エンタープライズ:ニュース | 2002/08/06 23:37:00 更新 |
e-ラーニングが企業を変える (1/2)
PCとネットワークを活用して、ユーザーが自分のペースで学習を進めることができるe-ラーニング。しばしばそのメリットとして「いつでもどこでも学習できる」「コストが削減できる」ことが挙げられるが、真の効果はそれだけではない。
あなたの会社では、既にe-ラーニングを導入しているだろうか?
いわゆる「学習」といういと、机に座って本と格闘する……というイメージが一般的だろう。これに対しe-ラーニングでは、PCとインターネット/ネットワークなどを活用して、ユーザーが個々に、自分のペースで学習を進めていく。
当初のe-ラーニングは、WBT(Web Based Training)に代表される、集合研修や通信教育の置き換え型が中心だった。受講者にとっては、自分の都合に合わせて、時間や場所の制限なく学習できることが大きなメリットになる。通信教育のIT版、というイメージだ。
研修を行う側にとっても、受講者を1つの場所に集める場合に比べ、交通費や宿泊費、会場費などのコストを削減できる。そしてこれが、WBTの最大の利点としてうたわれていた。
だが実は、これだけではe-ラーニングの効果が真に生かされているとは言えない。では、その本来の効果とは何だろうか? 順を追って説明していきたい。
LMSが引き出す学習効果
e-ラーニングのメリットは、いつでもどこでも、自分の好きなときに学習できることにある。だがこれは裏を返せば、よほど強い意志やインセンティブ(あるいは罰則)がない限り、途中で挫折する割合も高くなるということだ。
したがって受講者をほったらかしにするのではなく、常にケアし、引き付けていく仕組みが不可欠となる。さもなければ、e-ラーニングシステムを導入しても、宝の持ち腐れになる可能性がある。
ガートナー ジャパンが今年3月に発表した「E-ラーニングに関する利用者の意識調査」によると、回答者の9割近くが、e-ラーニングのメリットとして「時間や場所がない」(88.1パーセント)ことを評価した。
一方で、最大の不満点として「強制力の欠如」(27.2パーセント)が挙げられる結果になった。受講者が1カ所に集まって研修などを受ける場合に比べ、どうしても緊張感や相互刺激に欠け、モチベーションを維持するのが難しいということだ。結果として進捗状況は、受講者それぞれの自己管理能力にゆだねられてしまう。
e-ラーニングのメリットは、そのままデメリットにもなり得るのである。では、どうしたらこのジレンマが解決できるだろうか?
こうしたニーズを受けて、よりよいコンテンツの開発を支援するだけでなく、e-ラーニングを取り巻く環境を整備し、受講者が必要な知識やスキルを確実に取得できるよう支援する管理プラットフォームが登場してきた。いわゆるLMS(ラーニングマネージメントシステム:学習管理システム)だ。合わせて、ITそのものの環境を含む学習環境の整備を支援するサービスやコンサルティングも提供されつつある。
こうしたシステムを利用すれば、受講者それぞれの進捗状況や受講履歴、理解度やスケジュールを一括して管理したり、能力や目標に合わせてきめ細かなプログラムを提供するといったことが可能になる。
並行して、これらの情報を元に「どのコースを選択すべきか」「どういったスケジュールで進めればいいか」といった相談に乗ったり、システムの操作方法に関する問い合わせに答える人員を用意する必要がある。いわゆるチューター/メンター制だ。
こうした部分が、WBTとe-ラーニングとを分ける決定的な要素だ。システムをただ導入するだけでなく、適切なコンテンツの整備や管理環境、学習環境の整備にも取り組んでいかなければ、望む成果は得られないだろう。
なお受講者の能力を高めるという最終目的を達成するには、個々で進められるe-ラーニングに集合型研修を適宜組み合わせて、モチベーションを維持しながら目標を達成する「ブレンド型」が最も適しているかもしれない。
同期型e-ラーニングの魅力
e-ラーニングシステム自体も進化しつつある。
かつて大半のシステムは「非同期型e-ラーニング」と呼ばれるタイプだった。これはWBT、ひいてはCD-ROM教材を用いて学習したCBT(Computer Based Training)の延長線上にあるもので、あらかじめ用意された学習コンテンツが一方的に流されてくる、というイメージだ。
これに対し最近注目を浴びているのが「同期型(ライブ型)e-ラーニング」である。これは、複数の受講者や講師が同一の教育コンテンツを共有しながら学習を進める。同時にチャットや音声、映像などを通じて、リアルタイムにコミュニケーションすることも可能だ。
同期型e-ラーニングシステムの例(米セントラ・ソフトウェアの「CentraONe 6.0」)
こうした同期型e-ラーニングシステムでは、1対1だけでなく、1対複数の「仮想教室」や、1対多の「ライブ中継」までもサポートされていることが多い。これを活用すれば、学習を進めながらリアルタイムに質疑応答を行ったり、受講者が順番にプレゼンテーションを行い、その後全員でディスカッションを行ったりと、多様な学習が可能になる。先ほど触れた「強制力のなさ」というe-ラーニングの欠点をカバーするだけでなく、ユーザーの理解度を高める手助けにもなるだろう。
環境によっては、動画でやり取りしているはずが「紙芝居」のような表示になる可能性もある。だが今後、ブロードバンド接続が普及していけば、受講者と教師、受講者どうしの間で、よりリッチなコミュニケーションが可能になるだろう。
また、「空いている時間は少しでも活用したい」という熱心な受講者に受けそうなソリューションが、モーバイル機器を活用したe-ラーニングシステムだ。日本IBMの「WorkPad」や、コンパックコンピュータの「iPaq」を活用したシステムが登場している。これを活用すれば、例えば通勤中のようなちょっとした時間を活用して学習を進めることができる。
e-ラーニングの標準仕様「SCORM」
航空関連の企業などが集まって結成したAICC(Aviation Industry CBT Committee)と、アメリカ国防省系の機関ADL(Advanced Distributed Learning)が提唱する、e-ラーニングコンテンツの標準規格。異なるベンダーが提供するLMSやコンテンツを組み合わせて利用できるようにすることが目的だ。具体的には、コンテンツの構造およびサーバと端末(クライアント)との間のインタフェースなどを規定している。
SCORMによる標準化のメリット
SCORMには幾つかバージョンがあるが、日本ではSCORM1.2を標準とする方向でまとまりつつある。7月15日には非営利団体の日本イーラーニングコンソーシアムが、「SCORM Version1.2」の日本語版を発表した。準拠製品も6月以降登場している。
[高橋睦美,ITmedia]