ITmedia]