エンタープライズ:ケーススタディ 2003/05/26 20:29:00 更新


Case Study:Clementineによる顧客プロファイリングでビジネスを拡大するTSUTAYA

SPSS Data Mining Day 2003で、カルチュア・コンビニエンス・クラブ TSUTAYA総合研究所 所長である宮崇氏が、SPSSのClementineを利用して構築した「TSUTAYAの顧客プロファイリング」について紹介した。

 カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開する、ビデオ、DVD、CD、書籍、ゲームソフトなど、各種エンターテインメントソフトのレンタルおよび販売店チェーンである「TSUTAYA」。現在、全国に約1000店舗、有効会員数1800万人を有し、2001年にはレンタルで1248億円、CD/DVD販売で670億円という、業界ナンバーワンの売り上げを実現したという。

 このTSUTAYAの地位を築けた理由の1つは、毎日本部に集められる300万件のデータを基にしたマーケティングにあるという。TSUTAYAでは、SPSSのデータマイニングツール「Clementine」を利用することで、作品ごとに異なるレンタルクラスターや店舗ごとのクラスターを分析し、マーチャンダイジングに活用しているという。

 例えば、メディアによるクラスターの分析では、「ハリーポッター」のVHS字幕版、VHS吹き替え版、DVDで比べた場合、VHS字幕版は男女問わず若年層が、VHS吹き替え版は高年の女性が、DVDは若年の男性が多いという。宮氏は、「吹き替え版に高年の女性が多いのは、子供と一緒に借りて見るから、DVDに若年の男性が多いのは、やはり新しい機器に対する興味の高さからということが分析できる」と話す。

 また、店舗によるクラスターの分析では、三軒茶屋店(東京都)のように全国クラスターに近い店舗や、新宿店、渋谷店(東京都)のように20代の多い店舗、東香里(大阪府)のように年齢層の高い店舗など、さまざまな特性があるという。このようなメディアによるクラスターや店舗によるクラスターの特性にあわせたマーケティングを展開することで、TSUTAYAでは売り上げを大きく伸ばすことを可能にしたという。

 例えば、新宿TSUTAYAの「TSUTAYA onlineサービス」会員1万4000人のうち、期間限定の「旧作レンタル半額クーポン」を、5846通配信したところ、来店率で1.43倍、利用金額で1.59倍の販促効果があったという。宮氏は、「新宿TSUTAYAの全会員にクーポンを配信したと仮定すると、1人あたりの増収金額は177円、配信数1万4000通とすると、248万円の増収になる。この結果からも、今後はデータベースの活用がよりいっそう重要になる」と言う。

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講演したTSUTAYA総合研究所の所長、宮氏

 TSUTAYAでは現在、「誕生日クーポン」「レディースクーポン」「学割クーポン」など、店舗ごとの判断により、会員にクーポンを配信できる仕組みである個別オンライン販促システム「クリモル君」を約1000店舗に導入し、店舗個別のマーケティング展開を可能にしている。このシステムにより、「例えば、ある店舗の3カ月間来店がなかった会員にクーポンを配信することで、売り上げを大幅に向上できることも証明された」と宮氏は話している。

「今後は、データベースと地理情報システム(GIS)を組み合わせ、店舗を中心とした地域ごとの販売状況やサービス提供が可能な仕組みも実現していきたい」(宮氏)

女性誌と映像/サウンドレンタルの関係

 TSUTAYAではまた、雑誌不況といわれる中で、活発に創刊される女性誌と映像/サウンドレンタルとの関係についても分析を行っている。「売れている女性誌は、ターゲットとする女性をうまく捉えている」と宮氏。雑誌購買者の映像およびサウンドに対する属性を把握することで、より利用者の嗜好性にあったTSUTAYA独自のマーケティングが可能になるという。

 宮氏は、今回分析した女性誌の中でも特徴的だった「Olive」「non・no」「LUIRE」の3誌についての分析を紹介した。この3誌は、ターゲット年齢だけを見れば3誌とも10代後半〜20代前半をターゲットとしている。デモグラフィック属性だけで見れば同じ購買者層にみえる3誌だが、映像/サウンドの指向データを分析してみると雑誌ごとに異なるエンタメ消費嗜好が明らかになるという。

 例えば、乙女チックなOliveでは、「アメリ」「ショコラ」などのメルヘン作品が、流行を半歩先行くnon・noでは、「ハリーポッター」や「ブリジット・ジョーンズの日記」などの話題作が、クラブカルチャーをキーワードとするLUIREでは、「コヨーテアグリー」や「トレーディングデイ」などの黒人系作品が上位を占めているという。「もはやデモグラフィック属性のみでなく、サイコグラフィック(価値観、嗜好性、ライフスタイルなど)属性による顧客のプロファイリングやセグメンテーションが必要」と宮氏。

「行動データ(POSデータ)をもとに、嗜好性や基本的な価値観までをプロファイリングすることが重要。“顧客”をセグメントすることと“作品(商品)”をセグメントすることは等しいことだ」(宮氏)

 TSUTAYAでは、この考えをさらに発展させ、映画の嗜好性に基づくユーザーのセグメンテーションについても分析したという。同分析では、まずTSUTAYAモニター会員約1500人に対し「○○○な映画が好き/嫌い」という自由回答方式のアンケートを実施。回答された約7000の表現を集約し、「感動して泣ける」「ハッピーエンドの」「気持ち悪い」など、47の因子を設定した。

 次に、さまざまなジャンルの高回転レンタル作品やリトマス作品から約100作品を選別し、モニター会員に最大10作品ずつを提供し、47因子に対する4段階の評価を行ってもらったという。さらにモニター会員約5000人に、100作品における47因子に対する3段階の評価のアンケートを実施。それらの結果からクラスターを導き出したという。

 このアンケートから導き出されたのは、「アクション大好きお気軽カウチポテト」「幅広く何でも見るヘビーユーザー」「ドラマ・ラブストーリー大好き」「ハリウッド映画大好き」「ミニシアター大好き」「特に映画に関心はない」「世間の動きに追従型」「怖いものみたい」の8つのセグメント。同社では、この8つのセグメントのどこに自分が当てはまるかをチェックできる「映画タイプ判別スゴロク(簡易ベータ版)」も提供している。

 カルチュア・コンビニエンス・クラブ TSUTAYA総合研究所では、このようなSPSSのClementineを利用したデータ分析業務から得られたノウハウを活用することで、雑誌広告出稿時のプランニング支援や効果測定を行う「Magazine ONDBサービス」やTSUTAYA会員データベースとTSUTAYAネットワークを利用したマーケティング支援などを提供しているほか、TSUTAYA online会員向けアンケートのデータに基づいて企画されたリアルエンターテイメントマガジン「DATA WATCH」誌を、2003年5月22日に創刊している。

 ちなみに、DATA WATCH誌の創刊号の特集は、「女性ファッション誌 徹底分析 だれがこの雑誌を買っているのか?」。全国書店で販売されているという。

関連リンク
▼SPSS Data Mining Day 2003レポート
▼SPSSジャパン
▼カルチュア・コンビニエンス・クラブ
▼ツタヤオンライン
▼シー・シー・シーメディア

[山下竜大,ITmedia]