エンタープライズ:ニュース 2003/08/29 20:23:00 更新


「ちょい乗り」感覚で。LindowsOS 4.0日本語版の船出

8月29日から3日間、秋葉原のソフマップ1号店で開催されるLindowsOS 4.0日本語版の発売開始記念イベントの初日はやや寂しい幕開けとなった。

 8月29日から3日間、LindowsOS 4.0日本語版の発売を記念し、発売開始記念イベントが東京・秋葉原のソフマップ1号店で開催される。

 初日となる29日は、電撃ネットワークの南部虎弾氏が登場し、「額くっつき気合男」(額に缶ビール・ジョッキなどをくっつける技)を披露し、イベントに華を添えていた。

南部虎弾氏

電撃ネットワークの南部氏と購入者


 LindowsOS 4.0日本語版は、Lindows.comが開発、販売しているDebian GNU/Linuxベースのコンシューマ向けOSにエッジが日本語化など手を加えたもの。2003年6月の発表後、β版のリリースを挟んで本日の発売へと至った。その発表時はそれなりに盛り上がっていたため、本日の発売がどの程度賑わうかと期待していたが、南部氏が去った後、足を止める人はそれほど多くなく、やや閑散とした印象を受けた。同店の店員に聞くと、開店後1時間ほどで10本程度が売れたという。ちなみに、同店における同OSの実勢価格は、通常版が5380円、PLUS版(後述のClick-N-Run1年間使用権が付属)が1万1980円となっている。また、31日までに同店で購入した場合、手持ちのPCへ無料でインストールを行なうサービスも開催中だ。

エッジの役割

 同会場にはエッジの社長室新規事業開発グループ LindowOSプロダクトマネージャである板井清司氏も来場しており、少しだけ話を聞くことができた。その中で、Lindowsにおけるエッジとしての役割に話が及ぶと、「ローカライズ」を第一に挙げた。板井氏によると、「単に日本語化だけをとってローカライズといっているわけではなく、地域的な特色を踏まえたうえで設定の調整を行っている」という。具体的には、「たとえば、日本ではコンシューマPCにもギガビットイーサネットが搭載されはじめているが、米国ではそれほど搭載されているわけではない。こうした違いについて、最適にOSを調整をしていくのもエッジの仕事」と語る。

 同氏は続けて、Lindowsの販売展望に関し、「現在のPC市場は飽和しているといわれるが、私は必ずしもそうではないと思っている。ハードとOSで数十万もするようなPCを購入するという決断はこの不景気な状況下では気軽にできないかもしれない。それがPCにはじめて触れようというユーザーならなおさらだ。しかし、数万円のPCであれば、決断のための敷居も下がり、流動性も向上するだろう。自作がブームとなっているのも、このあたりに起因するものが少しはあるはずだ。思うに、世の中の人すべてがスーパーカーを欲しているのではない。中には「ちょい乗り」できればよい車を求める人もいる。そここそが私たちのターゲットなのだ」と説明する。

 つまり、新たな価値観を提案することで、PC市場全体の拡大を図りつつ、シェアを獲得していこうというわけである。この新しい価値観というのは、この場合、機能的な革新を指すのではなく、その販売ターゲットやチャンネルの革新のことを指すといえる。

 なお、つい最近、同じLinuxディストリビューションの1つ「Turbolinux」が最新版の発表を行った際、Lindowsを強く意識した発言をしていたが、板井氏によると、「そもそもターゲットの考えが異なることもあり、こちらはほとんど意識していないのが実情。Lindowsが競合として考えるのはやはりWindows」と言い切る。返す刀で、「話題となっているLindowsを引き合いに出すことで、自らの話題性を高めるための手段だったのでは」と一笑に付していた。

Lindowsの普及に向けて

 同氏が語った「ちょい乗り」感覚でのLindows、これを普及させるためには、ある大前提が存在すると考えられる。つまり、LindowsOSのプリインストールPCの普及である。現在、一般的にPCを購入しようとした場合、たいていの場合はWindowsが標準でバンドルされることが多い。こうした状況でLindowsOSへの乗り換えを勧めるには、OSをWindowsから乗り換えるに十分な必然性を説く必要がある。仮にWindowsUpdateが有料になるのであれば話も若干変わってこようが、乗り換えをアピールしていくのはあまり容易でないように思える。そのため、LindowsOSがプリインストールされたPCがどこででも購入できるような状態になってはじめて、同氏のロジックが現実味を帯びてくるといえる。

