エンタープライズ:ケーススタディ | 2003/07/02 21:26:00 更新 |
数少ない商用Webサービス「駅前探険倶楽部」、ASPで企業向け市場を目指す
実際のビジネスとしてWebサービスが展開されている例はまだ少ない。個人情報など特にクリティカルな情報を扱わないという特性を利用し、商用WebサービスをASPとして展開しているのが「駅前探険倶楽部」だ
Webサービスは、IBMをはじめとするいわゆるJava陣営と、.NETを掲げるマイクロソフトの2つの勢力に分かれ、ここ数年注目の的となってきたが、多くの場合技術的な側面を中心に語られることが多かった。確かに、セキュリティやトランザクション対応など、Webサービスにはまだ技術的に乗り越えるべき課題も存在しており、商用サービスとして提供されているものは少ない。
その中で、実際にWebサービスを使ってビジネスを展開している企業として、パソコンや携帯電話から終電情報などを提供する「駅前探険倶楽部」がよく知られている。東芝のプラットフォームソリューション事業で参事を務める舟城亮一氏によると、駅前探険倶楽部は元々東芝のPDAであるGenio向けのサービスとして始まったという。
ASPサービスの概念図。
その後、Genioの販売が不振になる一方で、同サービスは順調にユーザーを増やしたため、事業化が検討された。テキストベースであったこともあり、1999年2月22日にスタートしたiモードサービスの最初の参加企業67社の1つとなった。その後、黒字化のメドがたち、東芝が100%出資する形で、駅前探険倶楽部の社名で2003年1月15日に設立されることとなる。東芝における旅費精算システムとして採用された同サービスについて聞いた。
ASPサービスとして「駅探」を提供
駅前探険倶楽部には、パソコン版、携帯電話向け、ASPサービスの3つの提供形態がある。このうち、Webサービスを用いたASPサービスを、インターネット経由の企業向けサービスとして展開している。
同社のXML Webサービス担当リーダーである余語将成氏は、「業界初、唯一の試み。他社はCD-ROMによる提供がほとんど」として自信を見せる。XMLベースのWebサービスの最大のメリットである、疎結合によるシステム連携のしやすさを生かし、さまざまな企業の人事システムで交通費精算のツールとして採用されることを想定している。
利用企業は、社内のERPやポータルにおける交通費精算アプリケーションを、駅前探険倶楽部のWebサービスに置き換え、処理を委託することになる。駅前探険倶楽部側は、ASPとして運用するサーバ側のデータを、時刻表の変更などに対応してその都度更新する。
これにより、ユーザーは常に最新の情報を利用して、正確な旅費計算などを行うことができる。また、経理担当者は、提出された経費申請書の検算作業などを行わなくて済むわけだ。さらに、ASPのメリットとして、サーバのメンテナンスや管理業務を行う必要がなくなるという。
また、企業全体としては、従業員に最も低い運賃を案内し、さらに、転記ミスや2重請求などの事故を削減できるため、かなりのコストダウンを期待できる。
同社はERPと連動する交通旅費精算ソリューションを提供しており、コニカが採用している。特徴は、シングルサインオンにより、個々の従業員の定期券区間を考慮した運賃の案内が可能になること。
例えば、山手線で浜松町から新橋へ行き、新橋から銀座線で溜池山王に向かう場合に、もしユーザーが浜松町〜新橋間の定期券を所有していれば、検索結果は自動的に「浜松町〜新橋(定期券)0円、新橋〜溜池山王 160円」というように表示される。従業員は、定期券を考慮しながら検索する煩わしさから開放される。また、交通運賃が改定された場合も、過去2カ月の履歴情報を元にした検索ができる。
APIは単純
システム面から見た駅前探険倶楽部のAPIは非常にシンプルなもの。クライアントPCから入力された検索条件はSOAPリクエストとして、駅前探険倶楽部側の乗り換え案内SOAP-APIに届けられる。そして、乗り換え案内デーモン、時刻表や運賃情報を格納したデータベースを参照し、結果をXML文書としてSOAP Envelopeに包んで返している。
セキュリティ問題などは気になるところだが、余語氏は「インターネットを通る情報は駅名などの一般的な情報のみであるため、万が一ハッキングされたとしてもほとんど問題がない」と話す。確かに、個人情報などのクリティカルなデータを扱わないことが、いち早くWebサービスを商用利用できた理由の1つになったと言える。
そのため、UDDIを使って最適なサービスが動的に検索されるといった、Webサービスが本来期待されていたような形態はまだ登場していないようだ。
「東芝と駅前探険倶楽部は今では完全に別会社として営業を行っている」と話す舟城氏(左)と余語将成氏。
関連記事
トピックス:Webサービスの行方
ゆっくりだが着実に歩むWebサービス
より広範なWebサービス普及を狙いOASISが分散管理のための技術委員会を設置
Opinion:セキュリティ展望――Webサービスは信頼できるか?
Opinion:Webサービスは石橋を叩いて渡れ
アクセンチュア、Webサービスの開発プラットフォームをASPで提供
関連リンク
駅前探険倶楽部
イントラネット版「乗り換え案内ASPサービス」
[怒賀新也,ITmedia]