エンタープライズ:インタビュー 2003/04/26 17:17:00 更新


Interview:より良いストレージシステム実現のポイントは「適材適所」

いったいどうすれば、コスト効率のよいストレージシステムを実現できるのだろうか。JDSFの池田祥孝氏は、これまでの資産や用途などを踏まえたうえでの使い分けがカギだと述べている。

 企業にとってデータは非常に重要であり、適切に保護すべきである、という指摘はたびたびなされる。しかし、具体的に何を用いてどう運用すればいいのかとなると、まだまだ現場での模索が続いているのが現状だ。

 JDSF(Japan Data Storage Forum)は、あくまで中立的な立場から、質の高いストレージソリューションの実現を目的として設立された国内最大のストレージ関連団体だ。徐々にストレージが注目を集め始めた1997年に設立され、2003年4月時点で92社が参加するまでになっている。国内で開催されるストレージ関連の展示会を積極的に支援し、セミナーを開催するほか、ストレージ・ネットワーク・システムの検証といった作業にも取り組んでいる。

 このうちデータ・バックアップ・ソリューション部会は、名称のとおり、より良いバックアップソリューションを作り上げることを目的に活動してきた。かつてのホスト中心型の世界では、優れたシステム管理者の仕事はホストやサーバの担当であり、ストレージ、すなわちバックアップの担当者は第一線ではないという雰囲気があったという。同部会ではそうした空気を一掃すると共に、大事なデータを格納するストレージを中心にシステムを構築していく「ストレージ・セントリック」の時代に備え、さまざまな情報交換を行っている。その成果は、昨年出版された「SEのためのバックアップ&リストア」という書籍に結実した。この本では、テープドライブやライブラリといったデバイスを網羅するとともに、バックアップの運用やノウハウがまとめられている。

 JDSF副理事長兼データ・バックアップ・ソリューション部会 部会長であり、この本の取りまとめの中心ともなった池田祥孝氏(CTC SP 技術本部ソリューション推進部)と、同部会の会員であり、NET&COM 2003で行われたパネルディスカッション「ストレージとしてのテープ装置の現状と未来」にも参加した、日本ストレージ・テクノロジーの吉岡雄氏(マーケティング本部 プロダクトマーケティング部 Tapeシニアスペシャリスト)に、バックアップ作業の問題点と解決策について聞いた。

ZDNet 企業にとって、ストレージ運用における愁眉の課題とは何だと考えますか?

池田 バックアップすべきデータの量が増加し、時間との追いかけっこになっていることでしょう。いわゆるバックアップウィンドウの問題です。例えば、あるデータのバックアップに1週間もかかるような状況ですと、クラッシュしたときには一週間前の状態にしか戻すことができません。直近の状態には戻せないのです。そこで、いざというときに、直近のデータへいかに確実に、すばやく戻せるかが課題になると思います。そのためには、バックアップ装置や伝送メディア、ホストといった各要素が今のままでいいのかどうか、検討する必要があるでしょう。ですがわれわれがまとめた本が出るまでは、その検討に当たっては、ほとんどが独自に試行錯誤を重ねるか、あるいは出入りのインテグレータのお勧めに従うしかないという状況でした。

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JDSFの池田氏。環境や用途に応じた使い分けが大事だと述べる。

吉岡 これまでは、データの大事さは分かっていても、どうしても管理者の頭はサーバに向かいがちだったと思います。その背景には、バックアップ、特にストレージに関する知識がまだ少なく、なかなか理解されなかったという状況があるでしょう。また理由の1つとして、ディスクの価格が大幅に低下したこともあると思います。その結果、これを大量に使えばいいじゃないか、テープの役割は終わったのだ、という誤解が生まれたように思います。この誤解を払拭しようとしたのが、例の本の役割の1つだったわけです。

 テープにしてもディスクにしても、あるいは他のストレージにしても、あらゆる場所に100%適用できるようなものは存在しません。環境やアプリケーションに合わせ、それぞれ適切にポジショニングしていくことが大事です。そして、容量やスピード、コストを考えると、テープは依然としてバックアップ分野において強力な手段です。大事なことは、状況に応じて適切なストレージを見出し、トータルコストにおけるメリットを出していくことです。

