エンタープライズ:ニュース | 2003/06/19 23:14:00 更新 |
VA Linuxセミナーで元Debianリーダー・ペレンス氏がインターネット独占を問題視 (1/2)
「民主主義のツール、インターネットを独占する権力を許してはならない」。元DebianGNU/Linux開発リーダー、ペレンス氏がVA Linux Systems ジャパンのセミナーで語る。
オープンソースの利用を推進するVA Linux Systems ジャパンは、6月19〜20日の2日間、東京・赤坂プリンスホテルにおいてテクニカルセミナー「VA Linux Business Forum 2003」を開催している。
同社は、「アレゲ」で有名な「/.J」(スラッシュドットジャパン)を始め、開発者支援の「SorceForge」、「OSDN Japan」、「japan.linux.com」など、コミュニティに根付くサイト運営をしていることで知られている。19日午前の会場模様は、オープンソースをビジネスに取り入れることに注目する参加者が多数集まった。中でも注目されたのは、基調講演で来日されたブルース・ペレンス(Bruce Perens)氏の講演だろう。同セミナーは、「Open Source,Infrastructure for Democracy」と題された基調講演で幕を開けた。VA Linux Systems ジャパンがペレンス氏を招いた狙いは、オープンソースの在り方を有数のキーマンからダイレクトなメッセージで知らしめたいとの意向からだ。
ペレンス氏は、87年よりピクサー・アニメーションスタジオで「トイ・ストーリー2」の制作指揮を行い、その傍らボランティア活動として97年まで「Debian Project」のリーダーとして活躍された人物。活動中には、「Debian社会契約」(Debian Social Contract)と呼ばれるドキュメント作成に携わり、これは今日のオープンソース定義の基となっているものだ。その後2000年12月には、Hewlett-Packard(HP)でLinux戦略アドバイザーとして迎えられ、2002年に退社されてからはオープンソースやLinuxの啓蒙活動に専念しているという。
ペレンス氏は講演の冒頭で、「いま世界では、テロリズムや反戦問題で飢餓に苦しむ人々が、基本的な人権を脅威にさらされている。一方で、GNUが保証するライセンス問題を問うなど、果たして重要なのだろうか」。そう、疑問を投げかける。「このような複雑な現代社会においては、オープンソースを理解するためには、いかに民主主義を見つめ直し考察することが重要だ」と語り始めた。
このコメントが象徴するように、講演は民主主義におけるインターネットの在り方がテーマとなった。
米国でのテロ事件についても触れ、「自称、民主主義国家で民主的なプロセスがうまく機能せず、戦争に巻き込まれてしまったことは驚きだ。アメリカを始めとする諸国のマスメディアが、分析批判する責務をまっとうできなかったことは明らかだ」と指摘する。
ペレンス氏の見解は深く、オープンソースと民主主義、そしてマスメディアと関わる論点を語る。「Debian社会契約」にあるフリーソフトウェアにおける「フリー」(自由)という解釈を再定義されたように、この印象的なコメントに通じるものばかりだ。
「戦争が正当化できようがなかろうが、放送メディアの責任は視聴者に考えさせることであり、チアリーダーのように騒ぐことではない。もしその役割が果たされており、ほかの文化圏がアメリカをどのように思っているのかが9月11日のテロ事件以前に伝わっていれば、事態は変わっていたかもしれない」とペレンス氏。
民主主義がインターネットの在り方へと結びつき、その独占が問題視される昨今、このような見解は、マスコミとしても再認識しておかなければならない。
マスメディアは権力に屈してはならない
さらにペレンス氏からは、「国民と政府の対話はマスコミに依存する。従来は世界の民主議会がごく少数のエリートに限定されていたが、一般市民が国家に関わるにはマスメディアが重要な存在となる」という。
マスメディアにおける第1世代の印刷メディアは、第2世代の放送メディアにとって代わり、第3世代がインターネットとして代わったのは明らかだ。現在では、Webを情報ソースとする人々が多くなっているのも事実。
slashdotなどは、コミュニティで成り立つニュースサイトとして模範となる一例だ。独占があってはこれほどまで発展せず、今後もそのような事態は避けなければならない。
「第2世代の放送メディアは、これまでも民主主義の鍵となるもの。今日のマスコミは、無線周波などに依存されており、これらの周波数帯が政府や小数の富裕層に握られては、正確であろうと無かろうと、与えられた情報を元に市民が判断をすることになる。だからこそ、いまインターネットが注目されている」と定義された。自由と叫ばれる一方では、著作権問題が報じられ続けるインターネットであるが、市民自らも判断を誤り、破滅へと導かないよう啓蒙として語られているのかもしれない。
「Webとは最も重要な民主主義のツール。だからこそ、Webやそれを可能とするソフトウェアは、本当の民主国家では保護されるべき宝物である」(ペレンス氏)
民主主義と資本主義を守り続けるために、インターネットという市民のチャンネルを維持し続けられるのだろうか? 昨今では暗雲が見え始めているのも事実。社会が今後も民主主義であり続けるためには、ペレンス氏が強調するように不当な独占を許してはならないだろう。
「独占は経済競争や民主主義の敵だ。インターネットは少数の手にあるのではなく、多数の手にあり続けなければならない」(ペレンス氏)
[木田佳克,ITmedia]