Interview:「今年後半にはギガビットの波が来る」とするインテル・メンツァー氏

【国内記事】2002.4.18

 4月16日から18日にわたって千葉・浦安で開催された「Intel Developer Forum 2002 Spring Japan」(IDF 2002 Spring Japan)の主役は,エンタープライズサーバ向け次世代プロセッサ「McKinley」だけではない。同社は,ワイヤレスLANから携帯電話,ネットワーク機器の核となるネットワークプロセッサに至るまで,ネットワーク分野を見据えた幅広いラインナップも展開している。
 IDF 2002 Spring Japanに合わせて来日した,米インテル・コミュニケーションズ事業本部副社長兼CTOのエリック・メンツァー氏に,同社のネットワーク戦略を聞いた。

ZDNet 現在の統括範囲から教えてください。

メンツァー 現在,インテルのネットワークおよびコミュニケーション分野には約6000人が従事しており,私はそれをCTOとして統括し,業界全体のトレンドを見ています。

 大きくプロセッシングと,イーサネットおよびオプティカル(光)の2つに分けられますが,プロセッシング分野はさらに,ネットワークプロセッサ,エンベデッド(組み込み),通信事業者向けのモジュラー,それにストレージの4つに分けることができます。一方イーサネットおよびオプティカル分野は,ワイヤレス,ギガビットイーサネット,それに10ギガビットイーサネット/オプティカルの3つに大別できます。私は数十におよぶプロダクトラインを見ていますが,その中でも重要なのが,この7つのテクノロジです。

ZDNet 業界全体のトレンドとおっしゃいますが,具体的にどんな動きがあるのでしょう?

メンツァー これまでは,特定の目的ごとに,独自の技術に基づいた個別の製品が提供されていました。しかし現在は標準化が進んでおり,共通の標準に基づいたビルディングブロックを組み合わせるモジュラーネットワークの世界へ移行しようとしています。

 大きな理由はコストです。現在,サービスプロバイダーの収益も,またそうしたプロバイダー向けに機器を提供するベンダーの収益も急激に傾いています。そうしたコストが原因となって,標準に基づいたモジュラー化が進んでいるのです。なにせ,過去の10年で起きたことがたった1年に集約されてしまうようになったのですから。

 現在進行中のモジュラーネットワークにおいて,重要なトレンドは4つあります。

 エンタープライズでは,LANではギガビットの速度が,データセンターでは10Gbps(10G)の速度が求められるようになっています。またストレージもネットワークの一部となっています。それからワイヤレスです。もはや“有線か無線か”ではなく“有線も無線も”なのです。そしてメトロに目を向けると,メトロアクセスにはギガビットが,さらにアグリゲーションや地域メトロコアの部分には10Gが浸透しつつあります。

 今までの技術は,どれだけ帯域幅を増加させ,スピードを上げるかが主眼になっていましたが,これからの勝負のポイントは,どれだけ効率よくサービスを提供することができるか,つまりどれだけ設備投資や運用コストを下げられるかにかかってくるでしょう。また,今までニッチの地位に甘んじていたオプティカルは,今後主流になるでしょう。

 アクセスの分野も変化しています。ゲートウェイ部分で,音声とデータ,それにエンターテイメントのコンバージェンスが実現されようとしています。

ZDNet その中で鍵を握る技術は?

メンツァー モジュラープラットフォームに向けたトレンドにおいて鍵となる技術は,ATCA(AdvancedTCA)とPICMG。それにACISからネットワークプロセッサへの移行。それからPCIから3GIOへの移行です。

ZDNet しかし,ASICのほうがより高速な処理が実現できるのでは?

メンツァー ネットワークプロセッサが完全にASICに取って代わるということではありません。それでも,ネットワークプロセッサの優位は2つあります。

 1つは,ネットワークプロセッサは柔軟性の高いソリューションを展開でき,すばやくマーケットに提供できることです。ASICは個別に作り込む必要があります。インテルでは,ネットワークプロセッサの量産体制,各アプリケーションコンポーネントに合わせたサポート体制を整えています。

 もう1つは,マーケットにおける寿命です。つまり,変化を続ける市場の中で新しいプロトコル,新しい機能が必要となった場合でも,ネットワークプロセッサをそのまま利用しながら,アップグレードによってタイムリーに対応できます。

ZDNet 3GIOはどうでしょう?

