エンタープライズ:ニュース 2003/06/19 23:14:00 更新


VA Linuxセミナーで元Debianリーダー・ペレンス氏がインターネット独占を問題視 (2/2)

 同氏は、ピクサーのスタジオで活動されていた当時、スティーブ・ジョブズ氏との席が近く、たびたびオープンソースについての議論を交わしていたという。ジョブス氏曰く、「オープンソースでは優れたGUIが作れないだろう」と、興味を示していなかったという。優れたGUIとは、現在のMacOS デスクトップ、原形となったNEXTSTEP、そしてWindowsを指していたのだろう、とペレンス氏。しかし、ジョブス氏は数年後、MacWorld Expoの基調講演で自社のWebブラウザ開発にKDEとの協調が行われると表明し、オープンソースとの関わりが無視できないことを、自らで明らかとする。これは今日の「Safari」として形になり、MacOS X自体においてもFreeBSDとの協調で同様だ。

オープンソースはビジネスとして根付くのか

 オープンソースをビジネスに取り込みたいと考えた場合、経済面はどうなのだろうか? この点は多くの企業で模索される最も大きな論点だろう。そう、ペレンス氏は突く。しかし、IBMやサンを始めとする巨大なベンダーにおいてももはや論じる段階でないと思われ、ペレンス氏が思想するような対Windowsを超えた民主主義を守る論点からか、戦略を高らかと掲げる。両社にはJavaというキーワードがあるものの、オープンソースへの貢献物(ソフトウェア)が数多いため、一時的な見解でないことが考えられる。

 「しかし、協調を行っていくことは、例えばTシャツを着て対価が期待できない活動を続けることにならないのだろうか? そんな見解を持つ人は多いだろう」と、ペレンス氏は一方の視点をも汲む。

 現段階においても「成功の要であったのは事実だ」と言い、その成功とはLinuxの存在であり、これまでにMicrosoftと張り合おうとして失敗したベンダーが数多いことを挙げる。「同じ土俵では争えなかったからだ」。「Linuxにおける経済パラダイムの違い、そして顧客との共同作業を重視することで、Microsoftにおいて脅威と思われるほどの成功を収めたのだ」とペレンス氏。

 また、「オープンソースがビジネスになるわけがない。そう思う論点には、ソフトウェアに対する対価への誤解があるからだ」という。「企業において、ほとんどすべての社員はソフトウェアのユーザーであることに注目をしなければならない。自社で利用するために社内開発することもあるが、ソフトを販売しているという企業は割合としては少ない。本業のためにソフトを利用することがほとんどだろう」と、的確な視点で突く。

 ペレンス氏は、ピクサーで「トイ・ストーリー2」に携わっていた際、本業のために多数のソースコードを書きソフトウェア開発を行っていた。これによりピクサーは他社に真似ができないようなユニークな表現力を得たわけであり、ILMなどとの差別化となったわけだ。一方で、会社の差別化には至らなかったものもある、という。

 89年には、ペレンス氏の手で作られたソフトウェアをUsenetでソース公開したが、発表当初は性格柄か完全なドキュメンテーションを付けなかったという。しかし、その翌日にはまったく知らない第三者からの投稿(連絡)があり、自社で使うために完全なドキュメントを作成した、と内容が添えられていた。このドキュメントによって、ペレンス氏においても影響があり、ピクサー社内でより多くの人がツールの利用方法を理解してくれることにつながったという。

 この一例には、ペレンス氏における「開発者」であるというキーワードがあるものの、独占状態にあるソフトウェアではあり得ない出来事だろう。このようにソフトウェアを販売することを本業とはしていない人であっても、長い目で見れば効果が見えてくることが明らかだと見解される。

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ペレンス氏は徐々に顔を上げる時間が長くなった。シャッターチャンスは後半に


 また、オープンソースを語る上では「コントロール性」「市民性」「費用対効果」の3つがポイントになるともいう。

 「コントロール性の面としては、市販ソフトウェアに拡張を望む場合、往々にして必要としている機能が多数の人が必要としていることをアピールしなければならない」とペレンス氏。しかし、オープンソースとして公開されていれば、誰かが同じ意見を持つこと自体にもディスカッションが交わされ、マノリティにさえも協調の場は提供され、機転が利くと語る。

