エンタープライズ:ニュース 2003/03/14 22:21:00 更新


MSN MessengerとWindows Messenger、どっちがどっち?

3月14日、マイクロソフトは東京・新宿のオフィスで、インスタントメッセージング(IM)の現状と今後の戦略に関するプレス向け説明会を開催した。IM市場は特にエンタープライズ向けにニーズの高まりを見せており、同社がこれについて今後どのように取り組んでいくかは注目されるところ。国内では初めてIMサービスについて系統立てて説明される機会となった。

マイクロソフトの2つのIMサービス

 現在、マイクロソフトが提供しているインスタントメッセージングサービスとしては、「MSN Messenger」と「Windows Messenger」が一般的に知られている。前者のクライアントソフトはMSNのWebページからダウンロードして誰でも無料で利用でき、後者はWindows XPに標準搭載されている。.NET Passportなどのアカウントをあらかじめ取得しておき、これらのクライアントアプリケーションからマイクロソフトの.NET Serviceサーバにサインインすれば、他のユーザーとリアルタイムなコミュニケーションが行える。クライアントアプリケーションについてはこのほかに、「MSN Messenger for Mac」や「MSN Messenger for Pocket PC 2002/Smartphone 2002」といった製品もある。それぞれ、Mac OSの持つ雰囲気を踏襲したインタフェース(残念ながら現在のところビデオや音声を利用する機能はない)、モバイルデバイスの限られたメモリ容量の中で必要最小限の機能を持たせるなど、用意されている機能に微細な違いはあるものの、さまざまなデバイスでIMが利用できるようになっている。

 以上が、現在のマイクロソフトのIMサービスを整理したものだ。サービスの具体的な内容については、テキストベースのチャット、ビデオや音声でのチャット、ファイルの送受信、アプリケーションの共有、ホワイトボードなど多岐にわたっている。クライアントアプリケーションではコミュニケーションしたい相手の在席状況(プレゼンス)が把握でき、通信可能な相手とのみやり取りを行うことができる。これらは、MSN MessengerとWindows Messengerとの間でほぼ共通の機能だ。

MSN MessengerとWindows Messengerの相違点は?

 では、MSN MessengerとWindows Messengerの相違点は何なのだろうか。

 マイクロソフト 製品マーケティング本部 Windows製品部 クライアントグループのプロダクトマネージャー 佐藤秀一氏によると、現在国内のMSN/Windows Messengerのユーザー数は280万人あまりで(2003年1月時点)、AOLやYahoo!、ICQのIMサービスを利用しているユーザーの総数よりも数字の上では勝っている。一方、世界全体では企業ユーザーだけを見ても約2億人、2006年までには5億人にまで増加する見込みとなっている。このため、エンタープライズ分野に向けたIMシステムの重要性、必要性が出てくるわけだ。

 ただし、現在のIMサービスをそのままエンタープライズに適用するにはいくつかの問題がある。まず、セキュアな通信環境を確保できないこと。それから管理性に乏しいこと。そして業務アプリケーションと連携できる仕組みがないことなどである。事実マイクロソフトによれば、IMに関する実態調査で30%の企業はIMトラフィックをブロックしているという結果が出ている。一般的にはIMは戦略的なツールとしては認識されていないのが現状だ。

 しかしながら、現時点でこのようなニーズを満たした製品として、Exchangeサーバを運用している企業内で利用される「Exchange IM」がある。だが、これにも弱点がある。それは、ファイアウォール内側でしかメッセージのやり取りを行えないことだ。

 こういった問題をクリアにすべく、企業向けのIMサービスの切り札としてマイクロソフトがリリースを予定している製品が「RTC Server(コードネーム:Greenwich)」である。これはセキュアで管理性の高いIMを提供するサーバコンポーネントとして、Windows Server 2003のアドオンサービスの形態で2003年第2四半期あるいは第3四半期にリリースされる予定となっている。このコンポーネントによって付加されるのが、エンタープライズIMソリューションとリアルタイムコミュニケーションプラットフォームという2つの性格だ。そして、これに利用されるクライアントアプリケーションが、Windows Messengerである。リアルタイムデータ通信に適したプロトコルであるSIP(Session Initiation Protocol)をサポートし、かつ公開されたAPIを利用することで企業内システムに合わせてカスタマイズが可能という点が、この用途に適しているからだ。つまり、Windows Messengerは今後、エンタープライズ向けという性格付けを強めていくクライアントアプリケーションとなる。

コンシューマー向けサービスと連携するMSN Messenger

 一方のMSN Messengerは、その名のとおりマイクロソフトのポータルサービスであるMSNとの連携をより強化していく方向性が与えられる。最大15人での複数会話機能(Windows Messengerでは最大5人まで)、VoIPを利用した一般電話との通話機能(プロバイダサービスもMSNが行うことになり、今後のバージョンのWindows Messengerからはこの機能が削除される)、UPnPなどの仕組みを必要としないWebcam機能、MSNポータルからトピックを抽出して配信する「MSNトゥデイ」、いろいろな情報をユーザーにリアルタイムに知らせる「MSN Alert」など、さまざまな機能がMSNと連携しながら実現される。中でもMSN Alertは、パートナーからのリアルタイム情報通知サービスとして、例えば証券・株価情報などの即時性の強い情報配信の方法として利用されるもので、ビジネスへの応用も考えられている。さらにこれらの機能はアドイン方式により、あとから追加していくこともできる。

そして第3のIMサービスが……

 MSN MessengerとWindows Messengerは、現在のところどちらも.NET Passportアカウント認証と.NET Messengerサービスへの接続をサポートしてるため、これだけを利用してる限りにおいては差異がないように思いがちだ。だが、これまで説明したとおり、MSN Messengerはコンシューマー寄りの機能を備え、そしてWindows Messengerはエンタープライズにターゲットした製品となり、今後のバージョンにおいてそれぞれ差別化が進められるようだ。

 最後だがここで留意しておくべきは、マイクロソフトがすでに米国において若年層をターゲットにしたP2Pグループ型のIMサービスである「3°(threedegrees:スリーディグリーズ)」の公開ベータテストを行っていることだ(国内では未発表)。このサービスは、若者を中心としたグループコミュニケーションを好むユーザーに、チャットやファイル共有といった機能を提供するもの。これがどのようなビジネスモデルへ発展するかといったビジョンについてはまだ何も提示されていないが、IMおよびP2Pの可能性を広げるものとして注目されている。

 このサービスについて、説明会では触れられなかったのが気になった。ただ、このサービスは最初のベータテストの段階でもあり、方向性が模索されている段階なのかもしれない。何しろ若者という、同社としては初めてのターゲット層に向けた製品なのだ。ともあれ、このサービスがマイクロソフトのIM戦略の中でどのような位置付けに置かれるのかは実に興味深い。

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▼3°公式サイト

[柿沼雄一郎,ITmedia]