エンタープライズ:ニュース 2003/05/25 22:44:00 更新


東京大学の片平教授、「強いブランドはデータ分析でつくる」

SPSSが行った「SPSS Data Mining Day 2003」のキーノートで、東京大学の片平秀貴教授が講演し、消費者から寄せられる声をデータマイニングによって分析し、マーケティング戦略に生かすことで、ブランド価値の向上を実現できることが紹介された。

 SPSSが5月23日に行った「SPSS Data Mining Day 2003」のキーノートで、東京大学経済学部の片平秀貴教授が講演し、企業にとってのブランド価値の重要性を改めて強調した。そして、消費者から寄せられる声をデータマイニングによって分析し、マーケティング戦略に生かすことで、ブランド価値向上を実現できることが説明されている。

 片平氏は「ブランドとはすなわち、消費者の脳細胞についた傷のようなもので、一度ついたらなかなか消えるものではない」と話す。消費者には、ある特定のロゴマークが製品に印刷されているだけで、通常では考えられないくらいのお金を「笑顔で」支払うことがあり、それがブランドの力だとしている。

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米ペンシルベニア大ウォートン校、カリフォルニア大バークレイ校の客員教授なども歴任した片平氏

 企業のブランド戦略では、自社の顧客の脳にどう「傷」をつけるかがテーマになるという。

「もうメルセデスにしか乗れません」

 同氏は、自動車メーカーのメルセデスベンツのブランド力の強さを、トラックの追突事故にも無傷で生還したユーザーが事故直後に言ったというこの言葉で示した。

 人の頭の中のブランド力は、「ブランド体験の長期記憶」によって形成されるという。そして、ブランド体験の長期記憶は次の式で求められる。

長期記憶=(短期記憶×感情的起伏)×反復

 短期記憶は「〜はすごい」、感情的起伏とは「〜さんありがとう」といった経験だ。反復する必要があるため、ブランド戦略は一発勝負は避けるべきだという。ブランド力強化が進むサイクルを作り、組織的に行うことが重要になる。顧客の感激、口コミ・評判、潜在顧客への知名度・関心のアップ、購入・体験、そして元に戻って、顧客の感激、、、というサイクルをいかに作るかがポイントになるとしている。

 同氏は、ブランドを創るということを、「革新し続けること」「基本哲学を守ること」「刻印すること」の3つにまとめた。刻印することの例としては、ソニーの「It's a SONY」という企業コピーを例に挙げている。

ブランドを形成する仕組み

 同氏は、ブランド力を育てるためには、「夢を生み続ける仕組み」が重要とする。そして、企業のさまざまな人の言葉を引き合いに出し、「自分がほしいものをつくる」ことが大切としている。例えば、フォーシーズンズのCEO、イザドア・シャープ氏は2001年8月6日の日本経済新聞で、「私はホテル業者としてより、ホテルを客として見てきた。(中略)自分がされたいように人にせよ」と話しているという。そのほか紹介されたのは下記。

  • 「自分たちが欲しいものだけをつくってきた」(ソニーマーケティング 河野透氏)
  • 「ステップワゴンは私が家族と乗りたい車」(ホンダ技術研究所 竹村宏氏)
  • 「コペンは私が欲しいからつくった」(ダイハツ工業 石崎弘文氏)

 さらに、進化する夢の根本に、哲学が存在しなくてはならず、その上で、自分の体験と顧客からの学習を通して夢を進化させるべきとしている。例えばメルセデスベンツの哲学は、「車を発明してしまった者の責任」であり、自分の体験と顧客の声を通して、シートベルト、ABS、エアバックなど、製品にフィードバックしていったという。

データをどうブランドづくりに役立てるか

 最後に片平氏は、電子メールなど顧客からの声をテキストマイニングで分析する、SPSSのイベントであることと同期を取るように、「データをどうブランドつくりに役立てるか」を説明した。

 ポイントは「ブランド育成努力の成果をはかる」ことと、「顧客から学ぶ」ことの2つ。

 データによって、ブランドファンの人数および、増えているのか減っているのかの判断ができる。さらに、ファンはどんな人なのか、ファンにとってブランドはどんな存在かなど、ブランドの状態をチェックするにはデータを分析するのが最適だからだ。

 さらに、ブランドファンの抱えている問題などを調べることで、ブランド価値をさらに向上するための情報を得ることができるとしている。同イベントでは、ユーザーの生の声を企業のマーケティング戦略における重要情報として吸い上げるためのソリューションとして、SPSSの製品が紹介されている。

関連リンク
▼SPSS Data Mining Day 2003レポート
▼SPSSジャパン

[怒賀新也,ITmedia]