エンタープライズ:トピックス 2002年6月17日更新

Gartner Column:第51回 ハイプ曲線再考〜ITの「墓場」を分析する

 第9回では、テクノロジーがバブル期と反動期を経て安定期に至るというガートナーのハイプ曲線について紹介したが、あらゆるテクノロジーがこのサイクルに乗れるわけではない。ここでは、安定期に至ることができないテクノロジーについて分析してみよう。

 ハイプ曲線は、あるテクノロジーの登場後、しだいにその注目度が高まり、流行期(バブル状態)になった後に、その反動が訪れ、そして、最終的には安定的な評価を得るという(ITの世界に限らず)よく見られる現象をモデル化した図である(図1参照)。


図1:ハイプ曲線

 しかし、あらゆるテクノロジーがこのようなライフサイクルをたどるわけではない。安定期に到達する前に、いつのまにか人々の話題にもならなくなるものの方が多いくらいだろう。このようにメインストリームへの道をまっとう出来なかったITのパターンをガートナーでは以下のように分類している。

1.エンベデッド(埋め込み):単独のテクノロジー分野としては存続し得なかったが、他の分野の製品に埋め込まれた形で有効性を発揮しているテクノロジーで、プッシュテクノロジーなどがその例となる。ビジネスインテリジェンスの分野では、ナローキャストなどの名称で有効に活用されている。

2.ニッチ(隙間市場):ある特定の分野では価値を提供しているが、主流の地位、つまり、企業の30%以上が使用しているような地位を獲得できなかったテクノロジー。かつてのAI時代には大きな注目が集まったエキスパートシステムなどがこの例にあたるだろう。保険の査定などの特定分野では活用されているものの、主流の地位を得たとは言いにくい状況である。

3.フェニックス(不死鳥):反動期から安定期に行く前に世の中から忘れ去れそうになりながら、再度流行期が訪れるというパターンを繰り返しているテクノロジー。エージェントは、このパターンの最も顕著な例だろう(エージェントは「エンベデッド」のパターンにも属すると言えるが)。

4. スリーパー(大穴):同じく長く反動期にあり、消滅しそうにあるが、将来的に大化けし、メインストリームに復活する可能性が高いテクノロジー。基本的なアイデア自体は健全だが、アイデアに実現テクノロジーが追いついておらず、実用的な性能を発揮できなかったテクノロジーがこのパターンに当てはまることが多い。PDAは、「スリーパー」の状態からメインストリームに復活したテクノロジーの例であり、音声認識、文字認識、仮想現実(VR)などもこのパターンに属すると見てよいだろう。

5.ゴースト(幽霊):テクノロジーそのものとしては成功できなかったが、その基本的なコンセプトが新たなテクノロジーとして復活する可能性があるというパターン。例えば、インタラクティブTVなどがこれに属するだろう。一般消費者がリビングルームで使用できる対話型のメディアという点で言えば、(キャプテンシステムなどの)ビデオテックス、パソコン内蔵TV、リビングルームPC、WebTVなどのテクノロジーが登場しては消えているが(WebTVは消えたとまではいえないだろうが)、近い将来、同様のテクノロジーが出現し、成功できる可能性もあるだろう。

6.エクスティンクト(絶滅):より優れた対抗テクノロジーの出現により、主流の地位に至る前に陳腐化してしまい、将来的に復活する可能性もほとんどなくなってしまったテクノロジー。アナログHDTVなどがこのパターンに属するだろう。

 ハイプ曲線の活用においては、流行期における過大評価に気をつけなければならないのと同様に、反動期における過小評価にも気をつけなければならない。過小評価に気を付けるとは、ニッチ、フェニックス、スリーパーに属するテクノロジーをうまく識別することでもある。

 あくまでも個人的な予測ではあるが、最近話題になっているITを例にとってみると、ここ数年間で、Webサービスは(XMLベースのメッセージングでインターネットを介して企業間連携を行うというより広い文脈で言えば)メインストリーム(安定期)に、グリッドコンピューティングとセマンティックWebはニッチに、P2Pはエンベデッドに属することになるのではないかと考えている。

[栗原 潔ガートナージャパン]