エンタープライズ:ニュース 2003/09/18 12:05:00 更新


基調講演:プロセッサ革命で「ネットワークスケールコンピューティング」を招来するSun

SunNetwork 2003でパパドポラスCTOとプロセッサ開発を指揮するイェン執行副社長が、「Sunらしい」将来を語ってくれた。Sunは、優れたスレッド機能を備えるSolarisとスループットコンピューティングが同社に新しい市場機会をもたらすと考えている。

 米国時間9月17日、カリフォルニア州サンフランシスコで開催されている「SunNetwork 2003」カンファレンスは2日目を迎えた。顧客らの声に耳を傾け、彼らが直面する課題の解決を支援すべく、Sunは今週、Sun Java Systemをはじめとするさまざまな施策を打ち出した。

 しかし、同社の魅力の一つは、社内に優れたビジョナリーを抱えていることだといっていい。その最右翼は、先ごろ退社が明らかにされた共同創設者でもあるビル・ジョイ氏だろう。バークレー版UNIXによって分散コンピューティングの道を切り開いたジョイ氏。そして、カリスマの彼が果たした役割の多くを引き継ぐとみられているのが、グレッグ・パパドポラスCTOだ。

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Sunの新しいシステムへの移行を見守るパパドポラスCTO


 この日の基調講演でマーケティングと戦略を統括する執行副社長、マーク・トリバー氏が、現在ある製品や技術について多くの時間を割いたのに対して、パパドポラス氏は将来の「新しいシステム」について話した。

 彼によれば、同社は常にシステムの会社だったが、その意味するものが今後大きく変わろうとしているのだという。「ネットワーキングはまだ第一段階に過ぎない」とパパドポラス氏。

 10年から15年周期でシステムの在り方が変化してきたのは、ご存じのとおりだ。メインフレーム、ミニコン、PC、そしてSMP……。パパドポラス氏は、新しい10年を支える技術として、「Server-on-a-Chip」や「光ファイバー」を挙げる。

 「ハードウェアにSolarisを載せた、かつてのシステムは、ネットワークに接続されたボックスだった。しかし、将来の新しいシステムは、ネットワークによって構築される。ネットワークがセンタープレーンとなり、例えば、データセンター全体が一つのコンピュータになる」とパパドポラス氏。彼は、「ネットワークスケールコンピューティング」という呼び名を腹案として持っているという。

 ハードウェアだけでなく、ソフトウェアも変わらなければならない。数百万という同時ユーザーにも耐えられるようにネットワーク上にコンポーネントが分散し、運用上の課題も可用性、性能、スケールからサービスレベル、効率、そしてセキュリティへと変化する。

 そうした変化を見越し、対処すべく掲げられたのがSunのN1構想だ。そもそもOSは、1台のボックスに収められたCPU、メモリ、I/Oなどを仮想化し、アプリケーションから使いやすくする役割を担っている。N1では、こうしたOSの考え方をネットワークレベルに拡張し、ストレージ、処理能力、そしてネットワークを仮想化するものだ。

 パパドポラス氏は、データセンターを大きな1台のコンピュータに見立てた場合、N1のような仕組みがない今は、まるでOSがない状態だという。「OSは運用管理のスタッフではないか?」と皮肉る。

 同社のスコット・マクニーリーCEOが、初日の基調講演で強調したように、パパドポラス氏も「Sunには“コモディティ”という考え方はない」とした。仮想化によって、その内側にあるコンポーネントは、絶えず最適化が図られるべきだという。つまり、クルマのボンネットに収まるエンジンは常に改良が加えられているのと同じだ。

 その例として彼は同社が進める「スループットコンピューティング」計画を挙げ、プロセッサ開発を統括するデビッド・イェン執行副社長をステージに招き上げた。

スループットコンピューティング計画への自信

 イェン氏は、同社が今年2月、アナリスト向け年次カンファレンスで明らかにしたスループットコンピューティングが多くの期待を集めているとし、「それは正しい方向性だからだ」と胸を張った。

 現在の主流アプリケーションがスレッドレベルで並列化される中、プロセッサの集積度は一貫して高まっている。その一方で、メモリの遅延が追いつかず、そのギャップは広がるばかりだ。複雑さを増す一方のプロセッサのデザインは再考を迫られている。彼は、現在起こっているこうしたトレンドを指摘し、それらがぶつかり合い、ビッグバンを引き起こすと話す。

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千数百人規模のプロセッサ開発部隊を統括するイェン氏


 「Sunは20年前、ありきたりのコモディティでUNIXシステムをつくったが、その後、われわれはプロセッサのデザインを簡素化したRISCを開発し、スレッド機能を備えたSolarisを組み合わせ、SMPシステムの基盤とした。これには競合他社も追従した」と同社の革新の足跡を振り返る。

 そして次なる革新がスループットコンピューティングというわけだ。Sunは今後、UltraSPARC IVとVでコアのマルチ化を進める一方、買収したAfara Web Systemsの技術によって、「Niagara」と呼ばれるプロセッサをリリースする予定だ。この全く新しいプロセッサは、「Chip Multi Threading」(CMT)の概念を具現化したもので、現在のように1つのタスクを高速に処理する機能を追求するのではなく、同じダイの上にマルチスレッド化されたコアを複数個載せることによって、デザインの簡素化を図ろうというものだ。

 今週、IntelはサンノゼでIntel Developer Forumを開催しているが、Sunでは「これでItaniumに勝てる」と自信を深めている。しかも、同社にはWindowsやLinuxが及ばない高度なスレッド機能を備えたSolarisがある。

 「Solarisを持つわれわれが最も有利な位置にある。CMTはSunに新しい市場機会をもたらす」とイェン氏。

 Solarisからは、個々のプロセッサがまるでSMPのように見え、既存のアプリケーションを変更する必要はないという。

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[浅井英二,ITmedia]