エンタープライズ:ニュース 2003/08/25 20:17:00 更新

Oracle vs. DB2――仁義なき戦い データベース編
第3回 調査会社への取材「ITR」──“OracleかDB2か”を尋ねる企業が増えている

昨年半ばから「OracleかDB2か」という質問を企業から受けることが多くなったと話すのは、ITRの内山氏。彼らは、ハイエンドシステムの分野でどちらがふさわしいかを考え始めているとみる。

 「うちではデータベースのシェアを調査する仕事は、もう行っていない」

 そう話すのは、アイ・ティ・アール(ITR)の内山悟志代表取締役。4年前ぐらいまでは定期的に調査していたのだが、もはやRDBMS単体そのものは着目すべき市場分野ではないと判断したからだそうだ。

 しかし、この製品が企業情報システム開発の中で重要なコンポーネントであることは変わりはなく、エンドユーザー企業のIT部門からデータベースに関して質問を受けることも多いという。

 興味深いことに、そこでの内容はここ2〜3年で大きく変わってきているという。かつての質問は「OracleとSQL Serverのどちらがよいか」というものがほとんどだったが、2002年半ばくらいを境に「OracleとDB2 Universal Databaseのどちらがよいか」という質問が増えているのだという。

 これはSQL Serverの人気が落ちているのではなく、エンドユーザー企業が自社内でこの製品をどう採用するかという見極めを終え、新たにハイエンドシステムの分野でOracleとDB2のどちらがふさわしいかを考え始めたことによるもの、と内山氏は分析している。

 市場でDB2の存在感が高めている大きな理由の一つは、「IBMがその気になったから」と同氏は考えている。今まではIBMにとってソフトウェアはハードウェアを販売を促進するための付属品という位置づけだったものが、サービス事業の比重を上げていく中でソフトウェアの重要性が再認識され、Tivoli、Lotusブランドの製品とともにDB2も積極的に販売していこうという機運が高まった。

 それに加えて同社のサービス事業が好調で、IBMがコンサルタントやシステムインテグレーターに選定されることによって、DB2が採用される比率が上がっている。またDB2の製品成熟度が増し、Oracleと同じ土俵に上げても機能的に著しい見劣りがしなくなったということもある。

 ただ、デフレ経済環境がDB2に味方しているという見方については、ITRもIDC Japanと同様に否定的だ。内山氏は次のように証言する。

 「システム投資費用の抑制ニーズは高まってはいることは事実、しかし、例えばJavaでゼロから作る業務アプリケーション構築で、ハードウェア、データベース、そしてシステム開発のコスト割合はざっくり言って1:1:3〜5。データベースの製品ライセンスが2〜3割上がっても、システム開発を合理的に行えば吸収できる。それはエンドユーザー企業もよく理解していると思う」

 しかし、DB2が市場で存在感を高めているからといって、この先このソフトウェアがOracleに肉薄するほどにマーケットシェアを上げるとは内山氏も考えていない。「最終的には、Oracle、SQL Server、そしてDB2の比率は、4:4:2ぐらいで落ちつくのではないか」というのが同氏の予想だ。

 IBMがシェア2割にとどまると考える根拠を問うと、「日本オラクルと日本IBMの販売網の差」と、ここでもIDC Japanと同様の答えが返ってきた。やはりエンドユーザー企業のIT部門と密接な関係を築いているハードウェアベンダーやシステムインテグレーターを、日本オラクルがより多くパートナーとして保持している数的優位はいかんともしがたいようだ。中でも特に、ハイエンド市場に強いパートナー企業の数の違いが大きいらしい。

 それでも、OracleとDB2のどちらがよいかと尋ねられる機会は増えているというのなら、それはどういう観点での質問なのだろうか。

 「要件定義が明確なシステム開発での製品選定では、答えはすぐに出る。漠然とどちらがよいかとエンドユーザー企業が聞くのは、どちらの製品を選んでおくと将来的に安心かという意味合いのことが多い」(内山氏)

 これに対する同氏の回答は、企業の安定度でいうならどちらを選んでも問題ない、というものだ。そしてそれ以上のアドバイスを求める顧客には、「あなたの会社にとってシステム開発にとって最も敬遠すべき問題は何か」で考えることを勧めるという。

 IBMを選べば、ハードウェアやソフトウェアのコンポーネントの多くをIBM製品が占めることになる。それが嫌だというならOracle。それよりも、データベースはOracleという市場の固定的な風潮が納得いかないというならDB2。IT業界に限ったことではないのかもしれないが、判官びいきというか、大きくなりすぎてしまった企業に対してはそれだけで反発が生じることがままある。

 これはマイクロソフトに対してもあって、結局エンドユーザー企業は、選択肢の少なさから、どのベンダーのどの製品が最もマシかといった消去法的な選択を余儀なくされているのかもしれない。

 ひるがえって、マーケットシェアという指標そのものについては、内山氏は「主流でない製品を選択しないために、これがあることは必要だが、その数字の詳細にとらわれるのはナンセンス」と話す。なぜなら、どんなに綿密に調査したところで真実をあぶりだすのは難しいから。同社が調査を止めてしまったのも、これが最も大きな理由だそうだ。

 最近はまた、マーケットシェアよりもエンドユーザー企業が重視する指標も登場しているという。調査会社がベンダーのビジョンや製品の先進性などを四象限にポジショニングし、市場における優位性を総合的に評価するガートナーの「マジック・クワドラント」(市場優位性評価表)がその一例だ。特に経営トップやCIO層にはこちらの方がアピールするようだ。

 もう1つ、ITRがより重要だと考えている指標がマインドシェアだ。これは大きく、最前線のエンジニアから獲得するものと、経営トップやCIO層から獲得するものの2つある。どちらに対するアプローチもないがしろにできないが、決定権を持っているという点において後者に対してより手厚いケアが必要で、ここで優れているのはIBMの方だという。彼らを避暑地や避寒地に招いて経営者向けセミナーを開催したり、IBM本社や日本IBMのエグゼクティブが経営トップを定期的に表敬訪問したりする。こうしたトップセールスで意外と案件が決まっていくことは想像にかたくない。一方、日本オラクルは間接販売方式を取っているため、こうした活動を精力的に展開するのは難しい。

 「しかし、今後は日本オラクルもこのようなトップセールスを進めていかないと、日本市場でエンドユーザー企業との間に本当に強固な信頼関係を結ぶのは難しいだろう」(内山氏)

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関連リンク
▼アイ・ティ・アール

[吉田育代,ITmedia]