エンタープライズ:コラム 2003/02/24 22:39:00 更新


Gartner Column:第80回 電子自治体市場のベンダー、イメージではIBMが躍進

政府や自治体システム市場は、大手国内ベンダーによって牛耳られているが、日本IBMが大幅なイメージアップに成功している。その背景には、市区町村向けに改良を加えた「Domino City」というグループウェアの販売開始もあるようだ。

 政府や自治体システム市場は、富士通、NEC、日立製作所といった大手国内ベンダー3社によって牛耳られている。しかし、電子自治体システム市場でも全く同じ状況が続くのであろうか? 前回紹介した新電子自治体共同研究会の調査(Gartner Column:第78回 電子自治体システムのアウトソーシング需要はどのくらい?参照)では、この市場における日本アイ・ビー・エムの地位が大きく向上しつつあるという結果が出ている。

 電子政府市場では、e-Japan計画の下に、大きなプロジェクトの大半は受注メーカーが決まっており、この市場で今後シェアが大きく変わることは想像し難い。地方自治体のシステム市場でも、今まではほとんどが富士通、NEC、日立、NTTなど大手日本ベンダー、あるいは株式会社電算やTKCなど地域密着型、あるいは特定業務(この場合は会計)に特化したベンダーに牛耳られてきた。

 しかし、今後の電子自治体システムの市場では、合併問題や、そのときに生じるシステム統合にかかわる問題、さらに既存の自治体システムにない新しい技術が必要なシステム(電子投票や電子納税システムなど)の導入など、まだまだ不確定要素が多い。Linuxに代表されるアーキテクチャや機能の統一化の問題も存在する。

 しかも、電子自治体システムの購入者選定基準に関する調査で、最も重要度が高かったのは「ベンダーの保守サポート力」や「システム製品の性能・信頼性・操作性」「自治体の抱える問題の解決力」であり、一方、最も重要度が低かったのは「これまでの取引実績」や「地域密着ディーラーであること」であった。

 アウトソーサーの選定基準でも、重要度が高かったのは「セキュリティ技術」や「サービスの質・信頼性」であり、低かったのは「これまでの取引関係」や「地元企業であること」であった。

 このような状況を考えると、電子自治体システム市場に新規ベンダーが入り込む余地はまだまだ大きいといっていい。既存の取引がうまくいっているからといって、あぐらをかいているベンダーはすぐに引きずり降ろされるであろう。

 図は、電子自治体と聞いてイメージするベンダーを5社まで記入してもらった調査結果であり、2001年と2002年の結果を比較している。ベンダーの順位は、自治体のベンダーに対する意識にどのような変化があったかを示していることと同義だ。どちらにおいても、まだまだ富士通、NEC、日立を選ぶ自治体は圧倒的に多い。

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 しかし、ここで注目すべきなのは、2002年の調査では4位にIBMが入っていることだ。しかも東芝やNTTを抜いている。2001年度の調査では、IBMはなんとか10位に入ったという選択率であったので、この1年で大きな飛躍である。

 この電子自治体システムのベンダーとしての大幅なイメージアップは何に起因するのだろうか? 確かにIBMは電子自体市場に力を入れている様子はうかがえるものの、ほかのベンダー(マイクロソフト、オラクル、ユニシスなど)と比べて際立った力の入れ方をしているようには見えない。

 1つには、行政電子窓口基盤ソフト製品(アプリポータル)のライセンス供与とソフト開発に関する日立との提携も影響しているだろう。またサーバ製品の多くを日立はIBMから購入しており、日立を経由してIBM製品が多く出回っていることも考えられる。

 そして、IBMは、日本の多くのベンダーがこの不景気で業績を大きく落とす中で、比較的健全性を保っており、これも自治体から見れば好印象をもたらすであろう。国内ベンダーが自ら相対的に地位を落としているとも言える。

 さらに、最も大きな理由として考えられるのは、ロータス製品である。日本IBMは今年8月、市区町村向けに改良を加えた「Domino City」というグループウェアの販売を始めた。実際、購入予定のグループウェア製品を調査した結果では、Lotus Notes/Dominoが、国産ベンダーの富士通のTeamWareやNECのStarOfficeを大きく上回るシェアを獲得している。

 ベンダーにとって電子自治体システム市場に参入することは、地域の民間企業のシステム市場にも入りやすくなるし、システムを通じた住民との接点によって新しいビジネスにつなげられる可能性もある。

 そのため、既にこの市場で高いシェアを持つベンダーはよりシェアを高めようとしており、また、現時点ではシェアの低い大手外資系のベンダーも電子自治体市場での主導権をつかもうと躍起になっている。多くのベンダーが、飽和状態になりつつある大手民間企業や国のシステム市場でなく、まだ開拓の余地がある地方電子自治体市場、さらに地方の中小企業のシステム市場に参入し、自らのビジネスを拡大しようとしているのだ。

 アウトソーサーの選定基準や、システムの購入者選定基準で、「過去の取引関係」や「地域密着であること」に対する重要性が非常に低くなっている今、既存のベンダーも意識を変えなければならない。今は、強いものや大きいものが勝つ時代でなく、変化に柔軟に対応できるものが勝つ時代である。

[片山博之,ガートナージャパン]