池田 エンタープライズのバックアップをすべてディスクで賄えるという考え方は、やや違うように思います。今やバックアップの対象となるデータの容量は、数TB、ときには数十TBにも上ります。ディスクを用いて、これだけの容量を安定的に、しかも低コストでバックアップするのは難しいことです。ディスクは確かに安くなりましたが、実際には、バックアップ対象の2〜3倍の容量を用意する必要がありますし、RAIDコントローラなどをつけ、システムとして組み上げていくと結局は高価になるという指摘が、NET&COM 2003で行われたパネルディスカッションでもありました。こうした部分を冷静に見て、取捨選択すべきだと考えています。

吉岡 ディスクが悪いというわけではなりません。ただし、コストや信頼性を考えるとテープのほうが優れている場合もあります。テープについてはいろいろと欠点が指摘されていますが、メリットもあるのです。そこを知ってもらえればと思います。何より大事なことは、顧客の環境にはどういった装置が適しており、どうすれば最もコスト効率が良くなるのかということです。

ZDNet ではディスクとテープは、具体的にはどう使い分けるべきなのでしょう?

池田 例えば、多くの社員がノートパソコンを用い、しかも頻繁に出入りするような環境を考えてみてください。こうした状況でバックアップを行いたいと思っても、どの端末がいつオフィスにあるのかが分かりませんから、運用面で破綻するはずです。こうした際には、ユーザーが好きなときにネットワーク経由でデータをディスクに保存する、あるいはバックグラウンドで保存するといった方法が望ましいでしょう。そして、ある程度データが蓄積されれば、一定期間ごとにそれをテープにアーカイブするという手法が挙げられます。

ZDNet それぞれの長所を生かした、いわゆるステージングですね。

吉岡 ディスクにバックアップを取ったからパーフェクトかというと、そうともいえません。例えば、オンラインである以上、何らかの形で破壊されるというリスクが付きまといます。これに対してテープの場合、安価なだけでなく、取り外し、オフラインで保存できるという特徴があります。これを活用すれば、ディザスタリカバリへとシステムを発展させることも可能ですね。

ZDNet しかし、テープには速度が遅いという印象がありますが。

吉岡 一口にテープといっても、エントリレベルからミッドレンジ、ハイエンドまでいろいろな種類があります。ミットレンジクラスの「SuperDLT 320」では転送速度が毎秒16MB、「LTO Ultrium 2」では毎秒32MBとなっており、ハードディスクに負けないレベルです。もともと、カタログに表示された速度と実際の速度とでは違いがありますから。また、データへアクセスするまでのシーク時間ですが、これはやはりMOなどに比べると遅いのですが、ひとたびアクセスが始まればディスクに匹敵する速度がでます。今後もさらに高速化が進む見込みです。

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「テープはまだ死んでいない。用途に応じてうまく組み合わせるべき」という吉岡氏

池田 現場での経験から言うと、「テープが遅い」と指摘を受け、実際にシステムを見てみると、実はテープ以外のところに原因があることが多いのです。ディスクやネットワークが低速でボトルネックになっていたり、ディレクトリ階層が深く掘られすぎていてCPUに負荷がかかっていたりといった具合で、テープにしてもディスクにしてもカタログどおりにはいきません。

ZDNet 今、テープストレージの分野ではどういった開発がなされているのでしょう?

吉岡 ハードディスクと同じで、面密度を高めて容量を増やす方向で開発が進んでいます。いろいろな技術があるのですが、例えばデータ変調復調方式をRLL(Run Length Limited)からPRML(Partial Response Maximum Likelihood)主体にしたり、リード・ヘッドの主流がMR(Magneto Resistive)になったり、トラックについてはサーボトラッキング精度を高めて密度を高めたりといった具合です。テープの役割は終わったわけではありません。まだまだいろいろな技術革新が進んでいるのです。テープ走行速度は、耐久性とのバランスを見ながら高速化が進んでいますし、インタフェースも、従来のパラレルSCSI(Ultra 2 SCSI)からUltra160 SCSIやファイバチャネルへと移行しつつあります。今後出てくる新しい世代のテープメディアでは、カートリッジあたりの容量は500GB〜1GB、転送速度も百MB以上という具合に、ハイパフォーマンス化が進む計画です。ただし、下位互換性は確保していきます。これはデータバックアップの命でもありますから。