メンツァー これは,現在のPCIに比べて非常に高速です。おそらく――単純に計算してですが――PCIの10倍のパフォーマンスを実現できるでしょう。PCIは“バス”アーキテクチャに基づく,過去10年間の技術だといえます。これに対し3GIOは,イーサネットのスイッチに似たアーキテクチャを取っています。今後10年間活用できるベースを持った,スケールアップが可能な技術です。

ZDNet その中でインテルの持つ技術はどう生かされるのでしょう? ハイパー・タスク・チェイニングが鍵を握るのでしょうか?

メンツァー ハイパー・タスク・チェイニングは,数多くのマイクロエンジンをXScaleがコーディネートし,同時に動作させるものです。1つひとつのマイクロエンジンは低速でも,同時に多数の処理を行うことができるため,全体としての処理能力は高まります。消費電力も低いため,ネットワーク機器に適した技術だといえます。これは,ASICにおける技術とはまったく異なるものです。

「物事を図式に表しながら説明するのが好み」と笑うメンツァー氏

ZDNet 競合企業はどこになりますか?

メンツァー 現在の状態は,マイクロプロセッサにおける1980年代,あの時代を思い起こさせます。四半期ごとに異なる企業が競争相手となっているのですから。今は,小規模な競合企業が入れ替わり立ち代わり登場しています。ですが,5年後には状況は変わっているでしょう。数少ない,それも強力な“勝ち組”の企業が残ることになるでしょう。

 そして言うまでもなく,インテルはその1社になります。インテルは長い歴史の中で,独自のコンピューティングアーキテクチャ,コミュニケーションアーキテクチャを開発し,数世代に渡る努力を重ねてきたからです。プロセシングテクノロジ,大量生産の可能な設備,世界各国におけるプレゼンスという3つの要素によって,インテルは勝ち組の中に残ることができると考えています。

ZDNet 今年2月のIDF Springの中で,「ギガビットイーサネットがクライアントPCに普及する」という予言がなされました。それが実現されるのはいつでしょう?

メンツァー 今年の下期には,今後3〜4年は使える新しいクライアントPCに投資するという形で実現されると見ています。そして,Webサービスやネットワークストレージが導入されるにつれ,ネットワークインフラもアップグレードされ,最終的にはギガビットが分散型コンピューティングやストレージに活用されていくと思います。そして,ここで鍵を握るのはアプリケーションです。

 まずサーバやストレージ,次にワークステーション,そしてデスクトップPC,最後にネットワークインフラという順序でギガビットへのアップグレードが進み,将来への備えがなされていくでしょう。今は3つ目の,デスクトップPCの段階です。

ZDNet そうなれば当然,データセンターなどにおいては10Gやオプティカル技術が求められますね。

メンツァー そのとおりです。カテゴリ5ケーブルからファイバへの移行は既に進んでいます。LANはギガビットに,そしてデータセンターは10Gになり,Webサービス上の新しいソフトウェアが活用されるようになるでしょう。

ZDNet ただ,最初に挙げた技術の中には,まだ欠けている要素もありますね。たとえばセキュリティがそうですが。

メンツァー 現状では,ユーザーから見るとネットワーク機器があり,サーバがあり,その中間にファイアウォールなどの形でセキュリティ機能が盛り込まれています。今後はこのセキュリティ機能が,ネットワーク機器とサーバ,双方に搭載されるようになるでしょう。

 ただ,問題にもよりけりです。例えばウイルス対策ですが,電子メールにウイルスが入っているかどうかを通信機器で検知するのは難しいですよね。もう少し高いレイヤの技術が必要です。ですが,侵入検知――ポートスキャンがあるかどうか,DoS攻撃を受けているのかどうかの検出――といった問題となれば,低いレイヤで実現できます。いずれにせよエンタープライズに向けては,ネットワーク機器とサーバ,双方のビルティングブロックでセキュリティを提供します。

 またIEEE 802.11ベースの無線LANについては,現在はVPNによってセキュリティを確保していますが,まずソフトウェアアップグレードによってTKIP(Temporal Key Integrity Protocol)をサポートし,さらに今年第3四半期には次世代の802.11機器として,AES(Advanced Encryption Standard)をサポートした新しいハードウェア製品を提供する計画です。この3ステップでセキュリティの問題を解決していきます。

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