 市民性の見解では、ペレンス氏がHPでの出来事を語る。HP-UXを開発するHPでは、「Microsoftから発表されたUNIXを一掃するとのコメントを信じ、サーバ製品発表までの8年間を棒に振った。Microsoftの開発スケジュールを読み間違え、結果的にはSun Microsystemsに先を超されることになった」とペレンス氏。

 「オープンソースでは、ソースコードをコントロールするためのシステム、CVSなどを導入していることがほとんどだ。このため開発の最新状況は把握しやすく、企業における判断も容易になる。開発に直接関わらなくても、何らかの協力体制によって参加することが可能だろう」とペレンス氏。

 費用対効果の面では、「販売ソフトでは広告、店舗での販売マージンなど資金を開発面に注力することはできない。100円の価格としたら10円程度が開発に回るといった状況だろう。オープンソースを利用すれば、そっくりそのまま開発面に回ることになり、効率がよいわけだ」と語られた。

 視点を変え、オープンソースの車や米ができるのだろうか。そのようなユニークな見解も語られた。このようなケースは、「スタートレックに登場するような物体転送装置のような物が登場しない限り不可能だろう」、と会場を沸かせ、「米をコピーするためには、日光や土地、労力が必要であり、経済学的にいえば、オープンソースは競合性のない公共財といえる。一般的にはこのような公共財は経済にプラスとなるわけだ」とペレンス氏。

ブラウザ独占はインフラ独占よりも深刻

 「昨今のインターネットは、Webブラウザやインフラにおいても独占体制にあることが事実だ。インフラにおける電話会社による独占は、通信自体の内容をコントロールするわけでないため、それほど問題視することはない」という。IEによる独占は、業界標準であるべきものがそうではなく方向性をねじ曲げる方向に力が働いているとの見解だ。

 具体的に何が問題視されているかというと、Webブラウズを司るブラウザでは、信頼されるべき情報が、知らぬ間にユーザーの行為そのものさえを制限することができてしまうことだという。「認証(認可)されていないものは排除する方向にあるが、このような見解には往々にしてオフにすればよいのではないか? という対処策が返る。しかし、オフにすればブラウズそのものができないといった自体になってしまったり、そもそも認証されない島(サイト)ができてしまうことになりかねない」と、ペレンス氏。

 「Microsoftは、従来バージョンが互換性問題やサポート打ち切りにより使用に制限が伴うという展開で無理矢理に市場を広げてきた。Outlookがよい例であり、社内でExchange Serverを利用している際、膨大なクライアントがぶら下がっている場合には、ほかのサーバへと機能を継承しつつ替えることは不可能だ。これは、政府機関でも利用されることが多いため、結果的には税金増額へと結びつく悪巡回へ」とペレンス氏の考察はめぐる。

 企業においては、シンプルながら購買方針を変えればよいのだ、とも語る。「長期的な節約に重みをおけばよいのであり、短期間で判断であれば、キャンペーンなどと称した一時的なアピールに目を奪われてしまう」(ペレンス氏)


 Microsoftがコンピュータ界をけん引したいちばんの功績は、プロセッサのクロックを急激に引き上げることであり、ハードウェアベンダーをもリードさせたことかもしれない。Solaris、IRIXなどの商用UNIXは例外となるが、Linuxなどオープンソース界においては、これまではウィンドウシステムに重みが置かれていなかった。それは、インターネットサーバとして利用されることが大半であったことにあり、GUI(クライアント)での利用が軽視され続けてきたからだ。

 しかし昨今のOOo(OpenOffice.org)の展開、基幹におけるアプリケーションサーバによる必要性、そしてTCOが問題視され続けている風潮が追い風ともなり、レガシーユーザーにおいても地味ながらもコンパイルが速い……、などとプロセッサの高クロック化推進は着実と歩み続けるだろう。

 Windowsこそが、時代をけん引する覇者とは限定されない。

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[木田佳克,ITmedia]