ZDNet では、そういった要素を踏まえたうえで、効果的なストレージソリューション構築のポイントを教えてください。

池田 しばしば、いったいどの技術、どのデバイスを使えばいいのかと聞かれるのですが、私としてはこれまでの歴史や説明を説明した上で、ユーザーに選択してもらっています。市場としてみれば、さまざまな技術があり、それが互いに切磋琢磨するほうがいいですよね。ニュートラルな視点から、これまでの資産や用途などを踏まえてドライブやフォーマットを使い分けていくべきだと思います。

吉岡 テープの世界はまだ一般に理解されていない部分がありますから、今後のテープ技術はどうなるのか、またどういった用途で便利に使えるのか、どのような使い方がいいのかといった事柄をきちんと伝えていきたいと思っています。

池田 バックアップとつながる考え方に、「階層管理」というものがあります。かつてメインフレームが主に使われていたころは、ディスクは貴重な資源でしたから、必要なときだけデータを落としてきて使う、という運用をしていました。この場合、データを利用するのに、どこにあるのかを意識する必要はありません。当初は資源とコストの節約という目的で生まれた階層管理ですが、今では、膨大なデータを有効に管理する上で役立つ手法になっています。

吉岡 ストレージテックはこれを、「インフォメーション・ライフサイクル管理(ILM)」という形で提唱しています。ITへの投資は削減傾向にあります。無尽蔵にストレージにお金をかけることはできません。データの中には、あまり頻繁に使われない、参照されないデータもあれば、一方で頻繁にアクセスされるデータもあるというのに、それらをひとまとめにディスクに置いておくのはもったいないことです。そこでやはり、階層管理という考え方が浮上してきます。データの性質に応じて、より安価なニアラインアーカイブに保存するなどすれば、コスト効率に優れたストレージシステムを実現できます。

池田 かつて階層管理というのは、研究機関での実験などで用いられていたのですが、これからはメールや医療など、幅広いエリアで活用されつつあるようです。

吉岡 また、ネットワークインフラが整った今、いわゆる「ミニ倉庫」のようなサービスが安い価格で登場してくるかもしれません。ネットワークの先にある「倉庫」は、テープでもディスクでも何でもいいのですが、そこに大事なデータを入れておき、ブロードバンドで接続するというモデルですね。ただ、これを安いコストで実現しようとすると、ディスクだけではうまくできないはずで、適材適所でストレージを組み合わせることが大事だと思います。

池田 そもそも私は「データをちゃんと管理していますか?」「バックアップは取っていないんですか?」と脅すようなやり方は好きじゃないんです。うまくデータを活用しようという前向きな明るいノリで、自発的にバックアップやストレージを導入していく形になればと思っています。

 それから、コストに余裕があれば、バックアップツールだけでなく管理ツールを組み合わせて運用するのがいいと思います。ログを見て、いちいちバックアップを取り直すといった運用では面倒です。管理ツールのスケジューラやスクリプトをうまく組み合わせると、楽に運用できると思います。

 もう1つ大事なのは、リストア作業のシナリオを立てて、それに沿って予行演習をしておくことです。一般にバックアップというと、データだけをバックアップしてリモートサイトに置いておいたりするのですが、いざリストアを行う際にはドライバソフトやアプリケーションなども必要になります。これら一式を整備しておくとともに、あらかじめリストア手順を練習しておくべきでしょう。

 というのも、バックアップはたいてい自動的に取られます。これに対し、リストアが必要な事態というのは、たいがいはパニックに陥っているときです。予行練習なしには、こうした状況での的確な作業は難しいと思います。ビジネス継続性の観点からも、優先順位や緊急度を踏まえてどうリストアを進めるかをあらかじめ考えておくべきでしょう。合わせて、会社の中で、誰がどういった役割を担うのかを明確にし、周知しておくべきです。大事なのは人であり、組織的な手順なのですから。

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[高橋睦美,ITmedia]