 これは何もLindowsに特有の話ではなく、ほかのコンシューマ向けLinuxディストリビューションに関しても同様である。エッジは、すでにエムシージェイやぷらっとホームと協力し、LindowsOSプリインストールPCを提供していくことを発表しているが、こういった協力体制の拡大が必要となってくるであろう。

Lindowsの最大の特徴、Click-N-Runは必要?

 Lindowsの最大の特徴ともいえるClick-N-Runに関しても、気になる点がいくつか存在する。Click-N-Runは、1800種類以上のフリーソフトウェア(一部有料のものも含む)をGUI上から簡単にインストール・アップデートが可能なソフトウェア。

 Lindowsがはじめてリリースされた当時は、Lindowsの最大の特徴は、WINEを使ったWindowsの完全互換動作が可能という部分であり、その部分において同社への期待は高かったように思う。しかし、この部分はOSのバージョンアップとともにトーンダウンしていき、それに変わってStarSuiteのようなOffice互換のソフトウェアを提供する手段を提示するようになった。この提供手段を洗練させ、さまざまなソフトウェアを入手可能にしたサービスが、今日のClick-N-Runである。

 Click-N-Runであまたのソフトウェアを簡単に入手できるようにしているのは、サービスとしては悪くない。しかし、Click-N-Runを有料オプションとしてLindowsOSと分けて考えているのは、見かけ上の価格が安く見える程度の意味しかないように思える。エッジがLindowsOS 4.0日本語版の発売を発表した当初、このサービスでセキュリティアップデートも行うため、Click-N-Runは実質的に不可分だと考えていたからだ。

 板井氏によると、セキュリティホールなど緊急かつ不可欠なアップデートに関しては、Click-N-Runを介さず、Web上でパッチを提供する手段も用意することを検討しているとのことだった。公式のリリースではないとはいえ、これを信じるのなら、Click-N-Runを有料オプションとしている理由はほぼなくなってしまうといえよう。

 また、Click-N-Runの代替となり得て、かつフリーなものが非公式ながら存在している。これが発展していくようなら、Click-N-Runの存在意義が薄くなりかねない。

今後の展開

 筆者がLindowsOS 4.0日本語版のβ版を試用したときは、サポートしているハードウェア情報がしっかりと公開されていないこともあり、手持ちのハードウェアが満足に活用できなかった。いわゆるコミュニティが活発に機能しているのであれば、情報を探す術もあるが、Lindowsに関して、とくに国内では発売元のエッジにすら満足がいく情報が存在しておらず(ユーザーの意見を取り入れて品質向上を図る「インサイダー・プログラム」の中ではフォーラムが用意されており、そこにさまざまな意見が出てはいるそうだが)、それらの情報を探すことは困難である。そのため、製品版のパッケージを購入したとしても、自分が持つハードウェア資産が有効に使えるかという不安が残る。これはCDブートが可能な「LindowsCD」でも同様である。

 そのため、サポートするハードウェアの検証に時間がかかるのであれば、同社で動作検証を行ったハードウェアにインストールしたものを販売するビジネスを展開していくほうがビジネスとしては確実かと思われる。

 Lindowsを開発・販売しているLindows.comでは、LindowsOS 4.0の発表後、それらのソリューションを矢継ぎ早にリリースしている。前述のLindowsCDであったり、それをベースとしたHDDレスPC「Lindows WebStation」である。また、8月29日には「Lindows BusinessStation」と呼ばれる小売店や政府機関、企業、学校向けの低価格コンピュータを発表している。

 すでに日本でもLindowsCD 日本語版、Lindows WebStationの提供がリリースされており、今後Lindows BusinessStationと同様のサービスも展開されていくだろう。

 ともあれ、日本でも船出を果たしたLindowsOSの行方を期待して見守っていきたい。

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関連リンク
▼エッジ
▼Lindows.com

[西尾泰三,ITmedia]