エンタープライズ:ニュース 2003/05/28 03:19:00 更新


SAP初のTechEd、サービス指向の異種システム間統合とポータルによる革新を目指す

SAPはR/3を中心としたソフトウェア製品群の導入担当エンジニア向けに、最新の技術情報を提供するカンファレンス「SAP TechEd」を2日間の予定で開催した。

 SAPは5月27日、同社のERPパッケージであるR/3を中心としたソフトウェア製品群の導入を担当するエンジニア向けに、最新の技術情報を提供するカンファレンス「SAP TechEd」を2日間の予定で開催した。システム的な連携に加え、顧客にフォーカスしたビジネスプロセスの統合を実現する新プラットフォーム「SAP NetWeaver」を中心に、R/3同士、さらには異種システムと円滑に統合していくことが最大のテーマになっている。なお、同イベントは今回が初開催となった。

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講演したクレップリン氏。ポータルやビジネス・インテリジェンスなど、ビジネスプロセス管理に関連する統合製品の責任者を務める。

 基調講演を務めたSAP AGジェネリック・ビジネス・ユニット・インテグレーションプラットフォームのシニアバイスプレジデント、クラウス・クレップリン氏は、「現在、企業のシステム投資の7〜8割が運用に費やされ、新規投資が出来ていない状況」と話す。

「IT予算をより革新的な技術開発に回してほしい」(クラウス氏)

 NetWeaverは、「人、情報、プロセスすべてを1つのプラットフォームに統合する」として3月に発表された。同社が考える統合は、ポータルによる利用価値の統合、マスターデータ管理およびデータウェアハウスによる情報の統合、EAI&BPMによる連携の3つに分かれる。

 システムとしては例えば、財務、人事、R&D、製造、調達など、業務ごとにバラバラに構築されたモジュール間を、「新製品開発」や「企業合併」といった企業横断的な動きに対応して、真ん中にハブを置くことでつなぎあわせるイメージになる。各モジュールがそれぞれ相互につながる場合よりも、接続の数をずっと減らし、システムの構造をシンプルにすることで、複雑性と統合コストが高いという問題を解消する。

 さらに、Webサービスを利用することで、R/3だけでなく、Oracle、Peoplesoft、レガシーなどの異種システムとも、既存の環境のまま統合することもポイントになっている。「既存の投資からより多くのバリューを得ることで、ROIを高めることができる」という。

インタフェースはポータル

 NetWeaverで、統合したシステムを利用するインタフェースはポータルになる。いわゆるEnterprise Information Portal(EIP)で言うポータルだ。ユーザーは、複数システムを統合することで得られた、自分に関連するさまざまな業務情報に、ポータルを通じてアクセスする。

 この日は、パソコンメーカーの在庫担当者のポータル上に、世界中の工場における、同社のハンドヘルド製品の出荷状況が表示されるというデモが行われた。

 シナリオは、アイルランドからの製品出荷が遅れていることで、ワールドワイドで同製品の需給状況が悪化しているというもの。ポータルを通じて調べてみると、アイルランドの工場が扱うパーツに欠陥があることが判明した。そこで、代替部品を探したところ、カナダの工場にほぼ同じ機能のパーツが見つかった。パーツ変更要請指示を出し、欠陥パーツと代替することで一件落着というものだった。

 重要なのは、在庫担当者のシステムが、アイルランドやカナダの工場などの異種システムと連携しており、それをポータルから簡単にチェックできるということ。設定では、カナダはSAPのR/3だったが、アイルランドはレガシーシステムであり、これをNetWeaverによって統合したことがポイントになる。

C/SからWebサービスを利用するESAへ

 同じく基調講演に立った同社のマーケティング本部長兼ソリューション本部長を務める玉木一郎氏は、NetWeaverによるシステム統合の考え方を「Enterprise Service Architecture」(ESA)というキーワードを使って説明した。

 ESAは既存システムにレイヤーをかぶせ、Webサービスを通じてシステム連携するアーキテクチャを指す。「これまで業務別に縦割りに構築されていたシステムを、業務横断的にリアルタイムに統合することで再構築する。今後すべてのSAPのソリューションはESAに基づいて開発される」と玉木氏は話している。また、Webサービスにおけるプラットフォームでは、J2EEおよびマイクロソフトの.NET環境と相互運用性を確保しているという。

NetWeaverを支えるSAPの製品群

 こうした同社のソリューション戦略を実現するための製品が、同カンファレンスでもセッションを設けて詳しく紹介されている。

 まず、異種・同種にかかわらず、システム間を統合するためのバスとしての役割を果たすのが、通称XIと呼ばれる「Exchange Infrastructure」だ。現在のXI 2.0は、SAP独自言語であるABAPではなく、JAVAベースで構築されていることが特徴。

 さらに、異種システム間で、同じ製品を異なるIDで管理している状態、つまり、マスターデータの不一致の問題を解消するツールとして、「Master Data Management」(MDM)も提供される。マスターデータの問題は、システムを統合する上で「最初に、真剣に取り組まなくてはならない課題」であることが、基調講演でも、その後のブレイクアウトセッションでも強調されている。

 いくら異種システム間を統合しても、同じ製品に違うコードが振られていては、データの2重管理や、発注ミスなどの問題が発生する可能性があるため、全体最適のシステムを目指すにはほど遠い状況に陥ってしまうからだ。

 また、ポータルについては、現状のSAP Enterprise Poratl 5.0の次のバージョンがまもなくリリースされる予定という。次のバージョンは、Javaベースになる予定で、ユニコードにも対応、日本語化もされるとしている。さらに、一般に仮想プロジェクトルームとも呼ばれる、ポータルにおける情報共有の仕組み「Collaboration Room」も提供する。

 玉木氏は、「ビジネスコンテンツとしてポータルをパッケージ利用できること」に、SAPが提供する価値があると話した。

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関連リンク
▼SAPジャパン

[怒賀新也,ITmedia]