エンタープライズ:ニュース 2002/11/20 22:36:00 更新


Keynote:「Athlon 64」はAMDにとって天国の扉になるか? ルイズ氏の初挑戦は大成功

米AMDのヘクター・ルイズ社長兼CEOがCOMDEXのキーノートに初挑戦した。顧客を中心にした革新というメッセージや「Athlon 64」ブランドの発表を無難にこなし、最後にはボブ・ディランの「天国の扉」の替え歌を、AMDプロセッサ搭載のミュージックワークステーションの助けを受けながら演奏まで披露した。

 COMDEX/Fall 2002の2日目となる11月19日、米AMD社長兼CEOのヘクター・ルイズ氏がキーノートスピーチに挑戦した。ルイズ氏がこのような大きなイベントのキーノートに登場するのはおそらく初めてだが、「顧客を中心の革新を(Customer Centric Innovation)」というメッセージや、コンシューマ向け64ビットプロセッサブランド「Athlon 64」(コードネーム「ClawHammer」)のアナウンスを無難に行い、最後にはロックバンドとのセッションまでこなした。ここのところインテルに押され業績があまりよくないAMDだが、2003年に出荷予定のAthlon 64とOpteronにかける意気込みは十分に伝わってきた。

 ルイズ氏は「これまで我々は技術ばかりを追い求めるてきたが、もうそろそろ、顧客が求めてもいない新技術の投入はやめる時だ。いまこそ顧客中心の革新を目指すべき」という。これが単なるメッセージだけであれば、プロセッサのクロック競争、さらにはハイパー・スレッディングでインテルに差を付けられるかもしれないAMDの言い逃れとの厳しい見方もできる。AMDがかねてから主張している、コンシューマ市場への64ビットプロセッサ投入に関しても、本当にニーズがあるのかという見方も根強くある。

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米アドバンストマイクロデバイセズ(AMD)社長兼CEOのヘクター・ルイズ氏

 しかし、このルイズ氏のキーノートでは、AMDが獲得した顧客やパートナー(しかもホワイトボックスPCメーカーなどではなく有名どころ)をステージに呼び、64ビットプロセッサやHyperTransportへの賛同と期待、賞賛の言葉を語らせることで、AMDが「顧客中心の革新」に正しく進んでいることをアピールすることに成功した。

 ビデオ、あるいはステージに登場したのは米JAKフィルム、米ノースイーストユーティリティ、中国のチャイナベーシックエデュケーション(CBE)、米ギブソンギター、米クレイ、米IBMソフトウェア、米エピックゲームズ、米NVIDIAなどだ。

 米JAKフィルムは映画「スターウォーズ エピソード2 クローンの攻撃」のCGを手がけた企業で、ハイパフォーマンスのAthlon搭載PCがCG作業の大部分をこなしたという。また、大手の顧客として紹介したのが、電力会社の米ノースイーストユーティリティと、中国CBEだ。特にCBEとは中国の学校教育用PCを共同開発するということで合意しており、将来の大きなボリュームの顧客としてAMDの期待がかかっている。

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米NVIDIAは発表したばかりのGPU「GeForce FX」をAthlonとnForce2チップセットの組み合わせで動作させて見せた。FSBはAMDもまだ予定していない400MHzにクロックアップしていた

 64ビットプロセッサに関しても、ルイズ氏が直接そのテクノロジを説明するのではなく、パートナーの言葉で語らせた。米ギブソンギターは、CEOのヘンリー・ジャスキーウィックス氏が、HyperTransportを内蔵し、ミュージックワークステーションとイーサネット経由で通信するという、デジタルエレキギターを実演した。一見普通のエレキギターだが、ピックアップで受けた信号をAthlon 64搭載のミュージックワークステーションで自在に加工できるという。また、米エピックゲームズは、Athlon 64搭載PC上で人気のある3Dシューティングゲームの64ビット対応版「Unreal Tournament 2003」(64ビット版Linux上で動作)を紹介して、ディープなゲームファンをうならせた。

 もちろんコンシューマ向けだけでなくエンタープライズ向けのアピールも忘れていない。米クレイが進めている、Opteronを1万個使いHyperTransportによってパラレル化した、核シミュレーション用のスーパーコンピュータ「Redstorm」計画を紹介した。米IBMソフトウェアのパット・セリンガー氏は「DB2」をデュアルOpteronを搭載した64ビットLinuxにポーティングし、大きな性能向上を得たと述べた。このポーティングは2日の作業で終了し、「低価格で高性能であることが成功の鍵だ」と、Opteronに期待を寄せた。

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IBMソフトウェアのセリンガー氏は32ビットと64ビットの両方のアプリケーションをサポートするx86-64テクノロジを高く評価した

 キーノートの最後にルイズ氏はデジタルギターを手に、元ガンズ・アンド・ローゼズギタリストのスラッシュ氏やジャスキーウィックス氏とのライブセッションに臨み、「Knocking on Heaven's Door(天国の扉)」(サビの歌詞は「Knock Knock Knockin’ on 64」と変えられていた)を演奏した。ルイズ氏は、2003年第1四半期終わりから2003年半ばまでに投入予定のAthlon 64やOpteronが、この演奏後に観客から受けた拍手喝采を、同じように市場から受けられるよう、強く願ったに違いない。

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演奏後の喝采を受けるルイズ氏(左)と、ギタリストのスラッシュ氏(中央)、米ギブソンギターのジャスキーウィックス氏(右)

 以前、AMDのプレスカンファレンスでは、(技術的な)競争が革新を生む、というメッセージが繰り返し発信されていた。AMDとインテルの技術競争によって、プロセッサの価格は下がり、性能は向上し、ユーザーは大きなメリットを得ることができた。ルイズ氏は、技術主導型の革新から、顧客主導型の革新に変わるべき時がきたという。かつての単純なクロック競争から、競争は次の段階に移ったことは間違いない。64ビットプロセッサの投入によってAMDが再び明るく輝くとき、インテルも含めIT市場全体が活気づく、そのような思いを持たせてくれたキーノートだった。

関連リンク
▼COMDEX/Fall 2002 レポート
▼COMDEX/Fall 2002
▼米AMD
▼米ギブソンギター

[佐々木千之,ITmedia]